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ヘッドホン越しに恋をして

作者: 砂上楼閣
掲載日:2020/10/14

『ヘッドホン越しの告白』の別視点です。


宜しければ読んでみて下さい。

「好きです…」


囁くような声で、呟いた。


これが何回目の告白なのか、もう忘れてしまった。


放課後、いつもの場所で、毎日のように呟いてきた告白。


君は手元の本から顔をあげない。


いつものように。


緊張でどうにかなってしまいそうで、すぐに立ち去る。


いつものように。


「…………」


自分の鼓動の音にまぎれて、囁くような音、声が聞こえた気がした。


今日も君には気付かれなかった。


それでいい。


これはいつか、消えてなくなる気持ち。


そう思わないと、この不確かで形のない気持ちが本物だと、信じられなくなってしまう。


だから囁くように告白するんだ。


君のヘッドホン越しに。


君に聞こえないように。




何をやっても人並みだった。


周りに合わせてるばかりで、自分というものがなかった。


面白くもない冗談に笑ったり、大多数の意見に流されるばかりの毎日。


自分が思ってもいないことを言って合わせて、自分を偽るばかりの人生。


けれど人生なんてそんなものだって思って、毎日どこか諦めながら生きてきた。


仲間外れにだけはならないよう。


自分一人だけにはならないよう。


人の目を気にして、人の噂に気をつけて、人から変だと思われないようにして。


人と違う事はしない。


人の邪魔をしない。


嫌な事でも表情に出さない。


これは自分なりの努力。


認めてもらいたい、けれど、目立ちたくない。


矛盾にねじれてしまった心が叫ぶ。





放課後の人気のない場所。


静かで、落ち着ける空間。


時間が止まったように静かな図書室で。


本棚に並ぶ本のタイトルを眺めて過ごす。


自分なんかとは違う、個の詰まった沢山の本たちを。


人に合わせてばかりで息が詰まるから。


ただ静かな空間で息継ぎをする。


家は家で息が詰まるから。


将来どうするか、目標はないのか。


昔抱いていたはずの夢は…


いつの間にか忘れてしまった。





いつからか君の存在が胸の中にあった。


『好きです』


そう伝えられたら、何かが変わる気がした。


休み時間、いつもヘッドホンをしていて、無口で誰とも喋らず、周りから浮いている君。


いつからか目で追っていた。


自分とは違う、正反対な君のことを。


一人なのに、独りなのに、寂しさを感じさせない君を。


一本の芯が通った、¨自分¨を持っている君を…。


そんな君を放課後の図書室で見かけて、思わず、好きだと言葉が漏れていた。


心臓の鼓動の音にかき消されて、自分でも本当に言えたのかは、分からなかったけれど。


何かが、変わった気がした。




次の日も、君は来た。


静かに頁をめくる君の横顔に見惚れてしまう。


『……好きです』


改めて覚悟を決めて、声を絞り出した。


君は動かなかった。


よかった、聞こえてないんだ。


それと、よかった、告白できていた。




鼓動の音がうるさくて、止まなくて。


すぐに図書室を後にした。


どくん、どくんと耳元でうるさくて。


でも、なんだか生きてるなって思えた。


次の日も、その次の日も。


学校のある日の放課後は、いつも君に想いを伝えた。


下を向いて本を見て、ヘッドホンをしている君に。


一言呟いていった。


変わらない君、芯の通った君の横顔を。


放課後の図書室で眺めては告白する毎日。


それが新しい日常になった。


1日ごとに変われていく気がした。


それがたまらなく嬉しくて、満たされていた。


でも…





満たされるほどに、虚しさを感じる。


ヘッドホン越しに言葉を、一方的に伝える行為。


そんなの自己満足でしかない。


どんどん自分の中に熱がこもっていく。


伝えたい、正面から。


ヘッドホン越しでなく、直接君に。


初めて告白した時のあの気持ちを。


早くしなくては、いずれ自分の冷めた部分が出てきて、これまでみたいに諦めてしまう。


それは、絶対に嫌だ、そう思えた。


彼女がヘッドホンを外した時、今度は正面から告白しよう。




君に直接言う前に呟く。


「好きです」


彼女に毎日のように言ってきた。


もう何回目か覚えていない、告白の言葉。


放課後、いつもの場所で、毎日のように呟くだけだった。


けれど今度こそ、直接…


「私も、好き」


君は本から顔を上げて、こっちを見ていた。


いつもと違って。


振り返って、呆然とした顔をしているであろうこちらを見ている。


「……え?」


君は本を閉じ、コードのささっていないヘッドホンを外した。


「ずっと前から、あなたが好きでした」

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