4.5 -SIDE ANOTHER- ~領主と憲兵のガードポートの治安検討会~
2/26に大部分の修正をさせて頂きました。
内容は変わりませんが、一部文章や表現が変わっている個所は在ります。
(基本的には主人公の一人称ですが、―SIDE―は三人称になります。)
4.5 -SIDE ANOTHER- ~領主と憲兵のガードポートの治安検討会~
クラヒの居なくなった憲兵舎は、突然の領主の訪問の対応に追われていた。
応接室に丁重に通し、お茶や菓子にも気を遣い、対面に座る憲兵長ジムザは緊張した面持ちで領主を見る。
「連絡もなしに時間を繰り上げて申し訳ない、此方事だが別件で予定が入ってね、少し繰り上げさせて貰った。先にも伝えてあった、外の世界からの来訪者によるトラブルが増えている件で、実際の頻度や被害状況はまとまっているのかな?」
領主の言葉の様に、元々その対策を話すための時間はこの後取ってあったので、資料も問題なく用意してある。憲兵副長のコルトはすぐにそれを領主へと渡す。
「御覧の通り、問題の大きさは大小在りますが増加傾向なのは事実かと。早急に見回り強化などの対策を立てています」
「そうか、来訪者が増える分利潤も増えるがトラブルも増えるのは仕方ないか……」
「はい、人が多様化すればそれに伴う問題はどうしても増えますからね。まだそこには加算されていませんが先日も1件、来訪者同士と言いますか……一方がもう一方に執拗に言い寄るような事もありまして、こちらの住人だけが被害者ではないケースもありますね」
流れで伝えたジムザの言葉に、領主は微かな反応を返す。
「言い寄り……? 被害者側は男性だったりはしないよな?」
まるで言い寄られそうな人物に心当たりがあり、同一か確認のような様子にジムザとコルトは顔を見合わせる。
「あー、済みませんが守秘義務がありますので、被害者の情報はたとえ領主でも開示できません」
2人の反応は、なんで男性だと分かったのかと言ってしまっているようなものでもあったが、領主は敢えてそこには触れなかった。
「そうか……そうだな、君達が正しい。因みに加害者側の情報は?」
「……加害者は一応法に基づき初犯では在りましたので、罰金と警告でその日の内に解放されています。特徴はエルフ族の剣士風の来訪者の女性で、一応写真は残してありますが……」
再犯の可能性も含め、加害者側は各国に犯行の内容と写真が配布されるので、隠しておくことでもない。
渡され写真のコピーを領主は直ぐに従者の1人に渡せば、従者は心得ておりますとばかりに一礼をして部屋を出た。
「あぁ、気にしないでくれ。飽くまで治安改善の為の行動に過ぎない」
気にしないでくれとは言われても、どう考えても高が犯罪者1人、それも言い寄っただけの案件で領主が自ら人を動かすのが普通とは思い難く、2人の脳裏にはアカクラと名乗った青年の姿が思い出される。
直接言葉を交わした事のある2人は領主と関わりのあるような特別にすごい人物との印象は受けなかった。
ただ、礼儀正しく気持ちのいい人物で、差し入れなどの気遣いも出来、出された料理も美味しかったし、どことなく色っぽいというか、あんなお嫁さんに出迎えられたら……と既婚者の2人でもつい思ってしまう。
「さて、具体的対策とそれに伴う必要経費や装備アイテムの新調はどうなっているのかな? 街の治安に関わってくることだから出し惜しみはしないが、当然無駄だと思う部分は指摘させてもらう」
2人は再び顔を見合わせ、すぐさま仕事の話に戻るべく資料の説明に入った。
「3枚目に今までの経費と今後増える経費の比較表を作ってあります、装備は今までも充実していましたので手入れでまだまだ使えますので、単純に消耗品はどうしても増えていますね。あと、見回りに割く人員は増えていますので、今後も見越して大幅な増員を予定しています」
そんな2人の様子から、領主は間違いなく言い寄られたのはクラヒであると確信を持つ。
いつまでこの場にいたのかまでは分からないが、聞いて答える憲兵たちとは思えないし、それと無く諜報の物を動かした所でもうこの街には居ない可能性のが強い、なにより領主の立場の存在に声を掛けられても喜ばないだろうことは知っている。
領主は少しだけ自分の立場を面倒に思いながら、今は目の前の案件にと意識を切り替える。
「人員を増やすことに反対は無いが、育つまでは逆に教育に人手が割かれるのでは?」
「はい、仰る通りですが将来を見越せば必要な事ですので。理想を言えばやる気と素地があるものが入ってくれるのが助かりますが……」
そんな質疑応答を繰り返し今後のガードポートの治安についての話し合いは進められて行った。