シャルの秘密
俺達がガードアントの大群に苦戦している時に前方から大きな爆発音が聞こえた。
「なんだこの音は!」
少し離れたところで戦っていた傭兵の1人が目を見開いて驚いていた。
俺も理由は分からなかったが、ガードアントの数が減ったのでありがたいと思った。
「良く分からないけど、このまま殲滅するぞ!」
「うん!!」
俺は切れ味が落ちた長剣を無理矢理使いながらガードアントを倒し、シャルは的確に相手を釣り俺の元に上手く当てる。
この事を繰り返して数を減らしていると少しずつ有利に傾いたので周りの戦闘職と結託して戦況を変えていくが……。
「これなら押し切れる!」
俺はガードアントを倒し切ったと思った時に横から上位種のハードアントの噛みつきを長剣で受け、ボキッと鈍い音がした。
「ぐっ、長剣が折れたか」
流石に硬い物相手に使っていたので折れるのは仕方ないと思ったがこの状況はマズイ。
「ユート!」
「なんとか大丈夫だ!」
俺は体当たり攻撃をして来たハードアントをギリギリで回避して、首元に折れた長剣を思いっきり刺して絶命させる。
「チッ」
ハードアントはなんとか倒せたが、メイン武器が無くなったのでかなりキツイ。
そう思っていたが、シャルがある物を俺に渡して来た。
「ユート、落ちていた長剣だよ!」
「ああ、助かる!」
シャルから死んだ傭兵が使っていた長剣を鞘ごと投げ渡して来たので、鞘から引き抜いてガードアントの攻撃を受け流して内部を指して殺す。
「かなりギリギリだな」
俺やシャルも無傷では無く所々から血が流れているが、他の前衛よりはマシなので戦闘を続ける。
「はぁはぁ……。なんと減って来たね」
「た、だな。ガードアントはどれだけ倒したか分からん」
ただ、体力的にかなりキツイのは目に見えているので続行出来るところまで戦い、限界間近まで戦った時にはグレイスの街を襲ったガードアント達の大半は殲滅された。
ガードアントと上位種の討伐が終わった時には救護班があちこち走り回っていたので、俺とシャルは救護テントの中で治療された。
「正直回復職がいれば良いのですが、そんな貴重な人はこんな辺境なはほとんどいないのですみません」
「いや、回復ポーションを回してくれるだけありがたいです」
回復ポーション・錬金術術が作る魔法の薬。ランクにもよるがある程度の傷は治せる優れ物。ただ値段が高い。
このアイテムを2人分用意してくれたのはありがたいが……。
「この戦いでかなりの人が死んだよな」
「うん、ボクが見ているだけでも数十人は確実だね」
人が死んでいくところを見るたびに悔しさと吐き気がしたが、そんな余裕は無かったので見ないようにしていた。
「後は今回は運良く耐え切れましたが次はどうなるかわかりませんからね」
死人の話はあまりしたく無いのか、治療してくれた人は俺達の手当が終わったらすぐにテントから出て行った。
そして、俺とシャルが残されたので簡易ベッドに横になりながら適当な会話をする。
「シャル、お前はシャツの中に何か巻いているのか?」
俺は若干胸のところが盛り上がっているシャルに質問すると驚きの回答が返って来る。
「うん。今はサラシを巻いているよ」
「サラシね。なんかシャルが女に見えて来たのは気のせいか?」
「え、なんで分かったの?」
「……は?」
「え?」
俺はシャルを見て思わず唖然として固まってしまう。
シャルの衝撃の事実を知った俺はフリーズしていたが、なんとか思考を再起動する。
「えっと、シャルは女なのは間違いないんだよな」
「そうだよ。まあ、ボクは男装していから分からなくても仕方ないよね」
いやいや、俺が今までシャルにやった事を考えるとヤバイのだが……。
そう思ってどうするか悩んでいると本人が口を開いた。
「ユートを騙しているようで悪かったけどボクは女でも大丈夫かな?」
「別に仕事には影響しないだろ」
この回答が俺に出来るギリギリだったが本人は満足そうにしていたのでセーフだと思った。
「それで、ボクの秘密も知ったからユートの秘密を教えてよ」
「秘密、なんの事だ?」
「とぼけなくても良いよ。ユートの職業が普通の剣士ではない事は分かっているからさ」
そっちか。俺が異世界から来た事までバレていたら終わりそうだったので心の中で安堵する。
「ハァ、分かった。俺の職業は上位職の上位剣士だ」
俺はポケットに入っている組合登録カードを取り出してシャルに見せる。
「……え? てっきりボクは中位職だと思っていたのに、まさかの上位職なの!?」
「ちょ、落ち着け!」
今にも飛びかかって来そうなシャルをなんとか抑えて続きを話す。
「上位職が当たりなのは知っていて周りに知られたく無かったんだよ」
「それは確かにそれはあるね。上位職ならかなり使える分類だからね」
正直、互いに衝撃事実だったので相手の事で唖然としていたが、最終的には納得したのでよかった。
そして、今日はこのままテントの中で寝る事となった。
迎撃戦の次の日。俺達はテントから出て朝飯をどうするかで悩んでいると、炊き出しがあったので美味しくいただいたき、壁の外に出て死体の片付けを手伝う。
「魔物の死体は剥ぎ取って使えるところは使う。人の死体はリアカーに乗せて纏めるか」
「かなり重労働だね」
俺とシャルは魔物の死体を集めてからリアカーに乗せて剥ぎ取りする人の所に持っていく作業をする。
「今回のガードアントと上位種を含めて軽く2000は超えているよね」
「だな」
この惨劇を見ると俺達は良く街を守れたと思い、リアカーに魔物の死体を乗せて運んでいると少し遠くから何か大きな声が聞こえて来た。
「組合職員に戦闘職ども! 魔物が街を襲う事がわかっていてオレ達住民を非難させなかったのは何故だ!」
「「そうだ! そうだ!」」
……この人達の意見は間違っていないが、言う相手は間違ってないか?
俺はそう思いながらその人達を見ていると案の定、戦闘職の人達がブチギレた。
「お前ら、誰が魔物と戦って街を守ったのか知っているか!」
「はぁ、守っただと? ならなんでオレ達に被害が出ているんだよ!」
このままだとマズイが、俺達に出来る事はないな。俺はシャルに首を振った後にこの場を離れる。
〈補足〉辺境都市グレイス
人口約4万人。辺境都市で特産品はあまり無いが小さな村が点々としているので、その中継地点みたいな感じ。