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6、隣人が新種の虫がと騒ぐので

R-15に変更いたしました。

途中からの変更になり申し訳ございません。


今回はユキちゃん視点となります。

 

 家に帰った直後、インターホンが鳴った。

 モニターに写っていたのは隣の虫嫌い。


『ユキちゃん助けて』

「いやです」

 恐怖しかなくて即答した。こいつ待ち伏せてたのか?


『バイトしない?』

「結構です」


『洗濯物にくっついてる変な虫取るだけで五千円! 悪い話じゃなくない!?』

 怖すぎだしヤバすぎる。

 インターホンでやり取りするのが面倒でチェーンをかけたまま玄関を開けた。


「なんでも屋さんでも頼んだら?」

 チラシとか見かけるじゃない? ポスティングされるヤツ。


「こんな時間に連絡してすぐ来てくれるとこなんて怪しそうじゃん」

 いや、一人暮らしの女にそんな事言うアンタの方が怪しいって。

 この人、雰囲気イケメンというか見た目はそれなりにいいと思うのに本当に残念すぎて。


「一晩放置しといたら朝にはいなくなってるって」

「今夜雨降りそうなのに!? いつもなら濡れるの我慢するけど、あれはヤバいって。仮面ライダーと髑髏マン顔の悪魔みたいなやつなんだって!」

 どんな虫だよ。新種かよ。

 ちょっと気になっちゃうじゃんか。


「そんなに観察できたんなら大丈夫でしょ」

「窓の内側から見たに決まってるじゃん! このままじゃ寝られない」

 その一言とその表情に玄関を閉じた。

 外で騒いでいるのは胡散臭い成人男性だけれども、あの目、見覚えあるんだよなぁ。ため息が出た。

 靴箱の上の鍵を持ってチェーンを外す。


 黒い柴犬。可愛かったんだよなー。

 ドアを開ければ隣の住人のそれは嬉し気な男にもう一度ため息が出る。

 尻尾振るみたいな顔してんじゃねぇよ。


「玄関あけっぱなしにしてよ?」

「え、虫が入るから閉めさせて。その代わり手錠するから」

 準備してきましたとばかりにぷらぷらと見せてくる手錠。

 こっわ! マジでこっわ!!!


 隣の部屋に入るのはこれで二回目。

 親や世間が見たら「なんて危機感のない」「これだから地方出身者は」とか言われるやつだよなぁ。

 左の手首に手錠をかけてどこにもう片方をつなごうか部屋を見渡す男がシュールすぎて精神的な物が削られる。

 あーもう。


「ペットショップにエサ用にコオロギとかワーム売ってるの知ってる? なんかしたら夜な夜なポストから虫入れるからね」


 そう脅す事で手錠は勘弁してやった。

 虫をポスティングすると言っただけでわぁわぁ言うんだから大丈夫でしょ。


 つけっぱなしのテレビとちゃぶ台には食べかけの「一汁三菜」的な夕食が並んでいて少しイラつく。ご飯の途中で飛び出てくるなんてよっぽどか。

 虫嫌いのくせに自炊する系男子か。

 苛立ちから心中で理不尽になじる。

 部屋の奥、ベランダに通じる窓ガラスから確かにそれは見えていた。


 白いTシャツにくっついていたのはただのカミキリムシ。本当に、ごく普通の昆虫じゃないの。何が新種だ期待させやがって。

 まぁ下着にくっついてなくて良かった。

 窓を開け、手を伸ばすだけで届くカミキリムシの胴をつまむようにして捕まえる。ギチギチと音を出して威嚇してくる様子にふと思い付く。


 腹いせにこの音を聞かせてやろう。


 つまんだまま部屋に入ると案の定住人の男は大騒ぎだった。

「なんで持って入るんだよ! ポイしろよ、ポイ!」


 よし、このまま持って帰れば安全にこの部屋を出られる。

「音すごくない?」

 強気になってカミキリムシを虫嫌いの方へオラオラとばかりに差し出した、その時だった。


 テレビのコマーシャルが終わって番組が始まる。

 それは夏ならではの特番。

 子供の時に比べて今時は滅多に見掛けなくなったというのに。


『そこには━━』

 こういう番組でよく聞く男性声優さんの効果を狙った低い声。


 ダメだ。

 これは見ちゃダメなやつだ。

 これからお風呂も入らないといけないのに。


「じゃ帰る」

 さっさと部屋を出ようとすると、虫嫌いはすっと動いてちゃぶ台のリモコンを手に取るとテレビを消した。


 けど。

 ダメだ。遅かった。

 ちょっと見ちゃった。

 何年も見ないようにしてたのに。


 なんてモン見てんだこのヤロウ。


「もしかしてだけどユキちゃん怖いのだめだった? 俺好きなんだけど」

 趣味悪いな!そう罵ってやりたいけど今の私にはいろいろと絶望しか無くて返答できない。

 静かになった部屋で手元のカミキリムシだけがギチギチ言いながら暴れている。

 一瞬服にカミキリムシをくっつけてやろうかと思った。


「えーっと、このあいだ電気つけたまま寝ようとしてけど、暗いのこわかったりする? 今晩眠れる?」

 ええ、ええ、その通りだよ!

 なんと答えたものか。答えられずにいると重ねて虫嫌いが言う。


「晩ご飯食べた? 余分あるんだけど食べてく?」


 ※


「むかし、寺のジイさんが言ってたんだけどさ」

 向かい合ってご飯を食べながら、虫嫌いは控えめに口を開く。


「仏さまはなにもしないって」

 ……お坊さんそんなこと言っていいの?

 心霊系はホントにダメなのよ。


「えーと、泊まりに行こうか? なんだかんだもう3回もお世話になってるし」

 心霊系も怖いけど、コイツは違う意味でホントに怖い。

 って、虫を取ったのは2回だけど?

 そう思って思い出す、もみじ饅頭━━


次回 明日2021.02.18 16時更新

連日更新で全10話になる予定です。


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