第9話 魔王と勇者、親子のやりとり
「ふぅ~暴れた暴れた!ザコ魔族ばっかで楽だったな~!」
「ですが先程の戦闘はどうかと…」
「なんだよギャーゴ?文句でもあんのか?」
「魔族の大群のド真ん中に飛び込んでご自分もろとも超級魔法で攻撃に出られたら、文句のひとつも言いたくなります」
「超級魔法って範囲広いから避けるの面倒なんだもん。それに俺一人で片付けた方が早いし」
「確かに早いですがむちゃくちゃなんですよ!!残りの敵は殴る蹴るでしたし!」
「いちいち魔法唱えてたら時間かかるじゃねえか、俺の子が待ってるのモタモタしてられっかよ!」
「そうですけどもぉ……頭のそれは拭いたほうがいいと思いますよ」
「フェンリアおっまたせ~!」
「ワーオ無視ですか」
賑やかな話し声が聴こえる……でもなんだか頭が重くて目を開ける気にならない。
「ぴぴい!」
「フリルただいま~!フェンリアは…あれ?寝ちまったか」
そっか、眠ってるから頭が重いんだ……ソファが気持ちいいからつい寝ちゃってた。
不思議な夢をみた気がするんだけど、思い出せない…。
「って寝てる!??ヤベーよ!俺の子の寝顔!超かわいいんだけどォォ!!!」
「ケルベリウス様声が大きいですよ!起こしてしまったら―」
「うるっせえなギャーゴ!!!フェンリアが起きちまったら可哀想だろうがっ!!」
「ここまで理不尽に怒られたのは初めてです」
まだ眠いけど起きたほうがいいな、余計騒がしくなるから。
「…二人ともうるさっ!?うわぁぁ!!?」
「よおフェンリア!おっはようっ!」
「何がおっはようだ!流血沙汰で挨拶するなぁ!!」
「だから拭けと言ったんですよワタクシは…」
「へへっ!驚かせちゃってごめんなぁ!父さん血ぃ拭くの忘れてたぜ!」
「ヘラヘラしてる場合じゃないだろ!アンタなんでそんな元気なんだよ!?」
「それはほら、父さんは魔王だから!」
これでもかってくらい適当な答えが返ってきた…。
「……魔王でもなんでもいいからちょっと頭を下げろ」
「なんだなんだ?犬耳触りたいの??」
「ヒーリング」
集中できないから無視をして癒し魔法を唱えた…けっこう深い傷だから一回じゃふさがらないか。
「フェンリア今の…癒し魔法?」
「完全に治るまで重ねて唱えるから、じっとしててよ」
「ありがとなフェンリア!!おまえに癒してもらえるなんて父さん感激だぞぉぉ!!!」
「じっとしてろって言ってんのに抱きつくなぁぁぁ!!」
『フェンリア、たっだいま~!』
『お父さん!おっかえ…っ!?』
『ど、どうした!?いきなり涙目になって!!』
『お父さんおなかっ!ち、血が…』
『あ、寄生虫型の魔族がうざかったから抉り取ったんだった。まだ血ぃ出てたか』
『いやだぁ!!お父さんが死んじゃうぅぅ!!』
『このくらいじゃ死なないって!よしよし…』
『やだやだぁぁ!ヒーリング!!』
『おぉ!?フェンリア癒し魔法を覚えたのか!』
『……もう大丈夫??』
『大丈夫だぞ、ありがとな!』
「…何ニヤニヤしてんだよ?ほら、治ったぞ!」
「おう、ありがとな!」
「まったく……誰かさんが僕の力を弱体化させなければもっと簡単に治せたのにな~」
「ははっ、力下げてるから下級魔法が限界だよなぁ」
「下級どころか初級の魔法すら唱えられなかったんだよ、力を下げられた直後は」
だからテューラァにバレないように家で魔法の練習をしているんだ…旅禁止中は休むように!って徹底してるから。
「…ヒーリングなら小さい頃も使ってたよな?魔力低くても簡単に」
「へ?そうだっけ?」
「4歳くらいの時にさ、今みたいに父さんに唱えてくれたろ?」
「うーん…」
「ケルベリウス様の妄想じゃないですか?」
「え………あんな可愛い思い出が妄想の訳がないだろ!!ふざけんなギャーゴ!!」
なんだろう可愛い思い出って…全然わかんない。
「それはそうとすみませんでしたフェンリア様。あほイヌ様がものすごい早さで歩くので、ワタクシは会話をするのがやっとでして」
「癒し魔法で治す暇がなかったんだね。でも何をしたらこうなるの?」
「ケルベリウス様は魔族との戦いに呼び出されたんです…妹様から」
妹ってことは……僕の叔母さんか……魔王族の。
「まあ怪我は相手からではなく、ご自分の魔法攻撃で負ったのですがねぇ。大雑把で困りますよ本当に」
「ギャーゴてめぇ余計なこと言うな!しかもさっきどさくさに紛れて『あほイヌ様』っつったろ!!」
「そんなことで怒るなよ…無茶をしたのは自分なんだから」
「ほら!フェンリア様もおっしゃってるじゃないですかぁ」
「ぐっ……っていうかフェンリア、ギャーゴにはなんか優しくない!?」
「だって話通じるし常識人っぽいんだもん」
「しかしフェンリア様はこれからどうなさるのですか?勇者は普通、自国を護るために魔王討伐を目指しますが…討伐しなくても平和ですもんねぇ」
「今のところはね……王様が言うには、アステリシアに勇者の神託が降りたことには何か意味があるらしいんだ」
父親が魔王になったなら自分が討伐しないとって思ったのが、勇者になったきっかけでもあるんだけどね…。
「ケルベリウス様の強さがわからない愚かな魔族でも現れるのでしょうかねぇ…もしくはアステリシア王家の邪気を払う力が弱まってしまうとか」
「どちらにしても強くなっておいたほうがいいから、騎士団の手伝いとか魔物退治の旅をするよ」
「そうだな、父さんのほうも魔族に変な動きがないか警戒しとくからな!」
「……まあ…それも頼むけど………」
「ん??」
「母さんにも会ってよ…今は遠征に出てるから王都にいないけど、帰ってきたらアンタのこと話すから………母さんもホットケーキ好きだし」
「……わかった、三人でホットケーキ食べような。今度こそ約束だ」
つい最近まで父親のことをまったく覚えていなかった僕が、こんなことを言うなんて不思議だな…。
「よし、約束もしたことだし!」
「え?…なんだよこの頭の上に置いた手は」
「しばらく会えなくなりそうだから~…っと!!」
「うわぁ!?ちょっ、グシャグシャするなぁ!!!」
「よしオッケー!また来いよ、てっんそう!」
「二度と来るかぁぁぁ!!!!!」
今まで以上に頭を撫でまくられて強制ワープで転送された。
なんか…………めちゃくちゃ疲れた…。