人間社会の面倒事。
新ダンジョンの初陣が終わってはやひと月。
《マスター。三組目のパーティ、1-3で全員脱落であります》
《一組目のパーティは1-5をクリアしたようですが、ここまでで8名中5名が死亡。2名が毒を受けており、健常な実働要員は1名のみです。
あ、どうやら撤収するようです。残った生きている三名が撤退口に向かいます》
《一組目ノ5人ハ回復済ミ。三組目ノ回復ニカカリマス》
初陣の翌日にスグハ、タオヤメのグループが訪問し、あらかじめ打ち合わせていた通り1-5まで攻略した後、帰還。
更にその翌日には蘇生ギミックの検証として、処刑予定の犯罪者を三名ほど連れてきた。
丸1日犯罪者を使って検証を行った二日後からは、スグハたちの調査結果を聞いた冒険者が連日訪れるようになった。
ほとんどの冒険者は1-3か1-4で脱落するが、5組に1人は1-5まで到達し、そこでギブアップしているようだ。
また、初陣の経験からダンジョンへと変更を加える事にした。
具体的な変更点としては、まず1-5にはモンスター殲滅後に開く撤退口を追加した。
あの後何組も冒険者パーティが来るようになり、このままでは
「1-5クリア後、来た道を引き返したいのに、後発組がまだ攻略中で引き返せない」
という事態になりかねなかった為、1-5には撤退口を設け、1-5をクリアした冒険者は元来た道を戻ることなく途中で撤退できるようにした。
また、骨丸の進言に則り、1-5をクリアした際、報酬として親指大の魔力石を出現させる事にした。
何度か試したところ、どうも魔力路で吸収する魔力量には時間当たりの限界量があるらしく、短い時間にあんまり多くの魔力がダンジョン内で消費された場合、魔力路で全て吸収しきれず、吸収されなかった魔力は僕の表面に結晶化するようだ。
結晶は大体3時間ほどで親指大の大きさになるので、この魔力石を冒険者を呼ぶ餌として使っている。
この大きさの魔力石は山のように余ってるし、そもそも僕には使いようがない。
対して人間目線ではこの大きさの魔力石でもそれなりの実入りらしい。
タオヤメとスグハにも確認したが、損害と天秤にかけても十分得になるようだ。
正に共生関係が実現できている。
また、モンスターコアの情報にも進展があり、スグハからオーガのデータが、タオヤメからはリッチのデータが送られてきた。
最初は「なんで二人から別々に?」と思ったが、どうも最近は二人で分かれて依頼をこなす事もままあるのだそうだ。
話を聞くと、どうやら今いる街の有力者が、スグハに熱を上げているようで、男女の仲には見えないが、明らかに仲が良い二人を意図的に分断し、1:1でのアプローチを繰り返しているらしい。
幸い二人の能力はそこらの人間とは比にならないほど高いし、二人も然程気にしていなかったから野暮な横槍は避けたが、あんまりヒートアップするようなら何か考えないといけないかもな…。
閑話休題
リッチとオーガのコアは早速コア精製をしてみた。
リッチは荘厳なイメージ、オーガは粗野なイメージで…
光が集まっていき、他のコアたちと同じように球体を形作る。
リッチのコアは黒色、オーガのコアは赤色だ。
《お初にお目にかかります。リッチのモンスターコアでございます。
以後お見知りおきを。》
《よぉ。俺がオーガのモンスターコアだ。よろしく頼むぜぇ、主様よぉ。》
おおお。
うん、多分今までで一番しっくりくる!
あ、いや鬼丸や骨丸や霧丸に不満があるわけじゃないんだよ。
単にイメージの問題だから、イメージの。
そのまま彼らの得手不得手について聞く流れになり、リッチ、オーガの特性について教えてもらった。
■リッチ
・高位モンスターに分類されるらしく、使える魔法に制限はない。
人間と同じく学べば使えるし、自身で独自の魔法を生み出す事も可能。
・物理的な攻撃に対して耐性を持ち、衝撃は受けるがダメージは受けない。
・魔法による攻撃もその術式に割り込んで打ち消すことが出来るらしく。人間の魔法使いと1:1で勝負する場合はまず負けない。
・高位モンスターであるが故に、現時点ではダンジョン全体で同時に5体までしかスポーンできない。
・スケルトンと同様に毒は効かない。代わりにアンデッドの為、洗礼を受けた水(聖水)や、僧侶が行う祈りの影響を受ける。
・ダンジョンコアの名前は色のイメージから黒丸とした。
■オーガ
・魔法による強化がない場合、ミスリルまでの武器では殆どダメージを負わない。ダメージを負うのはアダマンタイト製の武具から。
・腕力は比較対象がない程に強く。自己申告では、1体いれば500人の街を壊滅させられるとの事
・魔法による攻撃にめっぽう弱い。特に中遠距離からの魔法攻撃に対する耐性が非常に低い。
・ほとんどの武器はオーガの腕力に耐えられない為、戦闘はもっぱら徒手空拳。
・ダンジョンコアの名前はオーガの見た目が屈強な赤鬼そのものだった事から赤丸とした。
--よし。じゃあ次は君たちの配属を…
そう続けようとした瞬間、唐突にタオヤメの声が響いた
「マスター!お忙しいところ申し訳りません、火急の要件です。」
あれ、珍しい。スグハは?
と聞く間もなく彼女は特大の爆弾を投下した。
「私たちは今殺されようとしています!助けてください!」
-- えええええええええええ!?
な、なにがあったん!?
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-- つまりその街の貴族に拉致されそうになったので逃げ出したと。
-- で、その後貴族に追っ手を差し向けられて、今はそこから逃げている状態と。
-- そういうこと?
「はい…大まかに言えばそうなります…。
マスター…私たちは何を間違えてしまったのでしょうか?
違法な事は何もしていないと思いますし、オルドビス家の要望も断りはしましたが礼は尽くしたと思っています…。
なぜ私達は拉致されそうになり、今も追われてしまっているのでしょうか…」
オルドビス家というのは二人が今いる街の統治を行っている貴族の家名らしい。
彼らからの情報を元に、今までの経緯と起きた内容を整理するとこうなる。
まず二人が地竜討伐をした後、街の住民からはとても歓迎された。
それまで依頼を実直にこなしていた事もあり、とても居心地良く過ごせていたらしい。
今いる街には、冒険者用の依頼を管理する冒険者ギルドなるものがあるらしく、そこに登録すれば二人のように街の外からきた者でも住民からの依頼を受けることができるのだそうだ。
(つい最近来た六人組の冒険者もこのギルドに登録していたっぽい)
地竜討伐を評価されて冒険者としての格付けであるランクはBとやらになり、人間関係のトラブルもなく順調に冒険者業を続けていた。
しばらくたった頃、街の有力貴族だというオルドビス家から仕官の要請があったらしい。
宿に訪れた使者からの書面は難解で回りくどかったらしいが、要は「管轄領地での功績を認め、貴族直轄の治安部隊の一員として雇ってやる。光栄に思え」という内容だったようだ。
文章は不遜この上なかったが、トラブルは避けろという厳命だった為「私たちは冒険者を好きでやっているので、お誘いはありがたいですがお断りします」という内容を、5重くらいに包んでやんわりお断りしたのだという。
その後、しばらくは何事もなく冒険者として依頼をこなす日々に戻っていたが、ある日、依頼への同行を希望する中年の男性と少女が現れた。
二人にとっては同行者がいようがいまいが依頼がこなせればよかったので、特にそれを拒絶することはなかった。
戦力的には特に得をするほどではなく、中年男性はそれなりの腕があり、少女も後方支援としての腕は並み以上ではあったが、二人からすれば特に優れているわけでもなかったので、いつもと何一つ変わることなく依頼をこなし、何事もなく解散。するかと思われたが…。
同行した男性からは「女性や若い男性だけだと危険だ」と、女性からは「スグハさんがかっこよかった」ということで、以降も同行を希望された。
二人は困惑したが、あまりにしつこいので渋々承諾し、以降しばらくは4人での依頼となった。