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ダンジョン攻略(2)

一つ目の部屋は単純な落とし穴の部屋だった。

レンジャー職であるアディルーナにかかれば罠の場所など一目瞭然で、さしたる問題もなく突破できた。


二つ目の部屋は少し危なかった。

部屋の中ほどまで進んだ時、入ってきた道が閉まり、天井から握りこぶし大の石が雨あられと落ちてきたのだ。


直撃しては命にかかわるが、幸い防壁の魔道具で事なきを得た。

その代償として魔道具は粉々に砕けたが、命には代えられない。


二つ目にして予想以上に危険な罠に戻ろうとしたが、閉まった扉には魔力路が通っているようで、何度メイスを叩きつけてもびくともしなかった。


仕方なく三つ目の部屋へ歩を進めたが、三つ目の部屋へ入って間もなく、俺はこのダンジョンに来たことを心の底から後悔することになった。


三つ目の部屋は迷路だった。高さ2mほどの土の壁で作られた迷路だ。

時間はかかるが、迷路なら時間をかければ攻略は難しくない。二つ目の部屋の殺意に比べれば然程でもないなと思いつつ最初の角を五人そろって曲がろうとした時。


ゴゴゴゴゴ…


足元から石臼を引くような音がしたと思った矢先、入ってきた入り口の床が突然抜けた。


「なっ…!」


しばらくたってバシャンという音が地下から届く。

床が抜けた穴は1mやそこらの深さでは無い。しかも底に何があるかなど解らない。

先の尖った石柱でもあろうものなら串刺しだ!。


「おまえら走れ!床が抜けるぞ!」


その声を皮切りに今まで進んできた床が次々と抜け始める。


迷路の為、今進んでいるこの道が正しいかはわからないが、足を止めることはできない。

今はただひたすら前に進むしかない。


右に曲がり、左に曲がり、また左に曲がる。

そんなことを数度繰り返した結果。


「ちくしょう!行き止まりか!」


突き当たったのは土の壁。

迷路の壁も前の部屋と同じく魔力路が通っており、壊すことは出来そうにない。


「くそ…どうすれば…」


「儂が足場になる!お前ら壁を登れ!」


そう言ってグルドは両手を壁につき、ひざを折る。


「助かるグルド!お前ら!急いで登るんだ!」


早く登らなければ肝心のグルドを引き上げる時間が取れない。

三兄弟、アディルーナ、俺の順で壁に上り、グルドに手を伸ばしたその時。


「…あ?く、くそ…膝に力が入らない!た、立てない!」


部屋に入ってから走り通しの上、グルド五人が登り切るまでの間ひざをついた状態でいた。

膝が痺れてしまい、立てないのだ。


「何やってるグルド!立て!早く!」


「た、立とうとはしてるんだ!でも足が…あ、」


膝をついた自らの膝を叩いているグルドの足元が抜ける。


グルドは手を虚空に伸ばし、こちらを見上げたまま落ちていく。


「グルドォォォォォ!!」


そのまま地面に叩きつけられ、グルドの体から真っ赤な血が広がっていくのが見える。

恐れていた通り、地面には隙間なくびっしりと、先の尖った石柱が生えていた。

グルドはその石柱に首、頭、両足を貫かれている。

あれで生きていられるわけがない…。


「そん…な…くそおおおおおおお!!」


もう少し身を乗り出していれば届いたかもしれないのに…。

こんな事で…こんなところで…!


「お父さん…」


「グ、グルドさん」


アディルーナは口に手を当てて、トニーたちは呆然と、視線の遥か先で血にまみれたグルドの遺体が、ダンジョンの床に吸い込まれていくのを見ていた。

今まで何度も見た「ダンジョンに食われる冒険者」の姿だ、それが敬愛する義父、冒険者の師匠である事を除けば…。


グルドの死を無駄にするわけにはいかない…。

最悪ダンジョンコアは諦めてもいい。

なんとしても残りのみんなで生きて戻るんだ!



--------------------------------------------


壁に上れれば迷路の攻略は容易かった。

まぁ抜ける床に追われる必要も、行き止まりのリスクもないのだから簡単なのは当然だが。


三つ目の部屋の出口にたどり着き、壁から飛び降りる。


「ここで少し休もう」


誰からとなしに地面に座り始める。


出口付近が安全という保証があるわけではないが、経験上ダンジョン内の部屋と部屋の間で罠に遭遇したことはない。

このダンジョンにその経験則が通用するかはわからないが、今は少しでも時間を取り、グルドを失った絶望感とそれに伴う怒り、悲しみを抑えたかった。


「すまない…アディ…。グルドを死なせてしまったのは俺のせいだ…」


「あんた…。

父さんが死んだのは誰のせいでもない。あんたはできる限りのことをしてくれたよ。

あんたが父さんを慕っていた事はわかってる。

そんなに…自分を責めないでおくれ。」


「アディ…」


「あんた…」


思わずアディルーナを抱き寄せる。

出来た嫁だ。俺にはもったいない程の。


「あの…ジル兄、俺ら席外しましょうか?」


「ここダンジョンっすよ。ジル兄」


「浮かれていざという時モンスターの襲撃に対応できないとかやめてよね。マジで」


…一人からの気まずそうな配慮の視線、二人からの呆れた視線を受け、どちらからとなしに離れる。


「よ、よし。休憩終わり。次の部屋に進むぞ!」


「「「はーい…」」」


「…はいよ」



四つ目の部屋は打って変わってほとんど何もない部屋だった。

壁もなければ敵もいないそして「床すら」ほとんどない。

100mほど先に見える出口と、今いる入り口をつなぐ橋のような狭い地面があるだけで、その両脇は、先ほどの部屋で見た、そこに棘のある深い穴になっている。

ここから落ちたなら万に一つも助からないだろう。

比率的にほとんど無い地面は、二人までは並んで通れるが、三人は無理という程度の幅だ。1:1の戦闘はギリギリできるだろうが、二人並んでいる場合はとてもじゃないが戦闘などできそうにない。


「先頭は俺が一人で立つ。トニーとアディ、ルークとジョンでペアを組み、両脇の壁を警戒しながら進もう。」


こういう状況では弓や魔法を使った左右からの挟撃が一番怖い。

次点が目の前を強いモンスターに陣取られ、行くも戻るもできない状況になる事だ。

左右から挟撃されても俺以外なら矢を叩き落とすなり魔法に魔法をぶつけるなりで対処できる。


俺は俺で眼前に何が立たれても押し通る自信があり、また、他の奴らよりは近接戦に慣れているので、先頭に立つとしたら間違いなく俺だ。

異論も出なかったので、前方から1:2:2の陣形で進んでいく。


部屋の中ほどまで来たところで、後方からズズンという音が聞こえる。

他の部屋同様入り口が塞がったのだろう。

と思った刹那。両側の壁が崩れ、その先には弓を構えた20を優に超えるスケルトンの群れが…。


「矢を払いつつ進め!」


大声で怒鳴ると同時にスケルトンからは矢が射かけられた。

二人で両側を対処できるようにしておいて正解だった。

一列縦隊で進んでいたら今事なすすべなく殺されていただろう。

「ぐっ」


「いたっ」


「もう少しだ。頑張れ!」


流石に全て切り払うのは無理があるのか、時折後ろからうめき声が聞こえる。

かくいう俺もかすり傷程度ではあるが、矢によって傷を負ってしまっている


「よし!もう届くぞ!お前ら出口に飛び込め!」


四つ目の部屋を全員が出た瞬間、四つ目の部屋の出口が音をたてて閉ざされた。

負傷はしたものの、なんとか死者は出さずに乗り切れた。

そう安堵していると


「う…なんだ?これ」


何やら手足の感覚がおかしい。

手がしびれてメイスを持つ手に力が入らない、足も同じだ、立つのもやっとで、今にも膝から崩れ落ちそうだ


(まさか…毒か!?)


急いで他の連中を確認すると、皆顔色が悪く、息も荒い。

まずい…数か所のかすり傷しかない俺でも感覚の異常を感じるのだ。

負傷箇所が多い彼らはもっと重い症状のはず。


解毒方法を探すために飛び込んだばかりの部屋に目をやった瞬間。

思考が停止した。


見える範囲で30以上のスケルトン。ゴブリンは数えきれないほど。

対してこっちは全員が手負いの上に毒までもらっている。


こんなの…勝ち目なんかない…。


「もう…だめだ…」


そうつぶやき膝をつく。

そんな俺らに容赦なく矢と棍棒の雨が降り注いだ。


矢が体に何十と突き刺さり、足、腕、頭に何度も衝撃を叩きつけられる感覚。

体から熱いものが流れ出ている。

仲間たちに目を向けると自分と同じように何本もの矢が突き刺さっていた。

トニーは辛うじて息があるようだが、ルークとジョンとアディは微動だにせず、そもそもアディは首に矢が刺さってしまっている。


「すまない…みんな…すまない…。」


霞んでいく視界に、今まさにダンジョンへ食われていく仲間を収めながら、俺は意識を手放した。

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