第11話 小さな旅立ち
今朝はいつもより遅く起きて、散歩をして本を読んでのんびり過ごした。
昨日の今日でさすがに疲れたからね……今後の話し合いをしにアステリシア城へ向かったのは昼過ぎ。
「やったぞフェンリア!父上から旅の許可が降りたのじゃ!」
僕がゆっくり過ごしている間…テューラァは王様に旅の相談をしたらしい。
第二王子のテューラァが旅に出ることを王様が許可したのは、リプロさんの予想通りの理由だった。
「さっそく旅の準備をせねば!フェンリアの療養期間中に最初の目的地も決めておくぞ!騎士達の話では北の山に魔物が…」
「テューラァちょっとストップ!王子と一緒に旅に出るんだから僕からもちゃんと王様にお話しないと!!」
だいたい僕の療養期間っていつまで続くのさ…弱体化の影響で体に負担が掛かっていたけど、もう充分休んだからいい加減普通に鍛練とかもしたい…。
「それに僕達は旅の素人なんだ。まずは王都周辺の街や村を目指して旅に慣れていこうよ……一番いいのは経験豊富な冒険者から教わることだけど…」
僕は学園で習ったキャンプやサバイバルの知識くらいしか持っていない……師匠みたいな存在がいたらいいのにね…。
「ならば冒険者ギルドに行ってみるか?」
「……旅についてきてくれそうな人はいないと思う」
「古株の商人はやる気があったじゃろ?あやつ、なかなかの体格であったし盾に……おっと」
「ねえ今『盾にしよう』って言おうとしなかった?」
「冗談じゃ。妻子持ちを盾にしたりせぬ……じゃが商人は旅の仲間として頼りになると思うぞ?」
「でもあの商人のオジサン、王様に頼まれた品物を湖に落とした事があるとか…」
「ふむ、いつだったかあやつが城を出禁になったうっかりエピソードじゃな……仲間にしたら父上に怒られそうじゃのう」
うっかり商人のオジサンをフォローしながら旅を続けるなんて絶対難しいだろうな。
ーごんっ!
「ぐあ!?」
「え?テューラァ大丈夫?」
突然テューラァの頭にカラフルなボールが当たった。軟らかそうだから痛くはないみたい。
「なんじゃこの怪しげな色のボールは!?たいして痛くないがビックリしたぞ!!」
「…あら?賑やかだと思ったら、あなた達でしたのね」
城壁の上からリプロさんが顔を出した………どうやって登ったんだろ。
「先程お母様へのお土産をこちらに飛ばしてしまいましたの、手のひらサイズのボールです」
「貴様かァァ!!余にこれをぶつけたのはっ!!」
「ぶつけてしまったのは想定外ですわ。申し訳ありません。でもそのボール、色鮮やかで素敵でしょう?」
「こやつ本当に申し訳ないと思っておるのか…」
地面に転がったボールをまじまじと見てみると、色鮮やかすぎて目がチカチカしてきた。
「えーと………派手で…良いと思うよ」
「フェンリア、無理に褒めんでいい。というか貴様は港街に帰ったのではなかったか?」
「うっかりお寝坊をしてしまい、予定の馬車に乗り遅れましたの」
「…それって昨日の件で夜更かししたからだよね……ごめん…」
僕が謝るとリプロさんはすかさず城壁からこっちに向かって飛び降りて、風魔法をうまく使って着地した。
「謝られても困りますわ、私は元々朝が苦手なのです。フォルト行きの馬車は他にもありますし…少し観光をして夕方の馬車で帰ることにしたのです」
フォルトはすぐそこだから、夕方の馬車でも夜までに帰れるんだよね……あ、でも…。
「確か今日は警備隊が見回りに出る日じゃから、馬車の運行は昼までで終わっておるな」
「なんですって!?それでは帰れませんわ!」
「どうしても今日中に帰りたいの?」
「明日になってしまうと急激に運気が下がりますの!!」
「なんじゃ占いの話か……ならば明後日になってから帰れ」
「あまり予定が狂うとお母様が心配します!」
「…なら歩きになっちゃうけど、僕が送ってくよ」
朝起きれなかったのはやっぱり昨日の事が原因だと思うから、これくらいはしないと。
「わざわざ送るほどの距離ではなかろう?」
「でも一人だと魔物に出くわしたら時間がかかるし疲れちゃうよ」
「……さてはお主、そのまま余を放置して旅に出るつもりじゃな?」
「いや…そういうつもりは………だったらさ、テューラァも一緒に行く?ちょうど王都付近から旅慣れしていこうって話になったんだし」
「お待ちください。たいした距離ではないといってもいきなり歩いて大丈夫ですの?お年寄り王子の体力は…」
「誰がお年寄り王子じゃ!!余はまだピチピチの17歳じゃぞ!」
「あらそうでしたの。ご無礼をお許し下さい、若年寄り王子」
「それ言いにくくない?ピチピチ王子とかのほうが…」
「フェンリアまで何を言い出すのじゃァァ!!!」
ここまで読んでくださってありがとうございます。
作者と同じくゆっくりマイペースなメンバーですが、次回はようやく旅に出ます。壮大な冒険ではなくあくまで練習のつもりで出掛けるので半分はほのぼのしてます。もう半分はちょっとシリアスに見えるかもしれません、お楽しみいただけたらと思います。