1~10話
イヤホンから聴こえてくる潤った歌声が耳を満たしている。周りの視線の先にはきれいな桜の花が舞っていて、まるでこの俺を皮肉っているようだった。
「この学校綺麗だね」
「そうだね、私たちのいた学校とは大違いだよ」
「あの学校が汚かっただけだよ。あっ!そういえばあとで体育館だよね」
そんな会話が高積雲のような柔らかい香りに包まれるとともに後ろのげた箱から聞こえてきた。すると右側から少しおびえたような声が聞こえた。
「あの…すいません」
左右であべこべな世界を聴きながら黙って会釈をした。そして再び自分の世界に一つになった。
周りを見渡し人がたくさんいる壁際の方に進み名前が書いてある張り紙を眺め”高橋 真翔”の文字を探した。だがやはり一筋縄では見つからない、変わった名前が多いせいで余計に見つけにくい。周りのスペシャルな人たちが少なくなるまで迷惑にならないちょうどいい場所を見つけて待つことにした。下駄箱から校内に上がってくる人たちの視線を受けながら待ったおかげで自分の名前を確認し、割り振られた教室にたどり着くことができた。
丁寧に50音順に並べられた名前に従って皆席に着いているのを真似して俺も席に着いた。一息ついたその時、右の肩にやさしい衝撃が1度感じられた。そちらを見てみると、体をこちらに向け左手の人差し指を軽く曲げてこちらを指さす少女の姿があった。口をパクパクさせている彼女を見て俺は慌てて携帯の電源を切って両耳についている耳栓を取った。
「ごめn…聞こえなかっt…」
「あっ…すいません、何でもないです」
(いったい何だったんだろうか、いやがらせなのかそれとも何かの罰ゲームなのか、それにしても久しぶりにこんな体験をしたような気がする、しかも星空に浮かぶ真ん丸な月のようにきれいな人だった。もう二度とこんな機会は無いだろう。)
しばらく教室の中で待っていると明らかに制服ではない服を着ている人が教卓に立ち、偉そうに話し始めた。
「新入生の皆さん、初めまして私の名前は”今浪 由美子”といいます。よろしくお願いします。そして、高校入学おめでとうございます。皆さんとゆっくり話したいですが、知っての通りこの後すぐに体育館で入学式があります。貴重品だけ持ってすぐに体育館に移動してください。あっそうだ、今のうちに携帯電話の電源を切っておいてください」
今までなるべく教室にいないようにすることが多かった俺は、いち早く体育館へ向かった。道中今浪先生の声が聞こえた。
「あぁ、昨日は久しぶりに一瓶全部空にしてしまってな、まだ頭が痛いよ」
体育館には一面ブルーシートが敷かれていてその上に何百というイスが規則的に並べられていた。偉そうに指示を出す大人に従い学生は席に着いていく。
(正直式典は退屈だ。いったい俺以外の生徒は入学早々勝手に振り回されて何を考えているのだろうか。周りの表情を見る感じまゆ一つ動かさず静かに座っている。何とも思っていないのだろうか。だが、人は表で平然としていてもそれは本心とは違う、裏では何を考えてるかわからないものだ。だからこんなことを考えるのはやめよう。)
式が進む途中前の人が定期的に頷いてるのが見えた。きっと先ほどの問いの答えは『何も考えてない』が正解なんだろう。
「これから皆さんに何枚かプリントを配った後少し連絡をして解散にします。」
体育館から戻ったら早速今浪先生が話し始めた。連絡の内容は日直がどうとかこれからの授業がこうだのというどうでもいいようなものだった。
帰り際自分のげた箱の前で柔らかい香りがして左を見たら、満月のようにきれいな今朝の少女と目が合った。今朝はうつ向いていてよくわからなかったがよく見てみると隣の席の人だった。
「あっ…あの…今朝はぶつかってしまいすいませんでした。」
そう言うと彼女は走って帰ってしまった。
俺は乾いた耳を潤し別世界へと旅をした。
黒い雲が見渡す限りの空を覆う日、大通りの見える人気のない横道を使って登校していた時に前方で倒れている人を見つけた。前日に降った雨で道には斑点模様のように水溜りができていたためその人は大変汚れていた。
(俺は基本面倒ごとは避けたい人間だと思ってる、だが、このまま前に進めば間違いなく面倒なことになる。ここは一旦来た道を引き返して別の道を使う方が得策だな)
後ろに体を向けようとしたとき偶然と倒れている人が起き上がり目が合ってしまった。真翔はため息を一つついた。
「大丈夫ですか、お怪我はありませんか」
「あっ…はい大丈夫です。ありがとうございます。」
近寄って見えた顔は、入学当日に三回謝罪をしてきた少女で間違いなかった。
(俺は何をしてるんだろう、今まで俺が人を家に呼んだことなんて人生で一度もなかったのに、学校でちょっとぶつかっただけの人を簡単に家に上げてしまうなんて、おかげで入学してすぐに皆勤賞はなくなったよ。まぁしょうがないな、今のうちに服用意しとくか)
妹の部屋に侵入し適当な服を選ぶ姿はまさに変態に見えるだろう。完全犯罪とはこういうことを言うのだと身をもって実感した。
ゆで卵のように張りのある肌をこれでもかと見せつけながら妹の服を着て俺の前に現れた少女は、季節外れの天の川を頭になびかせ床を見ながら感謝した。
「ありがとうございます…お風呂だけでなく服までも貸してもらえるなんて申し訳ないです。あの…もしよかったら…あの……何かお礼をさせてください」
(この子は今自分で何を言ってるのかしっかりと認識できているんだろうか。これがもし俺じゃなかったらどんな事されてたかわからないぞ、いや、別に変なことなんて考えてないし、俺だって理性のある人間だし、大丈夫だ落ち着け俺)
「急には思いつかないから思いついたらその時に伝える」
この時の自分に盛大な賞賛を送りたい。
その後、少女は学校に欠席の連絡を入れて自宅へと足を運び、俺は再びあの道を通り学校へ向かった。雲の色が少し薄くなってる気がした。
「遅刻の理由を教えてくれるか」
「人助けです…」
「わかった、席に着け」
ちょうど三時間目が始まる時間、教室の中で注目を集めながら俺は席に着いた。なんだか今日の教室はぱっとしない、何かが起こる前触れのようにも感じられた。
四時間目の数学の時間が終わり学校全体に穏やかな時間が訪れる。親が作ってくれた弁当をいつもと変わらずに自分の机の上で一人食べる。今日は一段と独りを感じた。
ほとんどの人が昼ご飯を終えて活発に活動し始める昼休み後半、俺はいつも通り一人携帯を触っていると、教室の窓側後ろが何やら騒がしい、横目で様子を伺うと会話が何かのスポーツのように白熱してしまっていた。どうやら二人で対戦していたゲームで邪魔が入ったという趣旨の会話をしてるらしい。
「最初に一回だけって言ってたじゃんいい加減にしなよ」
「何言ってんだよ、お前も見ただろ対戦中に俺の携帯が手から落ちたのを、あんなのは無効試合だ、もう一回やるぞそしたら必ず俺の方が強いって証明できる」
「手から携帯が落ちたことも含めて実力、運が君にはなかったんだよ、君は弱かったの」
しばらくの間口論が続きそろそろ誰か止めに入ると思っていた時『ふざけんなよ』という怒号とともにガラスの割れた音が教室中に鳴り響き、一瞬にして静まり返った教室の中には隣のクラスのいつもと変わらない賑やかな会話が聞こえてきた。
しばらくして今浪先生が教室に駆け付け事態の収拾を図り何事もなかったかのように皆五時間目の体育に向かっていった。
更衣室に向かっている途中に保健室の中から顔立ちがとても整っている比較的脊の高い優しそうな男と何もかもが平均的な陽キャっぽい男が出た来た。平均的な男の左腕には白い布が何重にも巻かれているののをイケメンの男が心配そうに眺めていた。その光景を眺めていると包帯を左腕に巻いた中二病らしき男が話しかけてきた。
「ガラスが割れたのってうちのクラスだよな、だれが割ったかわかるか、もしかしてお前じゃないよな」
「俺じゃないよ、割ったの男子だよ、名前はわからない」
俺から話を聞いた中二病は早歩きで更衣室の方へと消えていった。後を追うようにして俺も体育館に向かった。
静かな体育は俺たちのクラスに湿った空気を運んできた。
汗をかいた体のせいか湿度の高い更衣室をいち早く抜け出して帰路についた。
「ただいま」
「お帰りお兄ちゃん」
そう言葉を交わすと妹は俺を避けるように部屋に戻った。
(なんか今日、結衣のやつそっけないな、きっと学校で友達と喧嘩でもしたんだろう、あとで何があったか少し探ってみるか)
部屋で漫画を読んでいると扉が3回ノックされて開いた扉の向こうには妹が立っていた。
「お兄ちゃんちょといい」
「何かあったのか」
「私の服がなんか無くなってるんだよね」
俺は一瞬にしてすべてを察した。朝とは違う暗い妹の表情、帰った時のそっけない態度、つまりこれは俺が原因だ。
「しかも、洋服一式が丁度無くなってて下着も気に入ってたやつが無くなってて…」
「それは残念だったな、きっとそのうちまた出てくるよ」
俺の体中から汗が噴き出していた。
「実はね、漁られた痕跡があって、私いつも引き出しは半開きのままにしておく癖があるんだけど、学校から帰ってきたらちゃんと閉まってたの」
「そ、そうか、それは怖いな」
「お兄ちゃん…隠してないで自白しなよ。汗だらだらだしキョドりすぎてて気持ち悪いよ」
(がぁぁぁぁ、俺ってそんなに顔に出やすいタイプなのか、いや、むしろ出にくいタイプだと思う、小学校の担任にも『もっと表情豊かにしましょう』と通知表に書かれるくらいだ。だとしたらさすが俺の妹だな)
「ゆ…結衣…これには訳があって…」
そこまで言ったところで勢いよく扉が閉められた。
(俺の人生は今をもって終わってしまった。神様、次は動物園でちやほやされるパンダになりたいです。だけどここまで積み重ねてきた人生だ、とりあえず最後までやることはやろう)
俺は妹の部屋の前でひたすら謝ったが中から反応はない、ノックして入ろうとしたが扉が1ミリも動かなかった。
いったん部屋に戻ってじっくりと作戦を練ることにした。
部屋に戻って作戦を考えてるときふと小腹がすいてリビングへ食べ物を探しに行った。冷蔵庫の中を見ながら自分の好みの食材を探していると、昨日の夜ご飯の残りの漬物が目に入った。
(これはラッキーだな、確か冷凍庫の方にご飯があった気がしたな、これで漬物ご飯で夜ご飯まで耐えることにしよう)
レンジで解凍した白米は出来立てのような湯気を上げながら今すぐに『俺を食べろ』と言わんばかりにそこに光り輝いていた。そこに冷蔵庫から出した漬物を乗せ口へ運んだ。口の中で漬物のしょっぱさとあたたかい白米の甘みが混ざり、無駄な味が一切ない純粋なおいしさ。すぐに口の中から消えてしまう味に箸が止まらなくなってしまった。気づくとお茶碗の中には白米は残っていなかった。
(白米に漬物を乗せただけなのにこんなにもおいしくなるとは、おいしさというのはここまで人を豊かにされるのか、食事というものはとても素晴らしいものだ)
俺は妹の部屋の前に立って扉に向かって話しかけた。
「なぁ結衣、今から俺コンビニ行ってくるんだけどなんか食べたいものないか、何でも買ってやるぞ」
中の音が急に騒がしくなった、と思ったらゆっくりと扉が開き、その奥には満面の笑みの妹が佇んでいた。
「行こ、お兄ちゃん」
「お、おう…」
(なんだこいつ、急に態度変えるじゃん、最初から何か買ってもらうのが目的だっただろ絶対、こういう図々しく生きるところはとても素晴らしいと思うんだけど立場的になんか微妙な気分…なんだこいつ)
「いらっしゃいませー」
挨拶を快く全身で受け止めて店内の奥に足を延ばした。
昨日妹に財布の中身をほとんど持っていかれたせいで本日土曜日に予定されていた『みんな仲良し、ボウリング大会』という高校のクラスの生徒で行われる親睦会に参加できずにいた。
(昨日、結衣のやついつにもまして機嫌が良かったな。まぁそのおかげなのか理由を話したら簡単に許してくれたからよかったが。…それにしても急に予定が無くなると暇だな、受験勉強であまり運動できてなかったから少しその辺ランニングでもしてくるか)
以前までは週に1回ランニングをしていたが受験生の大義名分である勉強という超まじめな物事に本格的に取り掛かるにあたって仕方なく運動しなくなっていった。久しぶりに走る街の中は何一つ変わらない景色だった。
(あれ…こんなにきつかったっけ…公園の給水所までは余裕で走れてたはずなのに…まだ半分じゃん…もしかして俺…歳か⁉)
そんなことを考えて走っていたらいつの間にか公園に着いていた。公園の中に入り水を飲んでいつものように近くにあるベンチで休んでいると、金髪で巻き髪、さらに白い肌というどこかの物語の中から出てきたんじゃないかというほどテンプレな女の子が右往左往しながらこちらに向かってきて、俺の前に堂々と仁王立ちをし、はっきりとこう言った。
「そこ私の場所なんだけど」
「どういうことですか」
「ここいい感じに暖かいから11月から6月までは私の場所なの、わかったなら早くそこどいて」
(なんということだ、11月から6月なんて俺がこのベンチで休憩する期間と被ってしまっている。ここは俺が前々から見つけていた最高のポジション、まさかほかの人に見つかってしまうなんて…もしここでこの位置を譲ってしまったら俺はこれからランニングするたびに寒さとの戦いになってしまう、絶対にこの場所は守って見せる)
「この場所は…」
彼女に反論しようとした俺に金色の艶やかな糸が勢いよく落ちてきた。
太陽の仕事が一日の後半に差し掛かった時、俺の膝の上には物語のお姫様の頭が乗っかっていた。
「おい、どうしたんだよ、大丈夫か」
「心配するなら早くそこをどいてほしいんだけど」
彼女の倒れ方はとても演技を疑う余地はなかった。ベンチの上を渡し彼女に話を聞いた。
「どこか悪いのか」
「大丈夫、私低血圧なだけでいつもここで散歩の途中に休んでるの。今日はうっかり寄り道をしちゃったってわけ」
「そうか、それは大変だな」
(低血圧なのか、そういえば昔に友達と遊んでた時俺が柵に頭をぶつけて血が大量に出た記憶がある。その時自分の頭から出る血を見て死を覚悟したな。気を失って気づいたら病院のベットの上で、少し歩くだけですぐにフラフラになるほどに血圧が低くなってた。この子は今その状態なんだろう)
「それよりいつもいなかったのに何で今日に限ってここにあんたがいるのよ」
「ランニングの休憩だ」
「そう、じゃあ早く行かないと足に乳酸たまって走れなくなるわよ」
「さっき目の前で人が倒れたんだ、この場を離れられるわけないだろ」
彼女の刻むリズムが遅くなるのを感じた。
「あなたってロリコンだったのね」
俺はこいつを置いて家に帰ろうとか思った。
それからは一言も話さないまま時間が経過した。彼女は見た目に似合わず老婆のようにゆっくりと立ち上がり水道の方へと向かった。蛇口をひねった彼女のもとに透き通った水が向かっていく、その水に彼女は腰を丸めてキスをした。その光景はどこか現実離れしたファンタジーの世界の姫のように見えた。その後、彼女は『ありがとう』その一言を残してまっすぐに公園を出て行った。
いつもより長い時間をかけて帰る道のすれ違う人たちはなんだか嬉しそうに見えた。
「高橋君ちょっといいか」
朝のホームルームが終わり、1時間目の授業の準備をしようと教室の外にあるロッカーに物を取り良くふりをして人のいない教室から脱出しようとしていた頃だった。黒板の方から嫌な声がし、恐る恐る見てみると案の定今浪先生がこちらを見ていた。俺は身柄を抑えられた容疑者のように供託へと向かっていった。
「どうしましたか」
「部活には入らないのか」
「今のところは入らないつもりです」
「そうか、別に無理にとは言わないが部活に入るのも悪くないぞ。もし心変わりしたならいつでも言ってくれたまえ」
「わかりました」
(何でここまでしてこの人は部活に入れたがるのか、確かこの学校のパンフレットに生徒の入部率が99%以上という売り文句がでかでかと1ページに書いてあった気がしたな。きっと部活動に入らない生徒がいたら教師側に何らかのペナルティがあるのだろう。これからしばらくは部活の押し売りが始まるんだな)
授業の準備をするため廊下にあるそれぞれに割り振られたロッカーの中に物を取りに行った時、つい天の川に見惚れてしまった。こちらに気づいた少女は慌てて教室の中に逃げて行った。落ち込みながらロッカーの物を逃げて行った少女を追うようにして隣の席に置くと、右側から少女の声が聞こえた。
「あの、真翔くん」
してるはずのない耳栓をしてないことをしっかりと耳で確認しながら少女のほうを見た。
「この前はありがとうございました。これ、借りたお洋服です」
差し出された紙袋の中には菓子折りが入っていてその上に白い封筒が入っていた。中の妹のお気に入りの下着が見えないように洋服一式が巾着袋に入っているようだ。
「わかった、この上の箱はお礼の品ってことでいいの」
「はい、そうです」
(この菓子は結衣が喜びそうだな)
その後ロッカーまで1往復して席に着いた。
外に見える高積雲はいつも通り浮いていた。
4月も終わりかけているある日の昼休み、俺は一人楽しく親が作った弁当を頬張っていた。親が作る弁当は弁当箱一杯に食材が入っていて、特に今日は今にも溢れ出そうなほどにたくさん入っていた。そんな食べにくい弁当を食べ終え、鞄の中から携帯を取り出そうとしたときに傾けた体にぶつかる人差し指があった。その指の持ち主は大事そうに左手の指を抑えていた。
「あの、私が休んだ時に何かあったんですか」
「何でだ」
彼女はいつも通り賑やかな教室で誰かに命を狙われているかのように静かに言った。
「今日、クラスの雰囲気が悪い感じがします」
(感じていたのは俺だけだと思ってたけど他の人もわかるものなんだな)
「実は金曜日に…」
俺は金曜日にあった窓ガラスが割れたこと、そのガラスでクラスの人がけがをしたこと、その前後のこと、すべてを話した。話し終わった頃には5時間目の授業が始まる時間になっていた。彼女はこの話を聞いて何を思ったのか、俺にはわからないままだった。
放課後、居心地の悪いこの場所をいち早く離れようと一番最初に教室を出ると、後ろから怒鳴り声が聞こえた。すぐに耳栓をして聞こえないふりをした。
暗雲立ちこむ帰り道、潤った耳に異世界からの声が聞こえる。
「……くn…とくん…真翔君‼」
左の肩に強い衝撃が来て、振り返るとそこには同じ制服を着た俺より10センチほど身長が高いであろう顔が整ったイケメンがいた。そいつはかなり息が荒くなっていた。
(こんなイケメンがわざわざ走ってまで追いかけてきて俺に声をかけるなんて、とうとう俺の時代が来てしまってのか。さすがの世界でも少し気づくのが遅すぎなんじゃないのか、俺じゃなかったらキレられてるなこれ)
「なに」
「実は今、君が学校にいないから大変なことになってる。お願いだ、ついてきてくれないか」
「何があったんだよ、俺が何かしたのか」
「ここで説明するより現場を見た方がきっと早いと思う」
「なんか怖いんだけど大丈夫か」
「大丈夫、何かあったら俺が守るよ」
俺はときめきかけながらそいつの後ろを歩いた。