1話
数ヶ月前……
どこかの寺院……
建物の大半は崩落し、残る部分も崩落とは行かずとも赤々と燃える炎に焼かれ消えようとしていた。
寺院の入口となる門の前にある石段は体の一部が抉り取られたかのような傷を負い血塗れとなり命を失い倒れる十数人の若者たちがいた。そして……
「師範!!師範!!」
門の前で1人の少年が酷く負傷し血を流し倒れる老人に何度も呼びかける姿が見え、少年の超えに反応したと思われる老人が震える手で彼の頬に優しく触れた後……その老人は息を引き取ったのか頬を触れたその手は力が抜けたかのように落ちてしまい、老人の手が自身の頬を優しく触ったことにより何かを感じ取った少年は涙を流すと獣が吼えるかのような声で天に向けて叫ぶしか無かった。
「あぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
涙を流し叫ぶ少年、その少年の姿を観察するかのように黒衣に身を包む何者かが遠く離れたところに立っており……
「対価は支払った。ならば後は戦国乱世の再臨を成すためにやるべき事をやるだけだ」
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現在……
1月となり新年を迎えた今日この頃、三賀日の賑やかさはどこかへ去ってしまい、新年の初売りとして盛大に振る舞おうとしていた街も普段通りのムードとなり営業を行っていた。それは当然飲食店にも言えることであり、ある商店街の中にある味のある風貌の建物の中華屋は時間的にもお昼ということもあって繁盛していた。
その中華屋に2人の少年が来店した。1人は赤い髪にピンク色の瞳、身なりとしては上下ジャージというお洒落とは無縁のような格好に両手首にブレスレットをしており、もう1人は黒髪に黒い瞳でジャージのセットアップの彼とは異なり黒のロングコートに青いマフラーを首に巻くというお洒落を意識してるであろう身なりをしていた。
「いらっしゃい!!」
「親父さん、2人で」
「おっ、今日はご友人も同伴かい?奥のテーブル空いてるから座って!!」
店内に2人の少年が入ると厨房から店主の男性が大きな声で歓迎の言葉を口にし、赤髪の少年が人数を伝えると彼が常連かのように男性は快く答え口頭にて席へ案内すると2人の少年は男性の言う空いてる奥の席へと向かうと対面する形で座って何を頼むか決めようとメニューを見ようとした。
「へぇ〜……ここが最近ハマってる店?」
店主の男性に友人と認識された黒髪の少年は店内を見渡すように色々見ながら赤髪の少年に話し掛け、話し掛けられた赤髪の少年はすぐに答えずにメニューを少し見たあとで彼の言葉に対して返事をした。
「たまたま立ち寄って美味かったからたまに来るってだけだ」
「いやいや大将、それハマってるじゃん?偏食の大将がまさかのこういう個人経営の飲食店に通うくらいのリピーターになるんだからかなり美味いんだろうね」
「そうかもな」
黒髪の少年の言葉に淡々と返したつもりの赤髪の少年だったが黒髪の少年は彼をよく知るのか彼が一度の来店で済まずに何度も通ってる事に触れながら料理の味について期待し始め、そんな彼の反応に対して赤髪の少年は多くを語ろうとせずに一言で済ませるようにして話を終わらせようとした。
赤い髪の少年、彼の名は姫神ヒロムであり、同伴している黒髪の少年は黒川イクトで彼はヒロムの友人という枠では収まらない深い関係にある。
ヒロムとイクトがさらに世間話のようなものをしていると店主の男性が注文を聞こうとやって来てまず2人に水の入ったグラスを渡し、グラスを受け取ったイクトは店主の男性にこの店のオススメの品が何かを尋ねようとした。
「ここのオススメってどれです?」
「ウチのオススメは自家製の餃子と特製ラーメンだ。よかったら注文してくれよ」
「じゃあオレはその特製ラーメンと餃子2人前で」
「ならオレは炒飯と餃子2人前で頼もうかな?」
「おっ、いつものだね。お客さん、もしよかったらいつもと違う炒飯食べてみないかい?」
「ん?炒飯っていっても種類ってそんなにありましたっけ?」
「少し前から新しいメニューとして若いもんが考えた豚キムチ炒飯ってのがガッツリ食えるってことで好評でね。よかったらいつも来てくれるお客さんにも食べてもらいたいと思ったんだ」
「へぇ、新しいメニューか……なら炒飯はそれで頼みます」
「あいよ!!こっちの提案に乗ってくれたお礼に餃子1人前サービスで追加しとくよ!!」
少々お待ちを、と店主の男性は注文を聞き終えると厨房の方へと戻っていき、注文を終えたヒロムが静かに水を飲んでいるとイクトは何故ヒロムがこの店に通っているのかについて色々考察し始めた。
「……なるほどね。人当たりのいいあの店主の優しさに魅入った感じかな?」
「何がだ?」
「大将がここに足蹴なく通う理由だよ。気難しい大将にとってはこの店の店主の優しさと客には等しく接しようとしサービス精神のあるあの人を気に入ったんだよね?」
「どうかな……というかオレのことを『大将』って呼んでくれるのは構わないけど場所を選んで呼び分けてくれないか?傍から話を聞いたと思うと『大将』と『店主』が紛らわしいしオレからしたら店主のことが大将になるから色々頭の中で処理が増える」
「そうかな?オレは区別つくけど?」
「そりゃ呼ぶ側はややこしさなんかと無縁だろ……まっ、2年もその呼び方され続けてそれを受け入れてるオレのせいでもあるのかもな」
イクトの考察について曖昧な答えを返した後でヒロムはイクトの自分に対する呼び方について多少のややこしさがある事を伝えようとするもイクトには響いていないのか不思議そうな反応を見せ、イクトのその反応から今更言っても無駄かと諦めが入ったヒロムは彼の呼び方を受け入れる自分も自分だとしてそれについては広げようとするのをやめた。
そうして他愛もない話の1つが終わったその時、店内へと新しい客人が来店し、その客人は店主が案内するよりも先に奥へと進み入り、客人は何故かヒロムとイクトのもとまで来ると彼らの隣のテーブルへと座ってしまう。
陰陽師を思わせるような意匠の服に身を包み、紫色のマスクで口元を隠した毛先が所々紫色に変色した茶髪の青年はその風貌から店内においてかなり浮いたものとなっていたが彼が隣に座るとヒロムはため息をつくなり青年を横目で見ながら彼に話し掛けた。
「……悪目立ちしてる自覚あんのか?」
「オレが何を着ようが自由だろォ。それにィ、オマエが通うこの店に興味があッて来てみたんだよォ」
「来た理由は聞いてない……というかアンタまで訳の分からないことを」
「まァまァ、落ち着けェ。それよりィ、オマエたちのランチの金はオレが払ッてやるから少し話に付き合ッてくれねェかァ?」
「……アンタがこんなところに来てまでしたい話って何なんだよ、鬼桜葉王?」
「少々ゥ、厄介な事が起き始めててなァ」
風貌が変に目立つ青年の事を『鬼桜葉王』とヒロムが呼ぶと彼はヒロムに対して何やら面倒があったかのような言葉を口にし、その言葉を受けたヒロムとイクトは彼が何やらただなるぬ事を話そうとしてると察すると2人揃って水を飲むなり真剣な顔となって話を聞く姿勢となって彼からの話を聞く意思を見せようとした。
2人が話を聞こうとその気になったのを確認した鬼桜葉王は何か言うでもなく頷き、そして彼はヒロムとイクトへ自身がここに来た旨を含めて語り始めようとした。
鬼桜葉王の語る内容、これを聞くと意思を見せたヒロムとイクトだったが彼らはこの時知らなかった。これから彼らはこの男の話す内容によって何かを失う事になるかもしれないことを……