第八夜
こんな夢を見た。
私はある宗教団体の長であった。
この宗教団体はカルトではないのだが、
しかし、大きくなりすぎた。
もう私の手に余るだろう。
そう思うと、不安なことがでてくる。
この団体に属しているものはどうなるのか、
ということだ。
私が、この宗教を終わらせるといえば、
幹部の武満が黙ってはいまい。
私達が、抑えている彼の憎しみは、今にも溢れそうだ。
それを開放することになってしまうだろう。
彼はこの宗教を乗っ取り、武力によって、
この国に大打撃を与えようとするかもしれない。
彼には要注意だ。
私を、深く信望している明知はどうだろうか。
彼を救ったのはこの団体だが、無くなるとどうなるのだろうか。
他に、受け入れてくれる団体を探そうとするだろうか。
それは、明知に限った話ではないか。
この団体に居るみんなは、どうするだろうか。
絶望するのではないだろうか。
この宗教で稼げるだろうと、
魂胆していた銀次とは浅い付き合いだった。
彼のような人は、すぐ去っていくだろう。
そういう人を除けば、私は、
もう一度宗教を作り直して、皆を救えるのではないだろうか。
わからない。
数の問題でもない。
問題は、私が責任に耐えきれないことだ。
そう、解体する必要はないのではないか。
しかし、
解体しないのだとすると、まずいことになる未来が見える。
信者たちのことを想い、信者が望むことを私が言えば、
この宗教は、すぐにカルト化するだろう。
私は、信じている。
性悪説を。
そして、私自身を信じていない。
私は、小さくありたかった。
その話を、誰にも打ち明けることができない。
皆、敵なのだ。
すぐに敵になるのだ。
悲しいことにも。
どうすればいいだろうか。
私が、いいことふうに、
困っている人を救いましょうなどと言えば、
自然と崩壊してくれないだろうか。
いや、無理だろう。
教祖は狂ってしまわれてた。
と言われて、次の指導者がどこからか現れる。
そして、教団は乗っ取られて、
なにをしでかすかわからない爆弾になってしまうだろう。
今の宗教の教義はかんたんだ。
宗教に属している人を助け合いましょう。
食べ物は、残さず食べましょう。
それだけしか言ってなかった。
ただ、私が、家族で得られなかった温もりを欲したがために、
宗教が大きくなり、取り返しがつかなくなってしまったというわけだ。
献金をし、そのお金で、小さな家を建て、
食べ物を格安で、出した。
小さな家を建てるときには、
親が残した土地を、使った。
そうして、小さく生きていた。
何故か大きくなり、
建物も二回り大きくなり、
収集もつかなくなった。
私一人でどんなに悩んでも答えが出なかった。
助けが必要だ。
そのことを、旧友に打ち明けた。
旧友は、すげえな、俺も幹部になれる。
そう言ってきた。
そうじゃないんだ。
教団を壊したいんだ。
手伝ってくれないか。
飲みながら答えた。
いいじゃないか、誰も困ってないんだろ。
それより、俺を幹部にしてくれよ。
儲かるんだろ。
ちょっと、仕事でやらかしてな。
首になりそうなのよ。
だからさ、俺を幹部にしてくれ。
話は同じようなことを繰り返し、
私は、無駄を感じた。
失敗だっただろうか。
何度も断るうちに、旧友は怒りだした。
私は殴られた。
やっぱり、性悪説は正しい。
打ち明けるべきではなかった。
その後、お金はこちらで払い、
店を出たら、お互い、そそくさとその場を逃げた。
殴られた痛みは、実感を伴っている。
そうだ。
人は本来悪いのだ。
私が導かなければ悪くなってしまうのだ。
教団を、もっと、
いい方に導こう。
私がやらなければならない。