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初めての蹂躙

《マスター!侵入者にトラップルームが突破されました!

我が方の兵数は残り83です!》


--くそ、トラップ部屋で思うように減らなかったな…。これはまずいかもしれない…。


時間は少し進み二人が集落へ向かってから丸一日過ぎた頃、ダンジョンは野党らしき一団からの攻撃を受けていた。

敵方はショートソードの前衛が三人、短弓とダガーを持った後衛が二人の五人組。


トラップ部屋で前衛二人を負傷させ、ダンジョン外に追い払ったはいいものの、偵察の段階で20体、トラップ部屋でも50体以上こっちのゴブリンはやられており、現時点で既に損害が想定を超えてしまっている。


-- …こうなったら次の大部屋への侵入と同時に、現状の総戦力で一気にたたくしかないな。

-- 彼らに各個撃破の迎撃態勢を取られてしまったらいよいよもって勝ち目がない。


《…了解しましたマスター。》


侵入者はトラップ部屋から大部屋への通路を通っている、罠部屋も無駄ではなかったらしく、彼らは肩で息をしており、深い疲労が見て取れる。

武器も構えておらず、モンスターの襲撃を考えていない態勢だ。

罠部屋以降ゴブリンはけしかけていない為、もしかしたら彼らはこのダンジョンは制圧完了したと考えているのかもしれない。

それならまだ僕にも勝機がある。


-- 今の彼らの状態は戦うものじゃない。部屋に入ったら戦闘態勢に入る前に数で押しつぶせ。


《サー!イエッサー!》


通路を抜け、大部屋に前衛の侵入者が足を踏み入れた瞬間、残っていた80体余のゴブリンが一斉に襲い掛かった。

完全に虚を突かれた前衛の侵入者は慌てて剣を構えるが、ちゃんとした迎撃態勢がとれていなかったのが数体のゴブリンを切り捨てた後、こん棒の一撃を受けきれず剣を手放した。

そのまま追撃しようとするゴブリンの眉間に、前衛の後方からダガーが突き刺さり後ろに倒れる。

残っていた二人の後衛の内一人が弓を捨て、短剣を構えて前衛に出てきたのだ。


-- …っ!

-- 後衛でも接近戦できるのか。


とはいえやはり得意なわけではないのだろう、不安定な態勢ですら数体を切り捨てた彼と違い、防戦一方で深刻なダメージを受けないようにするだけで精一杯のようだ。

しかしダガーの後衛の更に後ろには、矢を放ってくる後衛が控えており、当然ながらそちらからは矢が射かけられている。

一刻も早くダガーの後衛を突破しなければ射程の差でゴブリンは一方的に屠られ続ける。


-- ダガーの敵にもっと圧力をかけろ!早く後衛の射手を倒すんだ!


《サー!イエッサー!》


既に侵入者に攻撃している仲間のゴブリン諸共、ダガーの後衛を押しつぶすよう一斉に侵入者へ殺到したその時。


「ユーリ、下がって! ・・・・!」


侵入者が何かを唱えながら、小さな壺のようなものを地面に叩きつけた。



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地面に叩きつけられた壺が割れ中から白い靄が周囲に広がったかとおもうと、靄に触れたゴブリンがまるで濡れた紙粘土のように溶けだした。


あれは毒か!侵入者に影響がないところを見ると、多分モンスターにしか聞かない毒霧のようなものだろう。

あんなものをこの閉鎖空間でぶちまけられたらひとたまりもない!


-- まずいぞ…。とりあえずゴブリンを全員下がらせろ!大至急だ!このままじゃ全滅だぞ!


《ダメですマスター!あのアイテムを使われる直前に範囲拘束系の魔法を使われたようです。動けません…》


なん…だと…。


呆然としている中、霧はどんどん広がり、ゴブリンはその数を減らしていく。

五分もたたずに集結していたゴブリンは全てその姿を消していた。


-- …ゴブリンの再スポーンまであとどれくらいかかる?


《最短で10分はかかります。マスター》


毒霧は大部屋を埋め尽くしたあと、大部屋から放射状に延びている各通路を順番に埋め、奥に続く通路や生き残りのゴブリンを探すかのように蠢いている。

このままではダンジョンコアのあるここへの通路が見つかるのも時間の問題だろう。


…万事休すか。もう僕には侵入者を止める術がない


-- 罠部屋の構造、ゴブリンの運用の仕方、戦力の不足。

-- ダンジョンとして侵入者を迎え撃つには足りないものが多すぎたな…。


《わが方の練度も十分ではありませんでした。やはり野良ゴブリンと人間ではわけが違うという事なのでしょう…。

勝ちに奢らずより鍛錬を積むべきでした…。

口惜しい限りです》


侵入者に対する手ごたえがあまり感じられないここまでの進路を思い返し、自分に足りていなかったものを反芻する。

僕も鬼丸と同じ気持ちだ。出来る事はもっとあったはずなのにそれをせず、結果好き放題蹂躙されてしまった。


そうしているうちに侵入者は僕の位置を突き止めたのだろう、警戒しながらも、大部屋からここにつながる一本道を進んできている。



ダンジョンコアは破壊されても死ぬわけではなく、一定時間その機能を失うのみで、いずれは大地の魔力を元に破壊される前と同じ魔力量に再生すると聞いている。


ただし破壊された瞬間、その魔力のすべてが魔力石という鉱石に変わってしまい、魔力路はその効果を失う。

ダンジョンは物理的な耐久力を魔力路に依存している為、コアの破壊はダンジョンの脆弱化、ひいては崩落につながる。


つまりここで僕が侵入者に破壊される事は、拡大してきたダンジョンのいくらかが崩落してしまい、それらの掘進がやり直しになる事を意味し、最悪の場合、僕自体が土中に深く埋もれ、そのまま何もできずに漫然と時を過ごす羽目になる。



今までにも多くの知性あるダンジョンコアは、その「何もできない生き地獄」と「積み重ねたダンジョンの喪失感」、あるいは人間に何度も破壊される無力感に耐え兼ねて、神に自死を請うのだそうだ。


自称神から聞いたそんなダンジョンコアの末路を思い返していると、侵入者はもう僕の目前に迫っていた。


自分を壊す為に降り降ろされる剣を見ながら、次こそはこんな事になるまいと決意を新たにしつつも、生まれて初めて体験するダンジョンコアとしての死に対し、僕は心の底から恐怖していた。

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