批判の嵐
ハイタル鉱山から撤退して街(名前はグレイス)になんとか帰って来たが、俺達を含めた全員の表情が死んでいたのとここまで魔物が発生しているとは思わず舐めてかかった総合組合には批判が殺到して炎上騒ぎになった。
そして、炎上騒ぎが終わるまで俺とシャルは宿屋に閉じこもる事になった。
ーー
あれから総合組合の炎上騒ぎがかろうじて収束した数日後。総合組合はハイタル鉱山の魔物討伐依頼を他の街にも出したが、先陣の傭兵達の状況が噂になって中々進まない状況になった。
俺とシャルも鉱山には行きたく無いのでこの数日間は武器を新調したり、ホーンディアやツノウサギ(本名はダッシュラビット)を狩ったりして路銀を稼ぐ。
「一つの事で批判が殺到するのは何処でも変わらないな」
「だね。ボクが前いたところでも批判は多かったよ」
権力はあるとはいえ、数の暴力で批判されると辛いところがある総合組合。
それと数が集まれば勝てると思った人達の末路も気になるが、俺達は関わりたくないので無視している。
「総合組合がグレイスから撤退したら詰むのはコッチなのは明白なのに、何故分からないのかな?」
「それは簡単。今までは鬱憤のぶつけどころが少なかったけど、簡単にぶつけられて悪者に出来るところが出来てみんながソッチ行ったんだよ」
まあ、俺の予想だと付け加えるとシャルは一つ頷いた後、街の人達を見ながらため息を吐く。
「このまま鉱山の魔物が討伐されないとこの街に大きな影響が出るね」
「その片鱗は既に出ているけどな……」
俺達は総合組合の建物内に入って周りを観察するが対応で追われている職員、文句を言いまくっている人達(職人達メイン)の怒号が聞こえて来る。
俺達は目立たないように買い取り部門に素材を渡して報酬を貰い、そそくさ総合組合を出ようとした時にある言葉が発せられた。
「使えない雑魚傭兵達を使って討伐に行きましたで大きな顔をして証明するな!!」
「「そうだ、そうだ!!」」
……おい、戦ってもいない奴らが言える言葉ではないぞ。
その言葉を聞いた近くの傭兵達が案の定、批判している人に突っ掛かり大喧嘩が発生した。
「ユート、この状況が続くなら他の街に行くのも良さそうだね」
「確かにそれはアリだが、根本が解決しない限りは変わらないと思うぞ」
今回の根本は鉱山の魔物が全部討伐される事。それをなんとかクリアしないとこの状況は続くのは目に見えている。
「ガードアントと大アリ(本名はハードアント)をどうやって全滅させるの? 前に戦った時は最低でも20匹はいたよ」
「それなら簡単。向こうが数ならコッチも数でゴリ押しすればいいだけだ」
ガードアント1匹なら第五級傭兵と互角くらいなので、その辺の傭兵を金で雇って戦わせたら多分終わる。
「その方法だったら楽だけど、そうなると多額の予算がかかると思うけど」
「うん、そこが間違いなんだよ」
俺は近くあった椅子に座りながら思っていた考えを言う。
「確かにシャルの言葉もあっていると思うが、ここで予算を使わす放置しているとドンドン問題が進んで取り返しのつかない事になるぞ」
「取り返しのつかない事? ガードアントが増えまくるの?」
「それだけならいいが、ガードアントが大量に増えるとどうなる?」
ここでシャルに問題を出すと、本人は少し考えた後に顔が青ざめた。
「もしかしてグレイスの街に侵攻して来るとか?」
「最悪の場合はそうなるな」
馬車で3時間程の場所にある鉱山から侵攻してくるとなるとかなりヤバい。
この事をシャルと真剣に話し合っているとたまたま通りかかった組合職員が顔を真っ青にしながらコチラを見た。
「その話は本当ですか!?」
組合職員が俺の肩をガッチリ掴み、かなりの強さで揺すって来たので思わず。
「最悪の場合を想定しただけで、早く討伐しないと大変な事なる可能性が高いと思っただけですよ!」
少しキレ気味に喋ると組合職員が俺から手を話して唖然としていた。
「他の街からは援軍は来ないし、グレイスの街にいる傭兵達は次々と街を出ている。このままだと衰退する一方だ」
いや、衰退する前に他の事で終わりそうだが……。俺はこの言葉を言いかけるが、なんとか抑えて椅子から立ち上がりシャルを連れて総合組合から出ようとして、やはり呼び止められて前に連れて行かれた会議室?に半ば強引に放り込まれる。
「あの、なんで雑談していた俺達が連れて来られたのですか?」
嫌味を言って組合職員を睨むが、向こうはそんな視線をお構いなしに早口で喋ってくる。
「今はその辺にいる傭兵達の意見も大切なのですよ! それに私は貴方達と一緒に鉱山に行っていた職員なので現場を知っています!」
あー、そういえばそうだ。正直、どうでも良かったから忘れていたがなんとなく思い出した。
「私はそんなに目立たないですか?」
「目立つ目立たないよりもこれからの対策を考えた方がいいと思うよ」
シャルの切り捨てる発言に組合職員はノックアウトされた表情になったが、ここで無駄に時間を使うのは面倒なので無理矢理話を進める。
「それで本題はなんですか?」
「……あの、自分の話を聞いてましたか?」
「聞いてはいたけど確認は大切だと思いまして」
一応覚えてはいるが、繰り返し聞くのは大切だと思って確認する。
「確かにそうですね。では、もう一回話しますね」
話は聞きたくないが早く帰るために俺とシャルは頷き、組合職員がさっきと同じく早口で喋り始める。
「まずはガードアントと上位種への対策ですね。今グレイスの街にいる戦力は国軍が500、衛兵が1500、傭兵が300前後です」
「……あの、戦力の事をボク達に話されても意味がないと思うよ」
「シャル、土台から潰しにかかるな」
確かに意味がないと思うが、聞いておいて損はないと思ったのでシャルを止める。
「えっと、とりあえず続けますね。今は2000人程の戦力はあるので、今のガードアントの規模から考えると余裕だと思ってます」
「それで組合側として何をやりたいのですか?」
なんか取ってつけたような言われ方をしているのが面倒になり、思ったことをストレートに伝えると組合職員は顔を曇らせる。
「あの、今までの話を聞いて何も分からなかったのですか?」
「分かる、分からない、よりも何故この話を聞かされているかが分からない」
さっきはシャルと止めたが、ここまで来て理由が分からない事を言われると腹が立つ。
「少し前も言いましたが、俺達のような最低ランクの傭兵から話を聞くよりも他の腕の立つ人達に話を聞いた方が良いですよ」
話が面倒になったのと上から目線で言われるのにイラついた俺は言葉がキツくなっている事をわかりながら話す。
「チッ、もういいです! この部屋から出て行ってください!!」
態度の悪い組合職員に無理矢理連れて来られたけど今度は無理矢理追い出される。
こんな強引でで面倒な事に巻き込まれるのは嫌になる。
〈補足〉魔石
魔石は現実世界の電池に近い。ただ、採取出来るのは魔物のみで基本的には討伐して剥ぎ取りをする事で手に入る。