シャルとの初顔合わせ
この世界に転移してから約半月後、俺はせっせとモンスターを倒しては総合組合の買取部門で買取に出す行動を繰り返した結果、貯金が大銀貨7枚と銀貨8枚の稼ぎにはなったが夢や幻は無くならず目が覚めなかった。
「流石に血の感覚や痛みはリアルだよな……。それに半月も閉じ込められる事はそうそうないはず」
最初の数日は夢や幻と思っていたが覚める気配が無くてそのまま半月が経ったのでこれからどうするかを悩む。
「生活はなんとかなってるし、元の世界に帰っても面白い事はないからこのままでもいいか」
俺はそう1人で呟きながら拠点にしている中間レベルの宿屋から出て、いつも通り街を歩き始める。
フラフラと街の中を歩いて総合組合の傭兵部門に向かい依頼票が貼ってある場所の前に立ち、依頼内容を見るが討伐系や納品系が多く、他には力仕事系も少なからず存在している。
なので、俺は何か稼ぎのいい依頼は無いかと提示板を見たが特に無さそうだったのでいつもの依頼にする。
「やはりホーンディアの依頼でいいか」
俺はホーンディア討伐の依頼票を提示板から剥がそうとして手を伸ばそうとした時にガタンと何か鈍い音がした。
「もしかしてホーンディアの依頼を受けるの?」
後ろから高めの声が聞こえたので俺以外にもホーンディアの依頼を受けているのかと思い、周りを見ると俺の近くに茶髪の中性的な顔をした少年がコチラを見ていた。
「……何か用か?」
俺は無視して受付に行きたかったが少年がコチラをガン見していたので無視出来なかった。
その為、返答を返すと少年は相変わらず俺の方を見ながら言葉を発した。
「ボクもホーンディアの依頼を受けたいから、良かったら一緒に行っても大丈夫?」
「うーん。それなら何枚か同じ依頼があるからソッチを取れば良くないか?」
正直、この少年と一緒に依頼は行きたくないし、装備がボロボロで体はアザだらけで戦力になるか心配だ。と思って俺は一緒に行きたくないと伝えるが、少年は首を縦に振らないどころか捨てられた犬みたいな目をした。
「確かにそんなんだけど……」
「そうなんだけど?」
「ハッキリ言うとお金が無くて装備が買えないからホーンディアを倒すのは難しいんだよ」
「……じゃあ、なんで俺に声をかけたんだ? 筋骨隆々の強そうな傭兵とかの方がいいと思うぞ」
正直、平均的な見た目をしている俺よりも強そうな傭兵に声をかけた方が儲かる気がする。と思って質問してみると少年は俯きポツポツ話し始める。
「最初は他の強そうな傭兵にも声をかけたけど、最下級職の盗賊見習いはいらないと言われてボコボコに殴られたよ」
「……」
生まれ持った職業次第では不遇な人生を送らないといけないのは辛いところだが、俺が何かをして人を救えるとは思えない。
ただ、最低でも目の前にいる少年に手を差し伸べる事は出来る。
「やっぱり貴方もボクは使えないと思うんだね」
少年が半泣きになりながら俺の元を去ろうとしたので、
「ハァ!仕方ない。ホーンディアの依頼を一緒に行くか?」
思わず同行を許可してしまった。そして、この言葉を聞いた少年が勢いよく振り向き俺の手を取りニッコリ笑う。
「いいの!」
「ああ」
俺は沈んでいた少年の表情がにこやかになったので、よかったと思いながら受付にホーンディアの依頼を提出する。
そして、ホーンディアの依頼受付をして総合組合を出たが、少年のボロボロの装備が気になったので近くの武具屋によってある程度の装備を整える。(全部で大銀貨3枚と銀貨5枚かかった)
あと、装備を選び終わった時に俺と少年は軽く自己紹介をした。
「新しい装備まて揃えてくれてありがとう! ちなみにボクの名前はシャルだよ」
「まあ、必要経費だ。それと俺の名前はユートだ」
自己紹介と会計が終わり財布が前よりも軽くなったので、少し悔いを残しながら街から出ていつもの狩場である草原に向かう。
体感時間で数十分歩いていると草原に到着したので、少し進んでホーンディアが生息している場所を見て獲物を探す。
「いつもならこの辺にいるんだけどな」
俺は周りを見るが見つからないので適当に観察しているとシャルが何かに気づく。
「あそこに何かいるよ」
「何かって?」
「うーん、緑色で鋭そうな牙を持った魔物だね」
鋭い牙? 俺はシャルが指差している方を見ると緑色の毛で大型犬みたいな見た目をした魔物がツノウサギ(仮名)を捕食していた。
「……まあ、俺達の目標であるホーンディアではないから無視が安定だな」
「そうだね」
そう思って俺達は緑犬(仮名)を無視してホーンディア探し始めるとシャルが少し遠くで見つけた為、速攻で倒して総合組合の依頼を完遂する。
ホーンディアの報酬を貰って遅めの昼ごはんを食べた後、俺とシャルは街を適当に歩き回っていた。
「ホーンディアの依頼は終わったし、お前は新しい装備が手に入たのになんで俺について来るんだ?」
「それは、ボクは貴方に何も恩返しが出来ていないからだよ」
恩返しね……。俺は別に気にしてないがシャルは俺の方を見て目をキラキラしているのでこの状況では言えない。
なので適当にはぐらかして別れようと思ったが、相手は中々コチラの思わくに乗らないのでこの話は無理そうだと考え他の話に切り替える。
「そういえば、さっきいた緑の魔物は見た事は無いのか?」
「うーん、ボクは最近この街に来たばかりであの魔物は記憶にないね」
「そうか」
そうなると最近来た魔物なのか? 気になったので考えていると大通りの広場に出たので近くのベンチに座る。
「俺達には直接関係ないと思うけど何かしら起きそうな気がするのは気のせいか?」
「うーん、この街は辺境だから迷宮都市みたいに何か大きな問題が起きる事は少ないと思うよ」
「それならいいが……」
俺は何かしらの不安を抱えながらシャルとの雑談を続ける。
「まあ、それはいいとしてユートの職業は長剣を使っているから剣士とかかな?」
「まあな。この職業は安定しているよ」
ここで上位剣士を言うのをやめて適当に流して、聞き役に徹する。
「いいなー。ボクも近接の剣士や戦士とかになりたかったよ。でも、転職するお金もないからこのまま盗賊見習をしないとね……」
確かに剣士や戦士は近接職の花形なのはわかるが……ん、転職?
「シャル、転職とはなんだ?」
「えっ、ユートは知らないの? 教会で金貨10枚を払うと他の適正がある職業に転職出来るんだよ」
まさかそんなシステムがあったとは……。俺はシャルの言葉で内心固まっていると日が暮れてきたので少し早いが夜ご飯を食べに行く。
〈補足〉総合組合の部門。
・傭兵部門、基本的に街の外に出て魔物を倒して稼ぐ人を対象にしている部門。依頼の受付や管理をする場所。
・商業部門、街の商売を管理する部門。不当に働かされてないか?労働基準は守れているか確認する部門でもある。
・職人部門、鍛治師や木工師などの職人を管轄する部門。どの場所にどんな職人がいて、職人に依頼したい時に行く部門でもある。
・買取部門、魔物の素材は自然素材などを買い取る部門。傭兵部門の隣にあって依頼表を渡して確認を取る事も多い。