孤児院の現実
カメールの村からガドレスの街に帰って来た次の日。俺達は報酬金の金貨5枚+レイクアリゲーターの素材が金貨3枚で、受付の人から合計報酬を受け取り総合組合から出る。(シンクは総合組合カードを持っていて階級は第四級傭兵だった)
「今回の依頼で結構な額を稼げたが、協会で転職する分のお金には届かなかったな……」
金貨8枚を4人で割ると1人金貨2枚になるので割り勘してもらい一人一人に報酬を貰い、宿屋に帰って適当に雑談を始める。
「そういえば、ユート達はあれだけ強いのにランクを上げないの?」
「今はあんまり上げたくないな」
正直、ランクを無理矢理上げて無茶な依頼を受けると死ぬ可能性が高くなるので今は実力を上げる事が先だ。
その事をシンクに伝えると本人は納得したみたいで頷いて話を変えた。
「なる程ね。あ、そういえば話はかけるけどさっき依頼掲示板を見た時に面白そうな依頼を見つけたわ」
「面白い依頼? 前みたいに人を嵌める事とかではないよね」
シャルはシンクに疑いの目を向けながら喋るが本人は顔を横に振った後に以来の内容を喋る。
「依頼内容はグレイスの街の探索だったわ」
「グレイスの街? 確か魔物のスタンビートを受けて滅んだ街だよな」
「「……」」
グレイスの街の探索と聞いて俺とシャルは思わず無言になって顔を見合わせる。
「それで……アレ? ユートとシャルはなんで微妙な表情をしているの?」
「……それは簡単だ。俺達がそのスタンビートに関わっているからだ」
「「え?」」
俺はグレイスの街で起きた事をグランとシンクに伝えると本人達は硬直していた。
「まさかユートさんとシャルさんが、グレイスの街の崩壊と殲滅戦にそこまで関わっているとは思わなかったぞ」
「アタシもだ。というか聞いたらダメな内容だったわよね……」
シンクは渋い表情になって頭を下げて来たので、俺は少し間を開けた後に口を開く。
「別に気にしなくていいぞ。あの時は俺達に力と戦える人達の数が足りなかったから負けただけだ」
「それにこの事は既にケリがついているから大丈夫だよ。でも、心残りはあるね」
俺とシャルはシンクに頭を上げてもらい、今回の依頼を受けない方向に持って行く。
そして俺達はグレイスの街、探索依頼の事は忘れて楽しい話に変える。
ーー
次の日。俺達は依頼を探しに行く為に総合組合の傭兵部門にある依頼提示板を見る。
「うーん、第五級傭兵が受けられる依頼はあまりないね」
「だな。それに受けられたとしても報酬が安い」
多くても大銀貨1枚なので、他の良さそうな依頼が無いか探していると面白そうな依頼を見つける。
「えっと孤児院の清掃や手伝いをお願いします。報酬は1人銀貨1枚で参加人数は4人までか」
俺はシャル達にこの依頼が面白そうだと聞いてみる。
「シャル達はこの依頼をどう思う?」
「ボクはいいと思うよ。でも、なんで傭兵部門に依頼を出したんだろう?」
「それは剣術とかを子供達に教えたいとかかもね。だって備考欄に前衛職募集って書いてあるわよ」
「前衛職か……。オレは裏方に回りそうだぜ」
グランがションボリとしているが、俺達の意見は纏まったので孤児院の依頼を受付に提出して受注して目的地に向かう。
受付の人から貰った地図を頼りに孤児院に向かうと貧困街の近くにあったボロボロの建物だった。
「……大丈夫なのか?」
俺はよくわからない不安に襲われるがシャル達は特に表情を変えずに敷地内に入って扉をノックした。
「こんにちは、依頼を受けたチーム仮だけど誰かいるかな?」
「……」
普通にノックして普通に答えるシャルに思わず固まってしまうが、扉が少しずつ開き藍色のロープを来た女性が出て来た。
「あの、依頼を受けてくれた傭兵の方々でしょうか?」
「そうよ。アタシ達が依頼を受けたチーム仮よ」
正直、カルチャーショックがある気がするのは俺だけか?と思いながら慎重に敷地内にはいる。
「あのユートさん。なんでそんなに慎重に入って来たんだ?」
「いやな……。俺は孤児院の事は情報で知らないから警戒しているだけだ」
「そ、そうなのか」
なんかコッチが引かれている気がするが無視して孤児院の先生(名前はネリさん)の案内の元、建物内に入る。
孤児院の建物はボロボロだったが意外と中は綺麗だった。俺は掃除の必要はあるのかと思いながら周りを見ていると通りかかる子供達のキラキラとした視線が目に入る。
そして、客室に連れてこられた俺達は椅子に座って自己紹介した後にネリさんの話を聞く。
「皆様、フロント孤児院に来ていただきありがとうございます。こんな事を言うのはアレですけど依頼の方は商業部門の方に出したと思ってました」
「……あの、ガラの悪い傭兵もいるので出す場所は間違えない方が良いですよ」
この人は掴み所のない性格で相手にするのが難しい。俺はネリさんの言葉を聞いて違和感があるところは頭の中で記憶する。
「でも、優しそうな傭兵さん達が来てくれたので良かったです。それに子供達も限界そうですね」
「子供達が限界? 何かやっているの?」
シャルの目つきが鋭くなったが、客室の扉がバンと勢いよく開いたと思ったら子供達が流れ込んで来た。
「ねぇねぇ、黒髪のお兄さん達は傭兵なんだよね」
「このお兄ちゃんは可愛いね!」
子供は5人くらいだろうか、後でアワアワしているおばさんと共に部屋に入って来た。
「貴方達、今大事な話をしているから入らないで!」
「「「えー」」」
子供達はブーイングをするが、ネリさんは子供達を睨みつけらながら口を開く。
「もしかしてお仕置きが必要かしら?」
「「「失礼しました!!!」」」
お仕置きと聞いた瞬間、子供達が速攻で部屋から出て行ったので静かになった。
「ここにいる子供達は活発なので申し訳ありません」
「いやいや、子供が元気なのはいい事だ」
「だな。オレも昔はあんな感じだったな」
俺とグランがフォローを入れて立て直してもらい続きを聞く。
「今回やって貰いたいのは子供達の相手を中心にお願いします」
「子供達の相手? 他の清掃や手伝いよりも中心になるのね」
「はい。今は他の先生が出かけていて孤児院にいる職員は2人だけで手が回ってないのでお願いします」
「わかりました」
俺達はネリさんから言われた子供の相手をする為に客室から出た。
〈補足〉レイクアリゲーター
大きさは5メートル程の濃い緑の鱗がびっしり生えているワニ。強さ的には腕利きの傭兵がなんとか倒せる程度。