第五夜
こんな夢を見た。
屋上で一人、たそがれた気分で弁当を食べている。
私は、一人になりたかった、誰とも会いたくなかった。
そんな理由で屋上に来ていた。
ここに来るのはたまにだ。
普段は、一緒に食べに行ったりする。
たそがれたくなった時に来るのだ。
最初の頃は、影で食べていた。
それは、誰か来ても、一人のままでいたかったからだ。
そのうち、屋上に上がってくるやつがココにはいないことがわかってきて、
堂々と、日向にいながら食べたり、大の字になってみたり、
空をぼんやり眺めたり、遠くを見つめたりするようになった。
ここは落ち着く。
気になったことがある。
なぜ自分以外屋上に来ないのか。
すると、ある男性が飛び降り自殺をしたことがあるらしい、という。
それで怖がって、誰も来ないという噂だった。
本当だとは思えない。
だいだい、自殺者がでたのなら、
この建物を解体とかするんじゃないだろうか。
そのことのおかげで、
私の、寂しさが紛れるなら、
それも良しというものだ。
死にたかったものが死んでも私には関係ないのだ。
だから、どうしたというのだろうか。
階段を急に駆け上がってくる音がかすかに聞こえた。
屋上のドアが開く音がした。
その後から、呼び止めるような声が聞こえた。
私は、まだ、孤独な黄昏に浸っていたかったから、
振り向かず、足を前に出すように座って、前を向いていた。
弁当はもう片付けてしまっていた。
私の横を、女性が走っていき、
屋上の柵を手をかけた。
その女性は、私の上司だった。
責任感が強く、いい上司だった。
失敗を犯した時に、助けてもらったことが二度あった。
そのことは今でも覚えている。
私の手足は動かなかった。
口も動かなかった。
動いていたのは、耳だけだった。
柵を乗り越える音、階段を駆け上がっていく音、
風の音、怒声、静かに動く私の心臓の音、
それらが、聞こえた。
上司は、柵を乗り越えた。
向こう側に言ってしまった。
そして、屋上の扉を見て、
そのとき、ようやく私に気づいた。
私は、さぞ間抜けにうつっただろう。
足を伸ばし、手は地面をつき、顔もだらんとしている。
こんな顔を見て、今やっている行動をやめてくれないだろうか。
そんな思いが表情に出てくれないだろうか。
口が動かない。
表情で説得できないだろうか。
怒声が、近づいてきた。
屋上に人が溢れたようだ。
足音がたくさんする。
「ありがとう」
上司は、私を最後に見て、そして落ちていった。
それから、私は、なにかいたたまれなくなって、
昼の時間になると、毎日、屋上を訪れた。
この会社は打ち壊しだという。
上司は、私に恨みを残していったとは思えない。
だから、恐くなかった。
私は、この寂しさを噛み締めながら、
あの日見ていた、その曇り空に祈る。
そ~、が多い