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死神の散華

作者: とりぷるぺけ

※この小説はフィクションです。実在する人物・団体などとは関係ありません。

※この小説に自殺を推奨する意図はありません。

※この作品は「アルファポリス」「pixiv」にも掲載しています。

 


 年間二万人を超える自殺者。あらゆる理由を苦に自ら命を絶つものは少なくない。お金や仕事、人間関係……先の見えない不安が、耐え難い苦痛が見えない糸で首をギリギリと絞めていく。その痛みが限界を超えた時、人は死ぬのだ。


 それは今まさに死のうとしている自分にも当てはまる。家族も恋人も、友人もいない。職を探しても見つからず、貯金の底が見えてきた。これから先、何をどうすれば希望なんて役に立たない幻覚が見えるようになるのだろう。


 ウォークインクローゼットの鉄棒に縄を結び、垂れ下がったそれを輪っかにしてぎゅっと縛る。万が一にも解けてしまわぬように、何度も力強く縄を引いた。本当は天井からぶら下がろうと思っていたのだが、縄をかける場所が見つからず仕方なく低い位置の鉄棒になったのだ。


 苦しいだろうな。死ぬまで時間がかかるだろう。それでも自分には死ぬ以外方法がないのだ。輪っかに首を通して首を吊る準備を整える。ふと、やり残したことはないかと考えかけたが、その考えはすぐに消えた。


 足の力を抜いて首を吊ったからではない。何か思いとどまる理由を見つけた訳でもない。引っ越してから一度も他人を部屋に上げたことなどないのに、目の前に人が立っていたからだ。


 女だろうか。いや、胸のあたりに膨らみがないことを見ると男か?


 顔立ちは中性的で男女の見分けがつかない。ただ生まれてこのかた一度も目にしたことがない程の美貌を持っていた。精巧に作られた人形のような見た目でありながら、蝋人形のような不気味さはない。


 腰より長いベージュ色の髪が、風もないのにふわりふわりと綿毛のように揺れている。その度に光が反射して、太陽の下で輝く宝石のようにきらきらと煌めく。


 こちらを覗き込む瞳は丸み帯びていて、子供を慈しむ母親のような優しい目つきをしていた。アメジスト色の瞳はやや細められ、微笑んでいるようにも見える。


 桜色の唇はふっくらとしていて女性らしい。けれど分厚いわけではなく、どちらかというとスッと線を引いたようなきれいな形をしていた。


 服はコスプレだろうか。腰の高さより少し短い、白い長袖の上着を着ている。その下にはワンピースと思われる黒く裾の長いものを着ていた。そして目を引いたのは白亜の腰マント。物語のヒーローやらヒロインやら、ともかく現実ではつけないであろう衣装をつけていた。次いで目に留まったのは彼――彼女かもしれないが――の首にかかった銀色のネックレス。見たこともない紋章か家紋か、何かそういうものをモチーフにしたような大きなペンダントトップ。最後に気づいたのは彼が後ろ手に持っている、死神が持つような大きな黒い鎌だ。


 一体何者だろう。そもそもなんでこの家に上がり込んでいるのだろうか。どこから入ってきたのか。男か女かもわからない、この人物の目的はなんだ。


 一瞬にして様々な考えが頭をよぎったが、全て意味のない事であった。何故なら自分は目の前の人物が殺さなくても死ぬわけであるし、殺されるかもしれない訳である。どっちにしろ待つのは死だ。


「待ってください、石村亨さん」


 これまた男とも女ともわからない声が自分の名前を呼んだ。呼び止めた。


 亨は胡散臭いものを見るように、迷惑そうな表情で目の前にいる美人を見た。睨むような、とまでは言わないものの良い印象ではない眼で見られた何者かは、その顔に綺麗な笑みを浮かべ、口を開いた。


「死ぬならもっと楽しく死にませんか?」




 死神を名乗る美人――アキヒトに特売日の時に買った安い茶を出す。するとアキヒトはあろうことか優雅な所作で湯呑を持ち、出されたお茶に口をつけてそれを飲んだ。


 この不審者、本当は人間ではなかろうか。亨がそう思うのも無理はなかった。いつ部屋に上がり込んだのかは知らないが、多分玄関は施錠していなかった。無施錠の扉から入ってくるのは簡単だろうし、部屋の主である自分は死ぬことばかり考えていて他に注意が向いていなかったから、気づかれずに入ってこられたのだろう。


 そう考えるとやはりコイツは、アキヒトは変なコスプレをした不法侵入者ということになる。あとで警察に突き出そうか。いや、盗られるものなどないし面倒だ。さっさと追い出してさっさと死のう。


 亨は一つ頷くと口を開き、アキヒトが発した声で閉口した。


「自殺するのは構わないのですが、好き勝手に死なれると困るのです」


 変なことをいうものだ、と亨は思った。自殺するのは自由だが、勝手に死ぬな。なんといえばいいのかわからない複雑な感情が渦巻く。怒りに似ているが噴出するほどではないし、抗議するほどではない。どちらかといえば、何を言っているんだこいつは、という呆れの感情の方が強い。


 アキヒトは静かに湯呑を置くと、どこから取り出したのかA4ほどの大きさの白い紙を取り出して差し出してきた。そこに書かれていたのは死亡届。だが市役所にあるようなものではない。『自殺者死亡届』と書かれている。名前・年齢・性別・死因……ほかにも項目はあったが特に変だと感じたのは『立ち合い死神』という項目だった。


「これは自殺した方に書いてもらう書類なのですが、最近これを書かずにあの世へ行ってしまう人が増えているんです」


「はぁ……」


 ほとほと困り果てたと言わんばかりの様子のアキヒトに、亨は気の抜けた返事しか返せなかった。突然死神が目の前に現れて自殺を止めたかと思えば、書類を書いてもらえなくて困っていると話されてもどう反応していいのかわからない。

 亨は自分に淹れたお茶をすすり、アキヒトの言葉の続きを待った。


「これを書いてもらわないと、冥府の管理人から怒られるのです。『職務怠慢』とか『木偶の坊』とか……毎回怒られる身にもなってください」


「知りませんよ、そんなの……」


「まぁ確かに、貴方に言っても仕方のない事ですね」


 アキヒトは正論を聞いたとばかりに目を瞬かせ、納得したようにうなずいた。


「それで、私達は思いついたのです。死んだ後に書いてくれないなら、死ぬ前に書いてもらえばいいって」


 ズズ、とお茶を啜る。本当に、何を言ってるんだろうかこの不審者は。


 亨は頭を押さえて深々とため息をついた。こんな訳の分からない相手に自分は自殺を止められたのかと思うと、なんだか情けない気持ちになってくる。これでも自分はそれなりの葛藤と覚悟を決めて首を吊ることにしたのだ。それが今はよくわからない不審者と茶を飲む状況になっている。人生何が起きるかわからないものだが、ここまで意味不明な事態は予測していないし、初めての事であった。


「というわけなので、石村亨さん。記入をお願いします」


 差し出された紙を見下ろす。なぜ自分がこんな訳の分からないものを書かねばならないのか。そもそもアキヒトのお願いを聞く必要はあるのか。甚だ疑問ではあるが、断ったことで変に付きまとわれても困る。仮に個人情報が悪用されてもこれから死ぬ人間には関係ない事だ。


 ペン立てに刺さっていたボールペンを取れば、それで早速名前を書き始める。それから年齢、性別……死因はなんだ? 窒息死とでも書けばいいのか? まぁこんなものを正確に書く必要はないだろう。適当に書き込んでおけばいい。すらすらとペンを走らせている間、アキヒトは静かにそれを見守っているようだった。


 ふと、自殺を止められた時の彼の言葉を思い出す。


「あんた、『死ぬならもっと楽しく死にませんか』とかなんとか言ってたよな」


「あ、そうそう。思い出しました」


 話を振ってようやく思い出した、といった様子でポンと手を合わせたアキヒトにため息が出る。言った本人が忘れているとはどういう了見なのか。とりあえずそこは追及せずアキヒトの言葉を待つ。


「どうせ死んでしまうんですから、財産はすべて使ってしまいましょう。一人旅行なんてどうですか?」


「そんな面倒くさい……」


「最期に見たい景色とか食べたいものとかありませんか? 死んだら見られませんし、食べられませんよ」


「興味ない」


 淡々と切り捨てるようにそう言ってやれば「面白みのない人間ですね」と不満そうに顔を歪められた。面白みのある人間だったらこんな事にはなっていないと何故気づけないのだろうか。指摘する元気もなく、何も言い返さずにいた。


 書き終えた書類をアキヒトに返せばアキヒトはそれを受け取り、目を通し始めた。紫水晶の瞳が右から左へ、左から右へ移動し、少しずつ下に下がっていく。そして最後の文字を読み終えると、スッと目を閉じて満足そうにうなずいた。


「亨さん」


 名前を呼ばれる。そう言えばこの不審者はどうして自分の名前を知っているのだろう。そんなことを考えながらアキヒトの言葉の続きを待った。


「書き直しです」




 生まれて初めて書いた自殺者死亡届は内容に不備があり書き直し、その次に書いたものは書き間違いがあってやり直し、三枚目は字が汚く読めないと言われ白紙の紙と交換、四枚目はくしゃみと共に飛び出た唾液で字が滲み新しい紙と取り換え、ようやく書き終えた五枚目でやっとアキヒトが満足そうに頷いた。


「はい、これで問題ありません。お疲れ様でした」


 爽やかな笑顔を浮かべるアキヒトに対し、亨の顔には疲労の色が滲み出ていた。何が楽しくて自分の名前と住所と死因とその他諸々を五回も書き直さなければならないのだ。こんな面倒な作業は就職するために書きまくった履歴書以来だ。


 凝り固まった肩をほぐす様に回し、これでようやく死ねると安堵した。が、それで解放してくれないのがこの不審者であった。


「亨さんは海がお好きでしたよね? 今から行きましょう」


 さて首を吊ろう、と立ち上がった亨の手を掴み、アキヒトがそう言った。


 まただ。また邪魔をされている。こいつ本当は自殺を邪魔しにきたのではないだろうか。そう思うほどいいところで水を差される。


「海、遠いだろ」


「遠いですね」


「それに比べてクローゼットは近い。そこで首吊ってサヨナラだ」


「でも死因溺死ですよ?」


「なんだと?」


 アキヒトが持っていた紙をひったくり確認してみれば、確かにそこには溺死と書かれている。こんなもの書いた記憶はない。確か窒息死と書いた筈だが。


 疑う様にじろりとアキヒトに視線を向ければ、「死因って変わりやすいんですよね」なんてしれっと言ってのけた。書き換えた様子はなかったが、どうやら見えないところで書き換えたらしい。文字を消した後はないが書き換えたようだ。そうとしか思えない。


 そう考える亨の目の前で文字がぐにゃんと歪み、死因が溺死から転落死に変わる。ぎょっとして見つめれば、ボールペンで書いた字は生き物のように動き回り形を変えていく。


「なんだこれ!」


「死因ですね」


「項目の話じゃない!」


 ボールペンで書いた字が意思を持ったかのように動き回る光景など見たことがない。そう訴えればアキヒトは「まぁ普通に生きてればそうですね」と同意してみせたがそれ以上の反応はなかった。こんなにも反応に差が出るとまるで自分が間違えているかのような錯覚に陥る。俺は普通だよな? なんて自問自答してしまう。もちろん質問の答えは「イエス」だ。やっぱりアキヒトがおかしいのだ。


 とにかく、ミミズのようにビチビチと動き回る字を見ないように紙を裏返し、自殺者死亡届をアキヒトに返した。せっかく裏返したというのにアキヒトはそれをひっくり返して表に戻し、「元気な文字ですね」と珍しそうに眺めている。


「ここまで元気な死因は初めて見ました。どうですか? 今から死因変えてみませんか?」


「うるさい! とにかく! 俺はクローゼットで首を吊って死ぬ! いいな?」


「私に許可を求めるのですか?」


 至極全うな問いにぐうの音も出ない。そうだ、別に自殺するのに他人の許可など必要ない。今後アキヒトが何をどう言おうとどうしようと無視してさっさと首を吊ればいいのだ。初めからそれに気づいていればこんな茶番しなくて済んだものを、自分は何故気づけなかったのだろう。


 思わず頭を抱えて蹲る。無意識に深いため息を吐いてしまった。


 とりあえず死のう。


 そう決意すればウォークインクローゼットに近づき、首にかけるための縄を手に取った。後はそれを首にかけて……


「どうしました?」


 縄を持ったまま動きを止めた亨に、何もかも分かっているような微笑みを浮かべたアキヒトが問いかける。その顔を見た時、亨は心の底から振り向かなければよかったと感じたが、胸にポツリと浮かんでしまった躊躇いが首つりを阻止し、心残りとして根を張ってしまった。


 アキヒトは未来さえ知っているかのような、余裕のある態度で急かすこともなく亨の言葉を待っている。それが苛立たしいと感じた一方で、不思議とありがたいとも思った。


「……海、行くか」


 風の音に消されてしまいそうな小さな声だった。自分でも驚くほど儚い声で、アキヒトには聞こえなかったのではないかと思った。もしも聞き返されたらなんでもないと言って首を吊ろう。そう決めたのに、アキヒトは子供を愛する母親のような優しい笑みを浮かべ、


「はい、行きましょうか」


 と、言った。




 電車を乗り継いで二時間。タクシーに乗って四十分。歩いて五分程度。そうして着いた海は橙色に染まり、太陽を半分ほど飲み込んでいた。光を受けてきらきらと輝く水面が眩しい。目を細めて遠くを見れば、船が一隻海を泳いでいるのが見えた。


 砂浜には誰もいない。人がいた形跡はあるが、今は無人であった。そんな場所に一人。正確には得体のしれない自称死神と二人きり、何をしているんだろうと途方に暮れるような思いであった。


 ここに来るまでに分かったことが一つある。どうやらアキヒトは他の人間には見えていないらしい。本人が言うには「死神ですからね」とのことだった。実際彼は――未だに彼女かもしれないという疑問が残っているがこの際放っておこう、彼は――切符を買うこともなく改札をすり抜け、駅員の目の前で無賃乗車し、タクシーの屋根に乗ってここまで来た。普通の人間ではありえないことである。


「風が気持ちいいですね」


 同じように海を見つめていたアキヒトが長い髪に片手をそえて言った。ふわりと風を受けたカーテンのように広がる長い髪は、夕日を受けてオレンジ色に染まっている。キレイだな、なんて子供のような感想が一瞬頭を過った。


「このまま入水自殺しますか?」


 夕日に目を向けていたアキヒトがこちらを向いた。彼の言葉でふと思い出したようにここにきた目的を胸の内で確認する。自分はここで死ぬために来たのだ。


 靴を脱いで、靴下を脱いで、浅瀬に足を運ぶ。冷たい海水が指先から踵へ、足裏から足首まで包み込む。その感覚をなんとなく覚えていた。


「昔はよく家族で遊びに来てたもんだ」


 誰に聞かせるわけでもなく、独り言として呟く。


 朧になってしまった、自分の中では遠い昔の記憶。まだ小学生にもなっていない頃、両親や近所の友人、親戚と共に海に遊びに来ていた事を思い出す。その時は海と追いかけっこをして遊んでいたものだ。


 形を変える波際に沿って歩く。いい歳した男が何をやってるんだか、そう思いながらも足を止めず歩いた。アキヒトは少し距離を保ちつつ後をついてきた。


「あの時は楽しかったな」


 空を仰げば紺色の絨毯に星がちりばめられているのが見えた。もうじき夜が来る。まだ辛うじて顔を覗かせる太陽を一瞥し、亨は海水から出て裸足のまま歩き出した。その足はどこか目的地を見つけたように、迷いなく進んでいく。


 砂浜から丘へ、丘から森へ、森の斜面を上がり、着いたのは崖の上だった。そこから見える海も太陽も、絵に描いたようにきれいだった。

 裸足でここまで上がってきたというのに、足の裏には傷一つない。不思議に思っていれば、「無駄に痛いのは嫌でしょう?」とアキヒトが知ったような口を利いた。妙な存在であるから妙な術でも使ったのだろう。そう思うことにして特に追求しなかった。


 亨は目の前の輝く海に懐かしかった思い出を重ねて、眩しそうに目を細めて見つめた。

 あの頃は良かった、なんて月並みの言葉がこの期に及んで自分の口から出そうになるのが、何故だかとても恥ずかしい気がした。


「なぁ、似非死神」


「アキヒトです。それに似非じゃないですよ」


 瞬時に反応したアキヒトの声は少し不機嫌そうだ。たった数時間の付き合いだが、アキヒトにも人間らしい一面があることを亨は知った。


「俺はなんのために生まれてきたんだろうな」


 その答えを亨は期待していなかった。何故ならアキヒトは亨の死を止めに来たのではない。見届けに来たのだ。そんな相手が今更「早まらないで」とか「貴方を必要としてくれる人がいるはず」なんて定型文を言うはずがない。それにたとえアキヒトがそう言ったとしても、それで思いとどまるような状態ではない。だから亨は何も期待してなかった。


 アキヒトはやはりドラマのようなセリフを言うことはなかった。けれど亨が予想していたように何も言わずにいる事はなかった。


「少なくとも、貴方のご両親は貴方が生まれた事を喜んでいましたよ」


 そちらを見ずとも、アキヒトが微笑んでいるのはなんとなく察した。これは引き留める言葉ではない。質問に対するただの回答。そして、この世と離れる最後の一押し。


 亨はゆっくりとアキヒトの方へと向き直ると、数年ぶりに笑った。それは心からの笑みであり、その目元に浮かんだ涙も心からあふれ出たものだった。


「そうか……短い間だったけど、ありがとう」


 最期を誰かに看取られるのも悪くない。それがたとえ自分が生み出した妄想の産物だったとしても、あの家で首を吊るよりはいい死を迎えられた。

 楽しかったかと聞かれればそれは違うと思う。けれど、ただただ不幸な死であるようには思えなかった。


 亨は満足したように笑うと、不必要となった体を崖から投げ落とした。




「おやすみなさい、石村亨さん」


 波が岩肌を打ち付ける音だけが聞こえる。亨の体は海に飲み込まれ、そのまま姿を消した。この世界では一人の男が行方不明となっただろう。


 アキヒトは亨が書いた自殺者死亡届を取り出すと、それを掲げた。死因の欄には大人しくなった文字が『転落死』という字を描いていた。

 自殺者死亡届は花びらを散らすようにパラパラとちぎれていき、空に溶けるようにして消えていく。崖の上にはアキヒトだけが残された。


「さぁ、次の人を迎えに行きましょう」


 太陽の沈んだ海は暗く、亨が美しいと思ったあの眩しく輝く世界は、跡形もなく消えていた。



終わり

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[良い点] 面白かったです。短編ですけど内容が濃い。 「自殺者死亡届」という発想。 自殺する人はこういう世界を通じて本当に亡くなっていくのかもしれないと想像させてくれました。文章もわかりやすかったです…
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