奇を以って勝つ
本日二話投稿です
-- うし。命中。流石赤丸。ナイスコントロール
《こんなん俺にかかりゃあ朝飯前よ!うははははは!》
ゴブリンの投石で相手を挑発し、一斉掃射の為に射手が固まったところへオーガが遠距離から大岩を投げつけて一網打尽。
名付けて「射程外から爆撃作戦」だーいせーいこーう。
中世最高のコスパを誇った遠距離兵器「そこらの石」を舐めるなよ!
ばーかばーかぶたのけつ。
-- ダイダロス!今だ!
「敵陣総崩れなり!全隊!かかれぇ!」
『おおおおおおおおおおおおお!!!!』
地を揺るがすような大声を上げながら、ゴブリンの後ろから飛び出し
敵軍へ殺到するラビリスルーラー領部隊。
トライロからの避難民の内、戦闘経験のあった三千人を第二部隊に組み込んだ、総勢八千人に及ぶ即席部隊である。
シルル家の正規軍は何の前触れもなしに降り注いだ大岩に全く対応できず、更に大岩によって巻き上げられた砂ぼこりのせいで射撃部隊が役に立たなくなった事も相まって、装備の質ではこちらを大幅に上回っているにも関わらず、こちらの突撃を受けきれていない。
-- これならいけそうかな…。
と思わず呟いてしまってから気付いた。
これがいわゆる「フラグだった」という事に。
この世界がそれを見逃すほど甘くない事を、スグハとタオヤメの前例から知っていたはずなのに。
ドォン!!
唐突な爆発音と同時に、ダンジョンマップに表示されていた戦闘中の赤と青の光点が円形状にかき消えた。
!?
あれは銃撃じゃない!爆弾だ!
あいつら自爆しやがった!
回復する為に自軍死者の回収を急がねばと思っている最中、更に立て続けにドン、ドンと爆発音が続く。
ちょうど乱戦になっている場所で爆発が相次いだ為、勢いに任せて突っ込んだこちらの方が被害が大きい。
さらに三度の爆発音によって距離が空き、互いの兵に冷静さが戻りつつあった。
これはまずい。個の戦闘力では向こうが圧倒的に上なのだ。
未だ数で劣る中、冷静な戦闘では勝ち目が薄い。
そう思い自軍に撤退を指示しようとしたその時、敵軍は奴隷兵を前に配置し、本隊は奴隷兵の後ろに下がり始めた。
なんだ?奴らは何をしている?
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「なんだぁ?奴ら奴隷兵を盾にして、なに企んでやがる。」
ダイダロスは戦場の最前線で得意の長剣を構えながら、今にもとびかかりそうな隊員を制し、敵軍の出方を窺っていた。
(唐突な爆発で少なくない人数が逝ったが、幸いここはラビリスルーラー領だ。
ダンジョンコアの発言を信じるなら、ここで死んだとしても蘇生は可能であり、死は恐れるべきものではない。
恐れるべきはここで領軍が全滅し、ラビリスルーラー領が敵の手に落ちる事だ。
そうなってしまったら、蘇生も何もない。すべてが終わる。)
第二部隊隊長である彼が判断を誤ればそのリスクは格段に跳ね上がる。
それを防ぐために、彼は敵軍の一挙手一投足に神経を尖らせていた。
しかし、彼にとって無限にも思える数分の対峙は、意外な形で破られた。
奴隷兵が横一列に隊列を組み、こちらに向かって進み始めたのである。
「んんん?碌に武器のない奴隷をこっちに進ませるってどういう事だ?投降か?」
彼は側近の部下に指揮を任せ、自ら隊列の中央付近の奴隷へ近づいていく。
彼らの両手はもちろん、両足にも武器はなく、見えるのは何かを背負っているだろう事だけ。
…ダイダロスの行動を軽率と責めることはその場にいた誰にも出来ないだろう。
彼にとって目の前の奴隷は『何ら脅威になるものを持っていない被害者』なのだから。
奴隷に近づいた彼は、奴隷が俯きながら小さな声で同じ言葉を繰り返しているのに気付く。
「こっちに来ないでこっちに来ないでこっちに来ないでこっちに来ないで…」
年は20に届かない程度の青年だろう。
がりがりに痩せこけて眼も虚ろだが、これくらいならまだ助けられる。
あの絶望に支配されきっていた魔人種ですら、あのダンジョンコアは助けたのだ。
「君は何を怯えてるんだ?もう大丈夫だ。ほら。」
彼が伸ばした手が奴隷に触れるか触れないかという刹那
-- 今すぐそこから離れろ!!!!
「え?」
脳裏に絶叫が響くとほぼ同時に、横一列に並んだ奴隷は爆音とともに吹き飛んだ。




