1 持ち込まれた相談
☆☆高校には相談部という部活動が存在する。活動はその名の通り相談を受け、それを解決するというもの。☆☆新聞を毎月発行する新聞部よりは知名度では劣るものの、それでも多くの生徒にとって学校生活では重宝する部活だ。
新聞部でも同様の活動をしてはいるが、天才肌が多い部活の為か、敷居の高さを感じさせる。
一方の相談部は、生徒からもある程度の経験と人気と信頼を持つ生徒が相談という事に特化して活動しているので、大分敷居は低いのだ。
兼部している生徒が多い相談部だが、現在兼部をしていないのは井藤雅子と御中佳奈実の二人だけだ。
基本的に兼部生が部に役職を持つ事は禁止されているので、必然的にその二人が部長と副部長になっていた。
七月に入り、夏休み間近のこの時期、相談部は意外と忙しいのだが、今年はそれに拍車がかかっていた。
先月の23日、丁度井藤と御中の二人の教室がギンギンに冷やされていたあの日、教室の掃除用具入れから猫の死体が発見された。
保健所に持っていったが、どうやら噛み殺されていたらしい。
井藤と御中は一応エアコンがついていた事、そして教室の扉に開かないように仕掛けがしてあった事を話したが、特にそれがどうという訳でもなく、そのまま只の偶然が重なったものとして処理された。
そしてこの日を境に相談部は忙しくなっていた。
なぜだか相談の内容には奇妙な傾向が見られた。
それは動物。鼠の死骸の臭いを消すには。ペットのウサギを探してほしい。小鳥が何羽も怪我をしていたからどうしたらいいか。チワワがいつもの散歩コースを歩きたがらなくなった。夜勉強していると犬の鳴き声が煩いのでどうすればいいか。などなど。
同様の相談が相次いだがそれも今日までだ、と井藤と御中の二人は考えていた。
明日からは夏休みに入り、部活はそれが明けるまで休みとなる。
そんな休みが待ちどうしい日に、ある相談が持ち込まれた。
コンコン
二人が部室でくつろいでいると扉がノックされた。
「どうぞ」
そう部長の井藤が言うと、一人の女子生徒が入ってきた。
「失礼します」
ショートの黒髪で背が高く、しっかりとした体格から彼女が体育会系である事が窺える。
「水野緋与さん、ですか。ここに座ってね」
淡い緑色のテーブルクロスのかかった机の近くに椅子を置きながら、御中が彼女、水野に席を勧める。
井藤は水野が座るとほぼ同時に彼女にティーカップを差し出す。
水野はそれに会釈をすると、一口飲んだ。
対面に井藤と御中が座り、井藤が話を切り出した。
「水野さん、彼氏の勝君とは上手くいってる?」
「えっ、あっ、はあ、まあ」
突然の事に顔を赤く染めた彼女を微笑ましく見ながら、井藤は話を続ける。
「それで、水野さんは私達に何の相談なの? まさか飼ってるペットが、とか?」
「あ、はい。そうです。何でそれを?」
井藤達は驚き、顔を見合わせた。それに構わず水野は話し出す。
「えっとですね、相談というのは、私の飼っているミーちゃんを殺した犯人を捕まえてほしいんです」
早々と聞く体制になっていた井藤が聞く。
「ミーちゃんって、何者なの?」
「ミーちゃんは私が飼っているペットです」
「ああ、そうじゃなくてさ。ウサギ?」
「そうです。先輩、よく分かりましたね」
ひっそりと溜め息をつく井藤。この性格、素でも故意でも面倒だ、と思った。
「それで、私達は別に構わないんだけど。水野さん、警察とか役所とかに行った?」
「警察、には行ってないですね」
「それじゃ、役所には行ったのね」
「いいえ。何で行かないといけないんです?」
井藤は頭を抱えたくなってきた。
代わりに御中が聞く。
「ところでさ、どうして殺されたと思うの?」
「あ、その事ですね」
そう言うと水野は鞄から一枚の写真を取り出した。
「これを見てください」
なぜか白黒写真だったが、その情景は充分に認識できた。
どうやら家の中に置いたケージを撮影したもののようだ。その中に黒いウサギと思われる物体が写っている。
「このウサギが、ミーちゃん」
「はい」
井藤はそう確認すると、御中と共に写真を観察する。
ケージの周りは絨毯が敷かれ、奥には扉の閉められた棚がある。写真に写っているのはそれだけだった。
ウサギはよく見ると白と黒の斑点になっている。詳しくは分からないが黒いのは血液だろう。ウサギの周囲にもそれは広がっているが、ケージの外には出ていない。
「成程」
井藤はそれだけ言うと、椅子に座り直した。御中は写真を手に取りじっと見る。
水野は説明する。
「その写真を撮ったのが一昨日です。私達が買い物に行っている間にこうなっていて」
「ということは、もしかして、通称、密室とかいう状況なの?」
御中が視線を水野に向けながら聞くと、返ってきたのは肯定の返事だった。
「はい、玄関は勿論ですけど、窓も全部閉まっていました。あ、あと、エアコンがついていました。消してから出掛けたはずなんですけど」
その答えを聞いてまた顔を見合わせる二人だった。




