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〇〇の不思議なダンジョン

「う…ううん…」


顔に滴り落ちる水滴で目を覚ます。


「ここ…は…?」


ゆっくりと体を起こすが尋常じゃない疲労感だ。四つん這いで動くのも辛く、当分は立てそうにない。

どうやら今居るのは浅い洞穴のようだ。

外に通じる穴からは月明かりが入ってきている。


なんだここは…。俺らは確かにダンジョンに入っていたはず。

「そうだ!あいつらは!?」


周りを見渡すと自分以外の五人も同じ洞穴の中にいた。

それぞれが使っていた武器はあったが、着ていたはずの軽鎧や食料や魔道具を入れていたアイテム袋はなぜか消えており、服装は軽装の下に来ている麻のインナーだけになっている。


皆も気を失っているだけで外傷はないようだ。


寝ている間に盗賊にでも取られたのか?

いや、それなら命も一緒に取られるか、拘束され人買いにでも売り飛ばされているはずだ。

男が残されているのはまだわかるが、少なくともアディルーナは絶対攫われているだろう。

いやまて、そもそも俺たちはなんでこんなところで寝ていたんだ?


「おい、起きろグルド!グルド!」


最年長のグルドならなんか知っているかもしれない。

俺はグルドのそばまで這って行くと、頬を軽くたたきながら呼びかけた。


三度目を呼びかけようとしたとき、グルドの目がカっと開き。


「ジルクニフゥゥゥゥ!」


とフェンリルの遠吠えもかくやという大声を上げながら上半身を起こした。


「は!なんじゃここは。どこじゃここは。ジルクニフ!アディ!小僧共も無事だったのか!どこじゃここは!何があったんじゃ!」


「グルド…。少し落ち着いてくれ…。耳がキンキンする…」


グルドを落ちつかせた後、俺は自分の記憶にある限りの事をグルドに話した。

ダンジョン内の罠にはまり、グルドは墜死したはずで、その死体がダンジョンに食われるところまで確かに見た事。

その後自分たちもダンジョンの罠に倒れ、死んだはずだという事。

目を覚ましたら武器とインナー以外がなくなっていて、負ったはずの傷も消えていた事。


「うーむ…。確かに妙じゃのう。

それにこの感覚…。

おそらくキュアをわしらにかけたものがおる。」


「キュア?」


「今はほとんど使われておらん古い救命魔法じゃ。

傷や毒を治し、死後間もなければ蘇生も可能な万能性が特徴なんじゃが、なんせ回復される側の生命力を使った魔法じゃもんで、傷は治っても疲労で碌に動けんようになる。

しかも詠唱も難しく効果範囲も狭く、術にかかる時間も長いという癖が強い魔法じゃ。

傭兵時代に何度か受けたことがあっての。強烈な疲労感を感じるもんで覚えとったんじゃ。」


なんでそんな魔法を…。

確か怪我にはヒール、毒にはアンチポイズン、蘇生にはリユースと、もっと使いやすくデメリットのない回復、蘇生魔法があったはずだ。俺にはどれも使えないが。


「なぜその魔法をという疑問はあるが、要するに俺らを助けてくれたという事か?」


「だとしたらわしらの身ぐるみを剥いだ理由がわからん。

武器は残っているとはいえ、防具を奪っていくくらいならお前さんが考えている通り人買いに売り飛ばすじゃろう。

そもそもわしらの武器だけを残していく理由が無い。

特にお前さんのメイスなんぞアイテム袋の中身よりずっと価値があるんじゃから。」


確かにな。

俺のメイスは希少なミスリルをふんだんに使った特注品だ。

防具一式とアイテム袋を足しても、このメイスの1/10くらいの価値にしかならないだろう。


「とはいえここで考えてても始まらん。

一旦家に戻るぞ、ジル。ここは相談事をするのは危険すぎるわい。」


「わかった。奴らを起こして、早いとこ移動しよう。」



+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-


-- お、やっと移動してくれた。これでスグハたちに保護を頼めるな。


僕の新ダンジョンへの侵入者一号ご一行は第一階層五個目の部屋(通称1-5)であえなく敗退した。


-- 一応1-5のモンスターを倒し切れば、第一階層の扉に張ってる魔力路を一時的に解いて帰れるようにするつもりだったんだけど、難しすぎたかな?


《いえ、彼らクラスの冒険者は突破できない程度でちょうど良いかと思います。

敢えて申し上げるならば、1-5を制圧した際になんかしらの報酬があれば区切りとして撤退しやすくなりますので。なおいいかと。》


-- あ、それいいね。その案採用~。


《ありがたき幸せ》


新ダンジョン最初の侵入者という事で緊張していたが、蓋を開けてみれば大したことはなかった。

まぁ前回の反省を踏まえ、罠は侵入者の排除に重きを置いているし、各部屋にスピリットを置けたことで侵入者の動きも鈍っていたから前と同じ轍を踏むことはないとは思ってはいたけどね。

そして


《マスター。奴ラヲ回復シテシマッタガ、本当ニヨカッタノデスカ?》


-- うん。上々の出来だったよ。

-- キュアってのはすごい魔法だな。あの程度の魔力で蘇生もできるんだから。


《アノ人間モイッテイマシタガ、キュアハ回復スルノデハナク、生命エネルギーニ働キカケテ急激ナ自然回復ヲ行イマスノデ、消費魔力ハトテモ少ナイデス》


そう、彼らにキュアをかけたのは霧丸率いるスピリットだ。


これが今回から盛り込んだ僕のダンジョンの新方針。

名付けて【不思議のダンジョンプラン】だ。



僕がダンジョン再建を考える上で、侵入者の撃退と同じくらい検討した事がある。

それは如何にして「強い冒険者の襲来を避け続けるか」という事だ。


当面の間は、僕のダンジョンに来るのは駆け出し冒険者やちょっと慣れてきた程度の冒険者だろう。

でもそういった侵入者を撃退する上で、少なくない犠牲者は必ず出てくる。


ダンジョンに潜っているのだから自業自得だろうという人間がほとんどかもしれないが、中にはそう思わない輩もいるだろうし、そういった手合いは知識にある限り、大抵立場なり性格なり品性なりが面倒くさいケースが多い。


逆恨みで変に強い侵入者に来られて破壊されるのは嫌だし、かといって強い侵入者を撃退できるほどダンジョンの戦闘力を上げれば、今度は警戒感からさらに強い侵入者や下手したら軍隊を呼び込むことになりかねない。


そこで考えたのが、異世界の発想にあやかった「死んでも死なない不思議なダンジョンシステム」だ。


一般的なダンジョンでは、ダンジョン内で死んだ侵入者は壁や床に取り込まれ、自動的に装備品諸共肉体を魔力路で溶かされ、魔力に還元される。

(冒険者はこれを「ダンジョンに食われる」と表現しているらしい。いい得て妙だ)


この仕組みを利用し、僕のダンジョンでは侵入者を取り込んだあと、まず武器、肉体、衣服以外のすべてを魔力に還元するように変更している。


武器と衣服のみになった侵入者は、一度スピリットのいる閉鎖された部屋に吐き出し、スピリットにキュアをかけてもらう。

キュアで生命力を使い果しながらも回復した冒険者を、再度魔力路で取り込み、今度は洞窟の外壁に作ったくぼみへ吐き出す。

(くぼみにはモンスターが近寄らないよう、周辺をゴブリンが巡回している)


キュアをかける事で一時的に生命力を使い切る為、この過程で反撃される恐れはほぼない。

そしてダンジョン内での魔力消費や死亡時に防具、アイテム等を魔力に還元する事で魔力を回収もでき、更にキュアでの魔力消費量がそもそも多くないのも相まって、この一連の収支は完全に黒字となる。

(完全な吸収に比べて、黒字分が少なくはなる)


また、侵入者側としても武器が残っているので町なりアジトなりに帰還する障害が少なく、吐き出し先のくぼみも安全であり、死亡という最大のリスクが発生しないというのは大きなメリットになるはずだ。


もっとも、今のままでは人間達に僕のダンジョンの特性が伝わらないので、スグハたちに協力してもらい、伝えたい部分はそれとなくリークしてもらう予定だ。

今回の侵入者を倒せた時点でスグハたちには連絡をしており、こっちに向かってもらっている。

そこで彼らの保護と、形式上僕のダンジョンの再調査をしてもらい、人間を安心させるというプランだ。


詳細はよくわからないが、彼らの知名度も結構なことになってるそうなので、調査結果が無下に扱われる事はないだろう。


リークがうまくいけば、死者を限界まで減らせるので逆恨みが発生する可能性を減らせるし、有用なダンジョンとして人間との共存も期待できる。


あぁ我ながら実に素晴らしいプランだ…。

自分で自分を全力で褒めたい。


あとはスグハたちがうまくやってくれるといいんだけど…。

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