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8、ドアを叩く怪

ストーカーちっくな表現があります。

「おーちゃん、たっだいまー」

 さあ、夕飯の支度でもするかと思ったその時、インターホンの呼び鈴と共に玄関からそれは響く。

 廊下側の格子入りの窓を少し開けておいたせいでひどくよく通る女の声。


 ……いや、俺んちにそんな事言って帰ってくる女の子なんていないから。

 それなのに。


「おーい、おーちゃーん。あっけてー」

 ご陽気な調子で玄関のドアを容赦なくゴンゴンと叩かれる。

 こっぇぇぇぇ!


 と思ったものの、自分をそう呼ぶのは隣の児玉さんくらいなもんだ。

 姉さんが酔っぱらってんのか?

 古めのこの賃貸はオートロックじゃない代わりにモニター付きインターホンにリフォームされているそうで。やっぱこういう時にいるんだなぁと思いながらモニターで相手を見れば、そこにはなぜかあれから三日ぶりに見るユキちゃんの姿があった。


 ただし酔っぱらってご機嫌な様子はなく、何かひどく焦り、緊張しているようにも見える。

 その手には防犯ブザーが握られていて、怯えたようにチラリと階段の方へ目をやる様子に慌てて玄関まで行って扉を開いた。

 あまりに勢いをつけてドアを開けたもんだからユキちゃんは「ちょ!」と声を上げる。ユキちゃんが咄嗟にてのひらでドアを押さえてくれなきゃスチールの重い扉をユキちゃんにブチ当てるとこだった。ユキちゃんの反射神経が良くて良かった。


「あ、ごめ」

 取り急ぎ詫び、廊下まで出て階段と手摺りから下を見渡すが特に人影や不審なものは見つからない。

 振り返れば不安そうな顔でいまだに防犯ブザーをしっかり握っているユキちゃん。


「なんか怖い事あった?」

「いや、気のせいだと思うけど足音がついて来てるみたいで……ごめん、突然来て。こっち電気がついてたから……」

 咄嗟にうちのドアを叩いた、と。

 それはそれは申し訳なさそうにしてるけど、賢い判断だと思うわ。

『男がいる』とアピールするのは防犯の一つだ。だからユキちゃんの部屋着は男もので、玄関に男物の靴があるんだろう。


「コンビニ逃げ込めば良かったのに」

「コンビニ過ぎた所からだったから引き返せなくて」

 そりゃ不審者に向かって引き返すのは怖すぎるし、コンビニで女の子物色してる輩もいるって言うしなぁ。

 コンビニ過ぎたら街灯はあるけど人通りは少ないから怖かっただろう。


「ユキちゃん飯食った? 今日は魚焼くんだけど」

 お誘いしたらいつもの不審者を見る目で見上げられた。


「いつもお世話になってるし、まだまだ虫の多い季節だしね」

 またお世話になる予定なので。


「ユキちゃんラッキーだよね。飯作る時は二日分一気に作るんだけど今日が一日目だからさ」

 今日もみそ汁と今日炊いた飯がある。

 必死で固辞しようとする所を「まだ見られてたらマズくない?」と言って納得させた。ユキちゃんが着替える為一度二人でユキちゃん宅に行き、安全を確認して自分だけ部屋に戻った。


「冷凍もんだけどサケの切り身とアジの開きどっちがいい?」

 安い時に買って非常食として冷凍していたサケとアジ。

 二人分だからレンジはやめてグリルを使った。

 電子レンジ用の魚焼きセラミック皿は便利だけどやっぱグリルの方が美味いもんな。


 二人で向かいあって座ればいっぱいになる小さなダイニングセットに向かい合って座り、どちらが先に魚を選ぶかでひと悶着あった後、ユキちゃんがアジをつつく姿に思わず見とれる。


「ユキちゃん魚食べるのキレイだね」

「島育ちなもんで」

 あー、島育ちにスーパーの特売の干物とかビミョーだったかね。


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