第16話 怒りの瞳と見守る瞳
なんだか嫌な予感がしたのです………マディク先生の仕事部屋の扉を開けた私が見たのは、床で倒れているテューラァ王子と……
「買うよ、その喧嘩…さっさと終わらせてやるっ!!!」
と声を上げ、マディク先生に向かってテーブルを蹴り飛ばしたフェンリアさん。
「おっと!…そうきますか、てっきり扱いやすい下級魔法で様子を見るかと」
「そんな甘い攻撃するか!」
今度は椅子を蹴り上げ、先生は再び避けました。けれど…。
「!?これは…」
「遅いっ!!」
壁に椅子がぶつかった衝撃で、飾られていた額がマディク先生の足元に落下したのです。
そして隙ができた先生に回し蹴り……よく見るとフェンリアさんは、両手を縛られた状態で無理矢理戦っていました。
「お強い勇者様だ……ですが、私に近付きすぎましたね…シャイニングクラッシュ!!」
マディク先生が唱えたのは光属性の上級攻撃魔法…普通に考えて至近距離で受け止められる威力ではありません。
「……っ…」
フェンリアさんは先生の前で膝をつきましたが……その瞬間、二人の周りに闇が満ちました。
「この感じは…闇魔法……ではない?」
「…上手く扱えなくても、これだけ…近ければっ、当たる……」
「まさか、古代魔法!?やめなさいフェンリア君っ!自分がどうなるかわかっているのですか!!」
「うるっ、さぃ…ヘルフレアっ!!!」
魔王族の文献に載っていた『闇』と『炎』2つの属性を兼ねた古代魔法と呼ばれる地獄の業火。
…フェンリアさんがご自分もろとも放った黒い炎が消えるとマディク先生も膝をついていましたが、フェンリアさんは立ちあがり…火傷をおった両手を見つめて拳を握りました。
「はぁ、はぁ……光の鎖を、燃やせた……これで…まだ、戦え…るっ…」
「お待ちください!シールドウォール!!」
私がとっさに唱えた魔法の防御壁は、フェンリアさんの拳でほとんど壊れましたけど……ちゃんと止まってくださいました。
「…リプロさ、ん?」
「大丈夫です。あなたはもう充分戦いました、ご友人を護るために…。ですからそんな顔をなさらなくていいのですよ、仔犬さん」
「仔犬さん…は……やめて、よ…」
今の戦闘での怪我と、古代魔法を使った疲れで限界だったのですね…ゆっくり休んで下さい。
「気を失いましたか……いや~、あの状態のフェンリア君を正気に戻すとはさすがお嬢様です」
「お母様が使う言霊を真似したのです。上手くいくかはわかりませんでしたが…」
「なるほど!今のフェンリア君が言ってほしいであろう言葉に、魔力と霊力を乗せたのですね」
「フェンリアさんの瞳には怒りだけではなく…自身への戸惑いと怯えも映っていましたから…………ではマディク先生、説明して下さる?」
「何をですか~?」
「この状況をですっ!だいたいお察しはしてますが!」
「え~と、おもしろ半分でフェンリア君を挑発したら、ぶちギレさせちゃいました!」
ビックリするくらい想像通りでしたわ……はぁ、なんてことを…。
「そこに倒れているテューラァ君も、魔法で眠らせただけなんですがねぇ……お茶に毒を入れましたって言ったら信じちゃって」
「テューラァ王子の事ですから眠りに落ちて倒れる瞬間に頭でもぶつけて、それが本当に苦しそうな表情に見えたのでしょう」
「フェンリア君が素直すぎたのもあるんじゃないんですか?本来は少々ひねくれている性格ですから、あっさり引っ掛かるなんて意外でしたけど…」
「よっぽどマディク先生を殴りたかったのですね、まわりが見えなくなるほどに……悪ふざけがすぎますわ先生」
「こうして超級癒し魔法をかけているのですから、許してくださいよ~」
「許しません!怪我は癒せても心に傷は残るのです!それに…古代魔法を使った代償も…」
「そこも私が責任を持ちます。お嬢様もご存じの通り、私は多種族にわたる治療士です」
「わかりました、ですが治療以外は変な事をしないで下さいね」
「おやおや、信用ありませんね~」
「当たり前です」
マディク先生はお給料カット決定ですわね…。
読んでくださってありがとうございます、戦闘描写が入ったこの話でまた一区切りです。
ファンタジー小説なのにバトル要素少ないのは作者の私が上手く書けないからです、本当はもっとしっかり入れたい…更新はゆっくりですが、次回もよろしくお願いします。