モンスターコアを作ってみた。
-- えっと、モンスターを捕まえるんですか?
確かに異世界の知識とやらにはポケットなモンスターや節足動物を捕まえ、使役して戦わせる遊びがあったが…。
『いや、あくまでもベースにするだけさ。
まずゴブリンを視界に入れよう。地図にうろうろしている黄色い光点があるだろう?それにズームするよう念じてくれ』
言われた通りに念じてみると俯瞰図だった地図の一部分が拡大されていき、地上から5mほど浮いた監視カメラのような視点になった。
そこにはこっちに気づく様子もなく、地面を見ながら鼻をひくつかせている痩せこけた緑色の二足歩行生物が映し出されている。
食べ物を探しているのだろうか?
『視界に入れられたようだね。じゃあ視界にいれたまま「諸元取得」と唱えてくれ。
先ほどまで僕と話していた時のようなやり方で大丈夫だ。』
-- え?…んじゃまぁ
-- 『諸元取得』
唱えた瞬間、莫大な量の情報が目の前に溢れてきた。
身長体重はまだ解るが、魔素がどうたら構成素材がこうたら繁殖機構がなんたらと、使い道が思いつかない情報が山とある。
-- うわわわわ!な、なんですかこれ!
『それが「ゴブリン」という生物の持っている情報さ。
君に渡した知識の中では「ゲノム」とかいうのが一番近い表現かな?
厳密には違うんだけども、そんな感じのものだと思ってくれ』
-- はぁ…。でもこんな量の情報、とてもじゃないけど覚えられませんよ?
『それに関しては大丈夫だ。
諸元取得は人間社会で鑑定スキルと呼ばれているものの一つなんだが、
これらのスキルは得られた情報が魂に、君の場合は記憶容量に
刻み込まれるようになっていてね。
一度得た情報は一字一句間違いなく思い出せるし、その情報を
物や人に刻み込むことができるんだ。』
-- なんと便利な。
『でしょう?さて、じゃあ次にモンスターを生み出すモンスターコアを作り出そう。
「配下生成」と唱えてくれるかな。それでモンスターコアが作れるはずだ。
コアができたら先ほど得た情報を思い浮かべながら「諸元刻印」と唱えてくれ』
言われた通りにすると、目の前(正確には自分の内面世界らしいが)、に光の粒子が集まっていき、一つの白い球体ができた。
これがモンスターコアか?
そしてその球体に先ほど諸元取得で見えた情報が吸い込まれていき、球体が白一色から淡い緑色に染まる。
-- 言われた通りにしたらコアが緑色になったんですが…。
『うん。成功だね。刻印されたコアは刻印された情報がもつイメージカラーに染まるんだ。
今回はゴブリンの情報を刻印したから緑になったんだろうね。』
なるほど。
-- で、この後どうすればいいんですか?ゴブリンはさっきの一匹以外いないようですけど…
『まぁ慌てない慌てない。今回刻印したのはゴブリンだし、さほど時間かからずに起動するはずさ。』
と自称神様が言い終わるが早いか
《マスターどの!ゴブリンコア!準備完了したであります!》
軍隊を思わせる物々しい声が響くと共に、地図に青い光点が生まれた。
すぐさま拡大すると、そこには右手親指を額に当て、見事な敬礼をしているゴブリンの姿が…。
先ほど見た野良ゴブリンと比べて、些か筋肉質で背筋も伸びている。
-- …ゴブリンってこんな軍人っぽいんですか?自分の持ってるゴブリンのイメージとだいぶ違うんですが…。
『モンスターコアの性格は、コアの創造主がモンスターに期待する内容に強く影響を受けるんだ。
たぶん君はこの子のコアを作る時に兵隊のようなイメージを持っていたんじゃないかな?使役されて戦うイメージというか。
それが軍人風の性質として出たんだろうね。まぁいいんじゃない?扱いやすそうで』
先に言え。家政婦的なイメージでコア作ったらどうする。
甲斐甲斐しく家事してくるゴブリンとか悪夢だぞ。
-- これ、会話は普通にできるんですか?
『もちろん。
君が伝えたいと念じた相手には、ダンジョン内であれば魔力路を経由して伝わるし、使役してるモンスターならダンジョンの内外を問わず伝わるから不自由はないだろうけどね。
音として伝わっているわけじゃないというのは覚えておいてね』
-- なるほど。あーあー。ゴブリンコア、聞こえてるかー?
《聞こえております!マスターどの!》
おぉ。会話ができてる…
てか、こっちの球体が本体なのか。
で、あの敬礼してるのはこの球体が操作してるのな。ふむふむ…
『んじゃコアも出来たし、僕はこのあたりで失礼するよ。
さっき話したアシスタントに関しては近いうちに送ろう。
君の直属の部下、モンスターコアの同僚みたいな位置になるから仲良くしてやってくれ。』
-- わかりました。…まぁ正直まだ不安要素は多いんですが、やれるだけやってみますよ…。
『ははは、まぁモンスターコアができたのだから色々試せる事もあるだろう。
異世界の知識と合わせて何とかうまい事やってみてくれ』
そういうと何とも言えない「途切れた」感覚を残して、自称神様との回線は切れたようだった。
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-- さて、じゃあ改めてよろしくゴブリンコア。
《はっ!よろしくお願いしますであります!》
-- でだ、まず君の得意技能や、出来ることを教えてもらえるかな。
《はっ!ゴブリン種は基本的に得手不得手の少ない種族であります!
集落を構築する事もありますので、土木建築から戦闘まで幅広い任務を実施可能です!
反面文化的な生産性を持たず、取り立てて優れた分野のない、最弱に近い種族になります!》
そんな卑下せんでも…。
-- ふむ。なるほど、ゴブリン種についてはよくわかった。
-- そのうえで君に聞きたいのだが、このダンジョン、つまり僕は生まれてからまだ間もない。
-- そこで君の見解を聞きたい、これからどのようにするべきだと思う?
これは卑怯な質問かもしれないが、これからこのコアに自分の生を預ける以上、聞いておかねばならない。
僕はまだ彼がどの程度の知性を持っているのか知らない。
もしある程度自分で考えて行動できるだけの知性があるなら、今後の彼への指示は曖昧であっても大丈夫だろう。
しかし彼が指示を忠実に実行するだけの指示待ちゴブリンであるなら、それを加味した具体的な指示が求められる。
ダンジョン作りはおろか建築の経験が微塵もない僕としては、ある程度の自立した知性を期待したいところだが…。
《はっ!では僭越ながら具申いたします!
現在我がダンジョンは外敵の侵攻に対してあまりに脆弱です!》
お?
《現在ダンジョンを構成している洞穴の構造は極めて単純であり、その開口部から心臓部たるマスターのコアまでは50mほどしかありません。
これでは外敵の侵攻時に対応する時間がほとんど取れません。
よって可及的速やかに現状の洞穴を掘進。洞穴の構造を複雑化するとともにマスターを洞穴深部に移設。
しかる後に我々ゴブリン種による対侵攻陣地を構築するべきかと考えます。》
こ、このゴブリンやりおる。
真面目な話自分より物事考えているのではなかろうか。
ゴブリンってこんな頭良かったっけ…。
-- う、うん。君の提案に異論はない。その方針で進めてくれ。
《はっ!了解しました!マスターどの!》
ふう…優秀じゃん、ゴブリン…。
あれ、そういえば。
-- ゴブリンコア、今ダンジョン内にいるゴブリンは一体だけのようだけど、これって数は増やせないのかい?
《いえ、そんなことはありません。
我々モンスターコアは一定の間隔でマスターの魔力を消費してモンスターをスポーン致します。
モンスターによって、生成間隔と生成にかかる魔力量は変わり、我々ゴブリン種は個体の能力があまり高くないので、スポーン間隔は15分ほど。
1体スポーンするのに消費する魔力量は、今のマスターの魔力量比で0.7%ほどになります。》
0.7%というと限界まで使い切って大体150体くらいか…。
ゴブリンコアが僕の質問に答えてくれている間にも、ダンジョンのゴブリンは黙々と洞窟内を掘り進めている。素手で。
生成されるたびに掘進作業へ回していても、道具を使っていない現状ではあまり効率は良くないだろう。
そういった文化や知識に関してはこちらから指したり提供したりする必要があるという事か。
徐々にだが、ゴブリンに自発的に何が出来て、僕が何を示せばいいのかが見えてきたぞ!
-- わかった。じゃあスポーンしたゴブリンのうち一体を、一時間ほどの間隔で洞窟外に偵察に出し、
-- 併せて木材と加工用の石を集めるよう作業を割り当ててくれ。
-- タイミングをみて土木工事用の道具の作り方を教えるから、一部のゴブリンが道具を作り、
-- それ以外のゴブリンは道具を用いて掘進を進めてくれ。
-- その方が素手よりも作業効率はよいはずだ。
-- 個体数についてだけど、まずは僕の魔力を限界まで使い、作れるだけ作ってくれ。
《了解しました!マスター!》
よし、やるぞ。




