5 ようやく鉱山ダンジョンに着きました ~うちの子自慢とお節介~
2/26に大部分の修正をさせて頂きました。
内容は変わりませんが、一部文章や表現が変わっている個所は在ります。
5 ようやく鉱山ダンジョンに着きました ~うちの子自慢とお節介~
街を出るのに気を揉んだ警戒は無意味だった様子で、近づいた東門は特に問題なく通過できた。
少し肩透かしを食らった気分だが何事も無いに越したことはない、門の近くで食事を済ませて夜が明けてからフィールドを突っ切ってしまおう。
ジムザさんにはそれと無く口止めはしたけど、流石に領主様相手じゃ無理だよね? これでここの領主にカバーネームがバレたかなぁ? まぁバレたとしてもそれを言い触らしたりする人ではなかったが、ここに来るたびに絡まれるのは勘弁願いたいんだよな。
「リア、遅くなったけど食事にしようか?」
「主、もう疲れてる? ダンジョンまで先に行くなら、乗せる。ゴハン後でもいいよ?」
「ここの領主は、アレでしたよね? 私もアレに会うリスクが減るのなら、先にダンジョンに行ってしまった方がいいと思いますよ?」
ジルまで態々小人(と言っても例えるなら親指姫ぐらいか?)サイズで現れて、2人とも何て優しい。確かに疲れはしたし、門から近いのは少し不安だったからその申し出は嬉しいけど。
ジルのアレ発言は如何なものかとも思うが、自分の心境とさして変わらないし(実際内心ではそう呼んでしまっていたし)敢えてスルーする。
「いや、でも……頼ってばかりも悪いし」
「これぐらい"朝飯前"だよ?」
「リアがこの程度出来ない筈は在り得ません」
ジルも自慢げだし、この姿の2人は本当に可愛い、いや本体の白虎様でも可愛いけど、人型のリアも本来のサイズのジルも美形すぎて"可愛い"ではなく"眩しい"だからな。
「そっか、ありがとう。なら、お願いしてもいいかな?」
「了解ー!」
ぽふん、と可愛い音がして立派な白虎様が目の前に。この姿は目立つから素早く背中に乗らせて貰えば、大地を一蹴りで一気にトップスピードに乗って後は走るではなく風に乗って飛ぶという表現がしっくりくるスピードでもって、1時間は掛かる距離をものの数分で到着出来ました。
リアも分かっているので、人が増えるダンジョン近くは避けて、少し手前の林のある場所で降ろしてもらい、探索で周囲を伺えば、それ程強い敵影もなく。
「リア、お疲れ様。あっちの林に入って食事にしようか?」
「主の作ったゴハンー」
またまたぽふん、と可愛い音がして子猫サイズになったリアを肩に乗せ、敵は避けながら林に入って適当な場所で腰を降ろした。
「急ごしらえだから、少ないけど」
「いつも美味しいよー?」
先程作ったお握りとお味噌汁をアイテムボックスから出すだけで食事の用意は出来てしまう、リアは猫の姿のまま器用に両前足でお握りをもって齧りついて、自分は箸と椀を用意して味噌汁を2杯よそい片方に口を付けた。
急いで作った割にはいつもの味で安心した。そのまま自分がお握り2個とリアが4個と小鍋のお味噌汁も綺麗に片づけて食事も終わり、ついでに近くに生えていた薬草の採取と食べれるきのこや野草と木の実もついでに手に入れて、いよいよ目的の鉱山ダンジョンに足を向けた。
◇ ◇ ◇
相変わらず人気のダンジョンだけあって、ダンジョン近くには冒険者の姿が結構見られる。
この鉱山ダンジョンは入口がいくつもあり、中は特に繋がっていない独立している場所が殆どではあるが、そこまで採掘の質という意味での外れが少ないのも人気の理由だ。
自分的には単純に他の採掘者や冒険者とどれだけ被らずに行けるかに掛かっているのだが、このダンジョンのマッピング率はほぼ100%なので探索でダンジョン全体を見れば、大凡冒険者が少ない場所は分かる。
まぁ、人が増えたら別の坑道に移動すればいいので今一番冒険者が少ないだろう入口を選んでダンジョンの中に入った。
このダンジョンに罠の類は無い、当然鉱石が目当てなら浅層部よりも深層部の方が埋蔵量は多いが、モンスターも比例して数や固体の強さは上がる、ただ、出て来るモンスターは虫系と小動物系、後はたまに大型の蛇やワームや蜘蛛が出るぐらいで、言ったようにそこまでレベルが高くなくても中層部までは挑むには比較的易しい、低レベルならPTで、中レベルならソロ向けかな。
自分は慣れたもので、最初は適当にモンスターを駆逐しつつ一気に深層部に行くのが毎回のパターン、本来何らかの魔法やアイテムで明かりの確保が必要な暗さだが、遠視のスキルで特に明かりを確保しなくても何ら問題もなく進めるし、広さもあるので、武器を取りまわすにも不自由もない。MPは大型な敵に温存しつつ早速姿を現した蝙蝠型のモンスター『ガルバッド』を鞭で一閃してなぎ落とし、続けて現れた土竜『ガルモレ』も蹴りで仕留め、次に現れた大き目なワーム『ガルワーム』も風魔法で切り裂いてサクサクと進んでいく。
この先の道が分かれる分岐に5人でのPTが1組いる様子だが、丁度分かれ道だし追い越しても問題は無いのだろう、ただ数匹のモンスターを相手に手間取っているのか敵が減っていない。
近づいて様子を見れば、予想通りタンク系アタッカー2人と前衛アタッカー1人と魔術師2人の5人PTが3匹の蜘蛛型モンスター『ガルスパイダー』と3匹のカマキリ型モンスター『ガルマンティス』を前に大分苦戦している様子だ。
「うー、しぶとい! マナポーションもうヤバいよー!?」
「っチ! こっちもHPカツカツだぜ!?」
「口より、手ぇ動かせ!! このままじゃ、圧されるぞ!?」
「でもっ、ホントにMPがヤバいー!」
「せめて半分になれば!!」
今のところ熊人族タンカーの1人が何とかガルスパイダー2匹とドワーフ族タンカーがガルスパイダー1匹を抑えてその間にエルフ族の魔術師の1人が回復、魔人族魔術師もガルマンティスの1匹と対峙、人族前衛もガルマンティス2匹に掛かりっきりとこのままでは全滅しそうな勢いだなー。
〈マスター、加勢するのですか?〉
〈しないと、全滅しそうだからなぁ〉
〈それも、経験だとおもうけど。主、優しいから、見捨てられない〉
自分は優しいとは少し違う気もするのだけど、まぁ、それは置いて。
「いきなりで済まないが、加勢する。タンクの抑えてる蜘蛛2匹と、魔術師のカマキリを倒すな」
Rマナポーションを魔術師2人にRヒーリングポーションを前衛職3人に投げつけながら一応宣言はしたが、聞いてる余裕はないかな?
直ぐに弓に矢を番え続けて4射で2匹のガルスパイダーを仕留める。本当は前衛の抑えるガルマンティスを片付けたかったのだが、射線上難しかったので、取りあえず狙える所で。
「「え?」」
「気は抜くな!」
「カマキリこっちが受ける」
「了解!」
手の空いた熊人族タンカーがガルマンティス2匹の抑えに回ったところで、自分が魔人族魔術師のガルマンティスも射抜いて仕留めれば、これでゆとりも出るだろう。逆に少し仕留め過ぎたか?
その間に手の空いた魔人族魔術師が攻撃に転じてドワーフ族タンカーの抑えていた最後のガルスパイダーを仕留め、後のガルマンティス2匹はそれからは手間取ることなく片付いた。
その後、戦闘の緊張から解放された為か、魔術師2人はその場でへたり込み他の3人も疲労困憊と言った様子、この場合はアバターの肉体的なものでなく本人の精神的なものだろうからポーションじゃどうにもならないしね。
◇ ◇ ◇
「お疲れ、少し遣り過ぎたかな? ドロップアイテムは返すよ」
Rヒーリングポーションを5本差し出せば、驚きながら顔を見合わせている。
ここで少し説明するなら、この『D.V.R』の各ポーションはランクが4種類あって下のランクからN(ノーマル:15~30%)・R(レア:20~50%)・SR(スーパー・レア:40~80%)・HR(ハイ・レア80~100%)、その中で完成度が5段階、単純に20段階の回復に分かれ、一番使われる物はRの完成度4か5のポーション。
更にこの世界のポーションは飲む場合と先ほど自分がしたように直接掛ける場合でも回復量が多少は異なり、飲んだ場合の方が当然回復量は上がるが、その余裕がない時にはPTメンバーなどが掛ける事でも回復は可能だ。
「いえ、加勢助かりました。少し釣るつもりが思ったりより数が居て……ドロップアイテムは大丈夫なので貰ってください。それと、ポーションは有り難いのでさっきの分と合わせて買い取ります」
2匹の蜘蛛を押えていた熊人族がリーダーなのか、すぐにこちらに来て頭を下げた。
「そっか、今100Dと120Dぐらいだったか? もし手持ちポーション少ないなら、こっちは余裕あるから数出しても大丈夫だけど?」
そう提案すれば、リーダーは一度振り返って相談しだした。
まぁ、分かると思うがDはこの世界の通貨単位でデイル。銅貨(1D)と青銅貨(10D)銀貨(100D)と金貨(1000D)白金貨(100000D)の5種類の硬貨がある。
「有り難うございます。でしたらヒーリングをもう15本とマナ5本いいですか? 今の金額は140Dと180Dですかね、端数切り上げで4000Dで買わせて下さい」
相場を確認したら、自分は下の方で提示したが相手は上の方で、まぁ本人達が良いって言うならこっちは構わんのだがマナは6本にしとこう。
本来ならトレードウィンドウで物は出さずとも取引出来るけど、そのウィンドウには名前が表示されてしまうので、自分はそのままアイテムを出しての遣り取りが多い。
リーダーとそんな売買をしている間に、他のメンバーも少し持ち直したのか全員ちゃんと立ち上がっていた。
「お礼、遅くなってすみません、有り難うございました」
「有り難うです、本とこのままだと全滅かと思ってましたから助かりました」
「助かりました!!」
「ありがとうございます!」
「ポーションも有り難うございました」
まだまだ初心者かな? ここに来るだけなら列車と馬車で、そこまで苦もなく来れるしね。
「余計な事でなかったんなら、良かった。この先は進むのかな? なら右は少しモンスターも多めだから左をお勧めするけど……」
「いえ、今回はこのまま戻ります。本当はもう一人探索持ちのレンジャーが居たんですが、今日は都合合わなくて、自分達だけでも浅い所なら行けるかなと思ったんですが、やっぱ敵の数が分からないのは少しきついんで」
まぁ、探索持ちがいないならそれが無難かな。
「なら、帰りにも敵が少し沸いてるだろうから気を付けてな」
「はい! 有り難うございました!」
戻っていくPTとは別れ、その先の鉱石の量を確認しながら左へ入って進んでいく。
にしても、自分で言うのもアレだが、終始顔を晒さない上に名乗りもしない怪しい人物に、あそこまで警戒しなくて大丈夫かな?
「マスター相手に警戒はしないでしょう、放って脇を抜けるのも可能な場面で態々加勢してくれるだけでなく、回復もしてくれるのは、唯の親切なお人好しです」
勝手に考えを読むのは止めて欲しいのだけど、そうか、あの場面は敵はあのPTが抑えてはいたから抜けようと思えば横を抜けるのは可能か、考えもしなかったな。
「主、天然。警戒するだけ、無駄」
最後のリアの言葉は納得できないが、言い返す言葉もないのでそのままスルーで、まだまだ先は長いかな。