鍛治師の実情
シャルと一緒に依頼をこなした次の日。俺は今使っている安物の長剣のメンテナンスの為に総合組合で紹介して貰った鍛治職人の元に向かって歩いている。
「メンテナンスが上手く出来ないからタイミング的には良かった」
俺がいつもやっている素人手入れでは切れ味が落ちるのが早いので職員の人に相談したところメンテナンスを勧められた為、タイミングが良かったと思いながら俺は地図を頼りに建物に到着するとそこには……。
「えっと、ボロボロの建物で外にまで異臭を放っているのは気のせいか?」
年季が入っているのもありそうだが、今にもレンガが崩れそうな建物+ドアの周りはゴミが散乱しているのでハッキリ言うと中には入りたくないが。
「でも、メンテナンスをしてもらうのに建物は関係ないか?」
俺は無理矢理そう自分に言い聞かせて今にも外れそうな扉をノックする。しかし、返事が無かったので扉を開けて中に入り部屋を見ると予想通りゴミが散乱していた。
「もうメチャクチャだな……」
俺は散乱しているゴミをかき分けてなんとかカウンター?に到着したので作業場と思われる場所に向かって声を張り上げる。
「あの、長剣の手入れを頼みに来たユートですが誰かいますか?」
大きな声で挨拶しても返事が無かったので帰ろうとした時、ボロボロのソファにかかっていた汚い毛布がモソモソと動いた。
「……嫌な予感がするのは気のせいか?」
俺はゴミをかき分けてボロボロのソファの前に立って改めて声をかける。
「すみません。ここの人ですか?」
俺は何が出て来るか分からない状態で、ソファーの方に大きめの声で話すと毛布の中から野太い声が聞こえて来る。
「なんだうるさいな。この寂れた鍛治工房になんのようだ?」
毛布が動き中から顔を出した厳つい顔のオッサンが眠そうにコチラを見たので、俺は少し引きながら組合で言われた事を伝える。
「総合組合の人から武器の手入れはここがおすすめだと言われたので来たのですが……」
「オレの店をおすすめする奴……。クレインの奴か!」
オッサンはクレインと名を発して、いきなり毛布を投げ捨て立ち上がりコッチをハッキリ見た。
「えぇ、俺が総合組合に登録した時にお世話になったクレインさんから聞きました」
「なる程な。でも、アイツがオレの店を紹介するとは思っても無かったけどな」
カラカラと笑っていたので愉快なオッサンだと思っていると真剣な顔をされて肩を掴まれて臭い口を開いた。
「ならオレの依頼の事も聞いてきたんだよな?」
「……はい? 依頼なんて全く聞いてないですよ」
長剣のメンテナンスに来ただけなのに、なんのこっちゃと頭を捻っているとオッサンがヤレヤレと言って続きを喋り始めた。
「この事を聞いていないとは思ってもいなかったが、それならここで話すだけだな」
「いや、あの、依頼よりも手入れを頼みたいんですが……」
「それは後だ。まず依頼内容でオレがクレインの奴に頼んだのは、この街の近くにある鉱山で取れる鉱石を取ってきて欲しいと伝えたんだよ」
人の話を無視して話し始めたので仕方なく俺は内容を聞く。
「鉱山に鉱石? それなら専門の人達に取って貰えば良くないですか?」
正直、俺には傭兵に出す依頼たら無いと思ったので、ココを質問してみると唖然とする内容を言われた。
「確かに普通なら鉱夫達に任せればいいんだが、その鉱山では大量の魔物が現れて大変な事になっているんだよ」
……やっぱり嫌な予感は当たったか。俺はこの内容を聞いて思わず帰ろうとしたが、ここで帰るとややこしい事になりそうだったのでなんとか思いとどまり耳を傾ける。
「それでクレインの奴に依頼を出したんだが……結果はコレだ」
「あ、そうですか。依頼の事はわかりましたが、さっきも質問した長剣の手入れ依頼はどうすればいいのですか?」
依頼の事で固まっていたが、本題のメンテナンスの事を聞いてみる。
「手入れがオレがやってやるから安心しろ」
「安心……?」
オッサンがそう言ったので俺は自分の長剣を渡して、部屋の周りを見てからある事を言う。
「オッサンが長剣を手入れしている間に俺は部屋の片付けをしますね」
「ああ、頼む。オレは片付けは苦手だからな」
オッサンが奥の火事場? に行ったので俺は麻袋を近くの雑貨屋で買ってゴミをまとめて袋に詰め始める。
それからオッサンが長剣の手入れが終わる頃には疲れて床に座っている俺がいた。
「なんか気持ち悪い虫や腐った食べ物とか終わっているだろ……」
特にゴキ○リが変色した食べ物を食べている光景なんて見たく無かった。
なので、半分吐きそうになりながら掃除を終わらせたが、終わったタイミングでオッサンが帰って来たので良かったと思う。
「研ぎ直しや手入れは終わったぞ!」
元々臭かったオッサンが汗だくで気持ち悪さが倍増していているが、なんとか長剣を受け取った後にある事を大声で伝える。
「あの、とりあえず公衆浴場に行ってください!!」
俺は臭いに耐えながらオッサンに大銅貨を渡して公衆浴場に放り込み、時間がかかったが綺麗になったオッサンが出て来たのでそのまま昼ごはんを食べに行く。
「ふう、サッパリしたぜ」
「それはそうでしょうね」
あんだけ汚かったオッサンが綺麗になったので公衆浴場が少し心配になるが、その事は置いておいて手頃な食堂に入って飯を頼んだ後にさっきの依頼の事を聞く。
「さて改めて説明するが、その前にオレの名前を言ってなかったな。オレの名前はドーレル、あの鍛治工房の責任者だ」
「あ、はい。ちなみに俺の名前はユートです」
責任者が汚い毛布にくるまっていた時点で何かあると思ったがこの状況を見てなんとなく察した。
「最近は鉱山からの鉱石がこの街にほとんど入って来なくなってな。鍛治師達の仕事がほとんどなくなったんだよ」
「ふむふむ、そうなると装備の値段が上がりそうですが……」
「いや、武具の値段は昔とそう変わらん」
オッサンことドーレルさんが苦虫でも噛み潰した表情になったので続きを聞いてみる。
「それならおかしいし、職人の人達からは苦情が出ますよね」
「普通ならそう考えるが、武具の値段がそこまで変わらない理由は他の街で作った物をこの街が搬入しているからだ」
なんか訳ありだな。そう思ってオッサンを見ていると飯が運ばれて来たので食べ始める。
「なる程、それならそこまで値段は上がらないか」
「確かに傭兵達には大きな影響はないがオレ達には大影響だ。ユートが言った職人達の苦情だが、今にも爆発しそうだぞ」
「……でしょうね。素材がないと鍛治師は手入れとかの仕事しか受けられない。それに金を持っている工房なら他の街から割高で素材を持って来れる。これで合ってますか?」
「ああ、合っているぞ。それにお前の言う通り大きな工房はそれで動いているがオレみたいな小さな工房では生活も困るレベルて終わっているんだよ」
あの、このめんどくさい依頼を新人の傭兵(笑)の俺にに間接的にに持って来る組合職員には驚くのだが……。
俺はサラダを食べながらどう解決するかを悩み始める。
〈補足〉主人公、ユート。
本名、月城優斗 年齢は17歳 職業は上位剣士
見た目は、黒髪黒目
身長は173センチ、体重58キロ