第7話 言わんこっちゃないトラブル
僕の父親は他人に感心が無いから、怨まれるほど誰かと関わることはない…なんて大きな間違いだった。
「本当にごめんなさい…リプロさんのお母さんに散々失礼なこと言って…」
「あなたが謝ることではないですわ。あなたの父親本人からの謝罪でないと許しません」
「だよね……今度連れてきて一緒に謝ります」
「連れてくる?あなたにお父様は10年前に行方不明になっていますわよね?」
「だ、だからその!なんとしてでも見つけ出して来るから!!」
実はもう見つかってて、何故か魔王になってましたなんて言えない…。
「…もういいですわ」
「え?」
「新人勇者さんがどういうお方なのかわかりましたから。それに…一生懸命に謝られると罪悪感が込み上げますわ……意地悪がすぎたかしら、と」
「小娘よ…もしやお主フェンリアをからかいおったのか?」
「ええ、私のお母様は過去のことを笑い話として語っただけです。怨んでなんかいませんわ」
「……だけどリプロさんは、大好きなお母さんが馬鹿にされたみたいで嫌な気持ちになったよね…」
僕だって騎士団に所属している母さんが馬鹿にされるのは嫌だ………魔王をやってる父親が馬鹿にされるのも……嫌、なのかな。
「そうやって人の気持ちに寄り添うことができるのは、心に光があるからですわね」
「…今のは勇者要素としてカウントしていいの?」
「もちろん、いいに決まっていますわ!」
なんだか強引な辻褄合わせの様な感じになっちゃってるけど……リプロさんのお母さんを否定したくはないから、素直に喜んでおこう。
お茶も飲み終わって今日は解散となり……帰り際にリプロさんが、青色の布をくれた。
「この布は?」
「布ではなくスカーフです!」
「…こんなに大きいのに?」
「オーダーメイドで作ってもらったのですが…ちょっとした発注ミスですわ。かと言ってマントにするには無理がありますし……無理に受け取らなくていいですわよ」
「無理なんてしてないよ、こうやってマフラーにするから大丈夫!ありがとうリプロさん!」
いくら僕がひねくれ者でも、せっかく贈ってくれたものを突っ返したりしない。
後から聞いたけど、これは精霊の力が宿った生地で作られているから身に着けていると受けるダメージを軽減してくれる優れもの。軽装備を好む僕への配慮だろう。
値段もけっこうしたんじゃないかな……ちゃんとした勇者になることで返していこう…。
「それにしても、驚きであったなぁ」
自室に戻って一息ついていたテューラァがため息交じりに言った。頭にはご機嫌な様子の小鳥、ビビィを乗せている。
知らない人に絡まれるのが苦手なテューラァは本当にびっくりしたんだろうな。
僕は僕で、父親とはいえイヌ魔王を庇うようなことを言った自分に…。
「フェンリアの御両親はケルべリウス殿の片想いから始まった仲だったとは」
「どこに驚いてんのさ」
「驚くといえばもうひとつ。裏庭にこんなものが落ちていたと、メイドが…」
メイドさんが拾ってきたのは見覚えの無い魔法カードだった。
「僕は持ってない柄だ、リプロさんが落としたのかも……あれ?」
「見ての通り、このカードは表に何も書かれていないのじゃ」
普通魔法カードは、表に記してある文字や絵でどんな魔法が入っているのかわかるのに…。
「まあ発動させればなんのカードかわかるじゃろ」
「それはそうだけど……ねえテューラァ、何やってんの?」
「このカードに魔力を込めておるのだが?」
「だ、駄目だよ!それリプロさんのかもしれないし、危ない魔法が入ってたら…」
「お主は人のことになると心配性じゃな。たまには自分の……っ!?尋常じゃないくらい光出したぞ!!?」
「テューラァ!カードを離せっ!」
光り出した魔法カードをとっさにテューラァの手から払う。
カードを目で追うとそのまま床に落ち…………光が消えた時にはアステリシア城の床ではなくなっていた。
床どころか周りの景色全部違う…ここはどこなんだろう。
「フェンリア!?どうしてここにいるんだっ??」
え、イヌ魔王?
「アンタがいるってことは…魔王城?」
「まさかまた無茶してここまで来たのか?駄目だぞ~、いくら父さんに会いたいからって危ないこと…」
「ちっがうっ!!!この変な魔法カードが発動してここに来ちゃったんだよ!!」
強制的にワープする魔法が入っていたにしても、カードに何も書いてないのはおかしい…。
「変??……うわっこれ『パニクルゼ』のカードじゃねえかっ!」
「パニクルゼ?」
「何が起こるかわからないルーレット魔法だ。魔物をいっぺんに片付けてくれることもあれば、味方全体の体力が一瞬で尽きることもある」
一発逆転を狙う魔法か…リスク高くて怖いな。
「そんな危険な魔法カードを使ってまで父さんに会いに来るなんていじらしい子だな~まったくぅ!」
「だから違うって言ってんだろ!」
「あ。そうだフェンリア、お腹空いてない?」
「空いてない」
「父さんがホットケーキ作ったから、あっまいハチミツかけて食べようぜ!」
「空いてないってば…」
「隙あり~!」
「むぐっ!?」
こんのやろう、いきなり口に押し込みやがった………なんか懐かしい味がする?
「どうだどうだ??美味しいか?」
「くあひいけど…ういひぃ…」
「悔しいけど美味しいか~!良かった良かった!」
「………食べながら喋ったのによくわかったな」
「だって俺、お父さんだぜ?」
どんな理屈だよ…。