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とある貴族の覚悟と矜持

本日二話投稿です

時は少し巻き戻り、ダンジョンに住む奇特な貴族が王国に生まれる少し前の事。


「ダンジョンに居を置くだと?何を馬鹿な…。

そんな世迷言を許可するわけがなかろう。」


私の要望を、叔父に当たるクリティシャス家の現当主、オニキス・L・クリティシャスはそう切り捨てた。


王都に着き、生家の取り潰し、後任となるシルル家の任命式を経て、私はあの騒動がシルル家による謀略であると半ば以上確信していた。

オルドビス家は土地柄国境警備を兼ねていた為、僻地にありながら強い発言力を持ち、隣接するシルル家とは発言力の差に端を発する確執が根強く残っていた。

恐らくシルル家としては「うまくいけば儲けもの」程度の認識であり、関与も微々たるものだったのだろうが、裏から糸を引いていた本当の黒幕が彼らであった事は、王都に赴いた際のやり取りからすぐに解った。


だが解ったところでどうにもならない。

仮にも相手は王国の庇護下にある貴族であるし、王国へ提示できる証拠もない。

彼の家への追及は諦めざるを得なかった。


しかしシルル家の魔手があのダンジョンにも伸びるのなら話は別だ。

あのダンジョンのマスターにも、そこと縁が深いであろうあの二人の冒険者にも、命を救ってもらった恩がある。

彼らが居なければ、私はあの時賊の傀儡に落とされていたか、殺されていた。


何れにしろ、貴族としてここにいる事は出来なかっただろう。


彼らに救われたこの命、そして貴族たるこの立場を無下に腐らせる訳にはいかなかった。



シルル家はオルドビス家の私兵団を殲滅したあのダンジョンを危険視し、既に独自の調査を開始している。

加えてシルル家領地に駐屯している正規軍も、ダンジョンへの侵攻に向けて装備を整え始めている。

駐屯軍は私兵団とは量も質も段違いだ。

本気の攻略なら、あのダンジョンでは万に一つも生き残れない。



それを防ぐために私は今、王族に次ぐ権力、決定権を持つクリティシャス家に来ている。

クリティシャス家の当主さえ説得できれば、あとは私自身のコネクションであのダンジョンを王国の庇護下に置ける。

出来る事なら王国との縁を切った状態で安全を確保してあげたいが、今の私にそれはできない。

ダンジョンを私の領地とし、正規軍の侵攻を政治的に食い止めるのが精いっぱいだ。



「どうかお願いします叔父様!わたくしはあのダンジョンだけは失うわけにいかないのです!」


「一体何を言っているんだお前は、たかがダンジョンだろう。

ダンジョンに魔力石の生産以外にどんな価値があるというんだ。」


よし、ようやく叔父様の口からその言葉が出てきた。

でもここで食いついては情報の信憑性が低くなる。

それに都合よく叔父様付きのメイドもいる。

まずは人払いから…。


「そ、それは…」


と口ごもりながら、叔父の傍についているメイドへわかりやすく視線を送る。

「…?

あ。

し、失礼いたします。」


一拍置いて意図をくみ取ったらしいメイドは、頭を軽く下げて出て行った。


「あのダンジョンは…あのダンジョンはわたくしがコアの制御に成功した初めてで唯一のダンジョンなんです…。

ようやくダンジョンの魔力を使った湯の生産や製氷の目途が立ち始めた所ですのに…ぐすっ」


もちろん涙を含めて嘘っぱちだ。

しかし叔父様が聞いていた通りの人物なら、これでも十分撒き餌としては使えるはず…。

…ちらっ



「製氷…だと…。それは本当か!詳しく教えろ!」


こうかはばつぐんだ。やったぜ。


「え?は、はい!叔父様!

まだ具体的な仕組みは解明できていませんが、わたくしの魔力とダンジョンコアの相性が格別に良かったらしく、湯や冷水の生成、モンスターの簡単なコントロールがコアを経由する形で操作出来たんですの。

その延長線上として製氷をも行えるシステムに取り掛かったところで「いくつだ。」」


「え?」


「一日でどの程度作れるのかと聞いている!」


ふぃーっしゅ♪


「えっ?えっと…

今はまだ一日あたり1キロほどです…。

で、でもダンジョン内には冷凍室も作れますので一日の生産量はわずかでも作っておけb「冷凍室だと!?」」


せかんどひっとー♪


「ほ、本当なのかそれは!お前が今回関わったダンジョンで製氷とその保存ができるるんだな!?嘘ではないな!?」


「は、はい!わたくし叔父様に嘘なんかつきませんわ!

わたくしの目を見てください!」


その部分に関しては嘘はついてないよ。その部分に関しては。


「…わかった。他ならぬ姪の頼みでもあるし今回はその希望を通してやる。

ひと月の期限付きで仮爵位とダンジョンを中心とする周囲2kmの領地の下賜を明日国王に具申する。


そして爵位下賜から数えてひと月以内に儂にそのダンジョンでの製氷を見せてみろ。

それがわしの期待に副うものなら爵位と領地はそのままくれてやる。

爵位の継承は認めんが、それ以外は好きにするがいい。


ただし!無理だった場合はお前の命は無いと思え。」


「は、はい!!」


姪の頼みと自分で言っておきながら命を賭けさせるとは、とんだ鬼畜もいたものね。

まぁでも、これなら想定の範囲内かな。


叔父様の領土は豊かな漁場だと聞いている。

安定した氷の供給元は喉から手が出るほど欲しいだろうし、それが冷凍室を兼ねられるなら尚いいだろう。


私は顔の青さと体の震えは止めずに、心の底でほくそ笑んだ。


「む、仮爵位の場合は希望の家名が必要なのか。ちっ、面倒な…。

おい!ここに希望の家名を書け!」


「は、はい!」


マスターさん。

私のこの命は、あなたを国や貴族の利権から守る盾となれるでしょう。

家名は些か不遜に過ぎるかも知れませんが、

貴族の都合とでも思って許していただきたいです。

まぁあなたはそんなこと気にしないかもしれませんけど。


私は自分の一生をこの家名に捧げます。

これから永劫を生きるあなたにとっては、わずかな時間かもしれませんが

どうか私の一生があなたの孤独をわずかでも癒せるよき思い出となれますように…


爵位:【臨時爵位】迷宮伯

家名:ラビリスルーラー(迷宮の統治者)

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