第12話 夕焼けの港街
結局僕達は旅の練習と情報集めも兼ねて、港街フォルトへ向かったんだけど…。
「城の庭よりハンパなく広いのじゃ!!どこまでも走り続けられるぞ!!」
「テューラァむやみに突っ走るなよぉ!!魔物もいるから気を付けないと危ないって!!」
「……何事ですの?あのはしゃぎようは」
「えーっと…テューラァって基本アステリシア城から出ないし、城下町とか近くの森くらいしか行けないんだ。遠出する時は従者の人も一緒で、王家の馬車で移動するから…自由なのが嬉しいんだよ」
「だからといってあそこまでテンションが高まりますの?」
いつもお城の中では王子として落ち着いてるぶん反動があるんだ……そう説明したらリプロさんは不思議そうな顔をした。
「あのテューラァ王子に落ち着きを感じた事などありませんが?」
「…本当はね、リプロさんが見てるテューラァも普段と少し違うんだ。あいつけっこう人見知りだから、話慣れてない人には普段通り喋れなくて…」
「私への喧嘩腰な態度は警戒心から来ているのですね……とんだ箱入り王子ですこと」
「フェンリアー!!向こうにあるドラゴンの形をした岩がすごいのじゃ!岩なのに動いておるぞ!!」
「動く岩?…なんでこんなところにストーンドラゴン!!?テューラァ近づくな!!それ魔物だからぁぁぁ!!!」
「……大変ですのね、勇者って」
アステリシア王都からフォルトへの道は弱い魔物しかいないはずなのに……何故かわりと強めのストーンドラゴンがウロついてて、危なかったりしたけど無事に目的地に到着した。
「着っっっいたぁ!!港街フォルト!」
「ちょうど夕陽が沈む時間に着きましたわね」
「オレンジ色の海が綺麗だね~、テューラァも早く来なよ!」
僕とリプロさんは街の入り口にある高台で海を眺め…その下ではテューラァがヘトヘトになっていた。
「…余の足はもう限界じゃ、近くの街だと思って…甘く見ていた、ぞ…」
「あなたがご自分で無駄に駆け回って体力を使ったのでしょう」
「テューラァは見たこと無いものに弱いからね」
「まさかストーンドラゴンに近寄るほど無知だとは思いませんでしたわ」
「仕方ないよ~、ストーンドラゴンって見た目はカッコイイもん」
「そうですか……やっぱり男の子ってドラゴンがお好きなのでしょうか…」
僕は見た目的になんとなく翼がある魔物が好きなんだけど…うーん、男子がみんなそうなのかな?
「それに!どういうわけか腿から下まで足が痒いのじゃあぁぁ!!」
「たくさん歩いて血流が良くなったんじゃないかな?」
「日頃運動していませんのね、やっぱりお年寄り王子ですわ」
「確かに城での訓練も不定期じゃったが………くっ、何も言い返せぬ…」
「大丈夫だよ、すぐに体力もついてくるから」
ラグナ族の僕が異常なのもあるけど、テューラァはエルフの血が入ったシアエルフ族だから運動自体が苦手なのかもしれないね…。
「の、のうフェンリア…余の鞭さばきはどうじゃった?足手まといか??」
「そんなことないよ、訓練通りに戦えてたじゃないか」
「確かに体力はありませんが一応戦えることに驚きましたわ。王子なのに扱う武器は鞭ですし…」
訓練の先生に、テューラァは剣を使うより鞭で中距離支援をするほうがいいって言われてるんだけど……リプロさんに体力が無いことを指摘されたからかちょっとムスっとしている。
「…そうじゃな、鞭なら貴様のようなお嬢様のほうがお似合いだ」
「あらあら、素敵な褒め言葉ですわね!」
「鞭が似合うと言われて何故喜ぶのじゃ!?褒めてはおらぬぞ!!もしや貴様そういう……なんと悪趣味なっ!」
「悪趣味…?ねえテューラァ、鞭ってそんなにうろたえるほどの武器なの?」
「お主は知らんでよい!鞭の知識など頭に入れてはならぬ!!」
僕が知らない鞭の知識ってなんだろ……。
「…そうだ武器といえば、リプロさんが持ってる武器初めて見たよ。扇みたいなやつ…『てっせん』だっけ?」
「ええ、鉄扇は剣ほど重くなくて使いやすいのでお気に入りですの。降りたためば鈍器にもなりますし!」
「笑顔で恐ろしいこと言いおったぞ」
「リプロさんって魔法専門だと思ってたから意外だったけど、二刀流みたいでカッコ良かったよ!」
「魔力が切れた時に困りますから、ある程度の攻撃手段を持つのは当然で……ふふっ!」
「え??」
「あまりにもキラキラした瞳を向けてくるので……あなたのお顔が仔犬に見えてきて…」
こ、仔犬…。
「仔犬になつかれた気分ですわ!」
「撤回しろォォ!!!フェンリアは貴様になついてなどおらぬわっ!!」
………そこじゃなくて仔犬って部分を撤回してほしかった……。