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非日常に振り回される、在り来たりな日々の冒険譚  作者: SUNA
第一章 こんな日々の冒険譚
3/51

2 やって来た雪国 ~絡まれない日常を下さい~

 2/26に大部分の修正をさせて頂きました。


内容は変わりませんが、一部文章や表現が変わっている個所は在ります。



 2 やって来た雪国 ~絡まれない日常を下さい~


 列車を降りて駅の改札を潜り抜ければ、北の大陸だけあって体感できる気温も寒く、広がる街並みは雪の舞う異国の情景、正確にはVRヴァーチャルの異世界か、まぁ何度も訪れたことのある景色でもあるのだが。


 普通に改札を抜けたが、実は国や街以上の規模の場所に出入りするにはちゃんとした身分証か通行証が必要になる。


 このゲームを始めた時に誰もが最初に現れるのは、最初の街とも呼ばれる人族の東の国『ヴァスザード』の首都『ヴァスリン』で、そこで受ける最初のクエストが身分証発行のクエスト。


 自分は『冒険者』で登録されている。大半のプレイヤーは冒険者だが、中には『行商人』や『△△屋』『学者』や『素材収集家』など大雑把な行動方針に合った職種を選びそれに合ったクエストをクリアして身分証を獲得することから始める。


 途中で登録の職種を変えることはできるが、その都度その職に合ったクエストを受けなければならない。


 そして自分は当然この列車に乗る時にも同じようにそれを使ったのだが、何故か『クラヒ』では困る事も多いので特別に本来は赦されない偽名(カバーネーム)を使う事を赦されていて、普段の身分証に使うのはそちらが主になっていたり。


 因みにそちらの名は『アカクラ』……まぁ、単純な名前だけどこちらの表記は基本カタカナなので案外名前だけでは関連性など気づかれなかったするものだ。


 例のダンジョンに移動するにはこの街からさらに1時間ほど移動時間も必要で、今はこの世界の6時と丁度夜間に入ったところ。そして、この街の東のダンジョンまでのフィールドの夜行性モンスターは状態異常の攻撃が多いのであまり行きたくはないかな、現実時間で22時なことも考えればこのままこの街で宿を取って、すこし街を探索するくらいでログアウトの時間には丁度良さそうだ。


 ここでもう一つ余談を。自分は自慢ではなく何でか特殊な状況下のモンスターなどに好かれる傾向があるらしい。


 いい例が今足元に寄ってきている誰かの従魔と思われる一角ウサギ。


 勝手に足に頬を摺り寄せ時々キラキラの目で全力で構ってアピールをしている。


 うむ、大変に愛らしいが、これで構ってしまうと近くにいる他の従魔の類が寄ってくる場合もあるので、ここは心を鬼にして無視しなければいけない、契約主は一体何をしているのか。


 そんな自分の無視にもめげず足元にすり寄り続けていた一角ウサギだったが、自分のすぐ近くで膨れ上がった怒気に怯え直ぐ様に離れ契約主の元だろう方向に文字通り脱兎で駆けて行った。


(あるじ)はダメ、もっとちゃんと叱らなきゃ〉


 脳に直接響くような声、その持ち主は外套の中の自分の肩にいる子猫の姿をしたモンスター、ではなく、所謂“聖獣”と呼ばれる存在で、名を『リフォードニザリア』通称リア。


 主と呼ばれているが実際に特に何らかの契約を結んだ記憶はなく、彼女(本来性別はないが女性扱いのが嬉しいらしい)とはとある国での冒険中に出会い、懐かれたのかこうして勝手に同行するようになった。


 流石に聖獣と呼ばれる存在だけあって、大変お強く見た目も本体は所謂白虎、気品あふれる大きなホワイトタイガーで、自分を乗せて悠々と駆けるスピードは列車よりも断然早かったりする。人型にも成れ、その際は綺麗な緩くうねる白髪を腰まで伸ばしたグラマラスな大変お綺麗なお姉様(飽くまで見た目だけの問題で、お兄様にもなれるが)横に並ぶと自分のモブ感が半端ない。


 そんな聖獣様は自分のような冒険者風情の一個人と同行等本来なら在り得ない珍事らしいのだが、リア自身が気にしていないどころか望んでいるらしいので他も自分ももうすでに何かを言うのは止めた。


 それでも自分の冒険者としてのスタンスは守ってくれているので、滅多に力は使わないし人前で本来の姿を表そうものなら騒ぎになり兼ねないのでこの格好のまま肩に乗っていても特に困ったこともないし、今回の様なちょっと絡まれただけなら追い払ってくれるので、他の事も含めて自分には勿体ない位助かりまくっている。


 本当に自分なんかと居ていいのか、甚だ疑問だ。


〈リアの言う通り、もっとちゃんと毅然な態度で追い払わなければ。あの程度の小物がマスターに触れていい筈がありません〉


 続けて喋り出したのは、抜けなくなった左薬指に宿る存在で『ジルバリアス』通称ジル。


 彼(こちらも本来性別は無いらしいが男性扱いのが嬉しいらしい)は、とあるクエストで知り合ったお偉いさんに報酬として渡されたマジックアイテムで、精霊の召喚と呼ばれる、MPと引き換えにどんな属性の精霊でもある程度お願いを聞いて貰えるトンデモアイテム。


 そんなアイテムの中にはこうしてアイテム自体の意志が具現化して精霊が宿るケースも極々稀に存在するらしい。


 ジルはストレートな腰程までの銀髪を緩く編んでいる、全体的に色素の薄い中性的な顔立ちの美人さんで、実体化して隣に並ぶとこちらも自分のモブ感が……。


 実体化した場合は精霊魔法を使い、下手をすれば街の1つや2つを墜とせる(本人談)実力もあるが、その対価と言うか、実体化するだけのエネルギーを溜めるのには結構な時間を要するので、フルパワー分だと現実時間で1か月は次の実体化が難しのもあって、そんなに頻繁に実体化をお願いすることも無いしジルにお願いするような場面には出くわすこともない。というか、起きて欲しくないが本音である。


 本当に、こちらも自分には勿体ないくらいの出来た精霊だしね。


 ここで少しだけ補足を、通常使われている魔法と精霊魔法は微妙に異なり、魔法は自然の中に存在する魔力を集めて発現する、対して精霊魔法はこの世界に存在する精霊に直接お願いをして発現させる魔法で、通常の魔法より威力や出来る内容も異なる。


〈半端に構っても何かアクションをするだけで事が大きくなるのが前例だから、自分的には無視が一番効率がいいんだけどね? でも2人ともありがとう〉


 そんな風に返せば、呆れながらも納得した様子とお礼に対しての嬉しそうな雰囲気が2人からは漂ってくる。


 そのまま駅前から大通りへ向けて歩き出し、屋台を覗きながら今日泊まる宿を探す。


 因みに、ログアウトはしようと思えば何処でも出来るが、ログアウトの間アバターは一定時間放置される形になるので、街ならば宿、フィールドならテントといったこちらの世界で寝る形でログアウトするのが基本だ。


 もう一つ余談だが、フィールドで使うテントも性能はピンキリで性能の低い物なら本当に現実でのテントと変わらず防御も何も無い物で、その場合は防御用の結界か魔石を併用するのが当たり前、でないとこの世界にログインした時にアバターがモンスターや野盗の類にやられてデスペナルティを受けて最後に立ち寄った街の門の外に強制送還さている上にレベルとステータスにもペナルティを受けているなんてことに。


  ◇ ◇ ◇


 いくつか夜食に丁度良さそうな食べ物を屋台で購入して、あとは泊る宿が見つかれば良いだけだが。 


〈マスター、変な輩に付けられています〉


〈うん、そうみたいだね〉


 自分も気づいてはいたが、やっぱり付けられますよね? さっきの一角ウサギの件で目を付けられたのか、面倒な事にならないと良いのだけど。


 この街はさっきも言ったように鉱山ダンジョンの関係で中々に冒険者には人気がありその分宿も取りづらい。


 今回も2軒ほど宿を当たったが、両方とも満室だったので今3軒目を探している所で、駅前から付けてきているジル曰く変な輩は徐々に距離を詰めてきている。


 もう少し先にも宿があったかな。


「あの!」


 あー、接触してきたか、こんな街中で本当に面倒だよね。


「……何か?」


 相手は20代前半と言った見た目の女性エルフ族のプレイヤーで、腰に下げている片手剣だけ見れば剣士だろうか? その割にこの寒い地域でも防御力のなさそうなやたらと露出の高い服で、()()狩りたいんだか。


 対応するのも面倒なので、それが声に現れても気にしない。逆にこれで引いてくれれば万々歳なのに。


「あ、っと、クラヒさんですよね? 駅前で一角ウサギの様子からそうかなって。以前からファンでした、宿、お探しですよね? 良かったら私の泊ってる所、来ませんか?」


 一応小声ではあるが、周りの視線もあるし勘弁願いたいのだけど。


「人違いです。自分は急ぎますので失礼します、付いて来ないで下さいね」


 他にもある程度聞こえる声で断りを入れて、さっさと身体の向きを変えて歩き出す。


「え、ちょと待って」


 断ったし、付いて来ないでとも言ったのに、なんでこの手の連中は言葉が通じないんだろう。


「そんな無碍にしないでくださいよー、なら食事奢ります、そこに美味しいお店あるのでどうですか?」


「行きません」


「確か、今フリーでしたよね? こうしてお会いできたのも縁ですし、よかったら私と付き合ってもらえませんか? 臨時のPTでもいいんで、良いと思いません?」


「無理です」


「そんな、ソロより効率上がりますし、いっそ結婚とか、どうです?」


「貴女とはしたくありません」


 何だろうコイツは、さっきからリアとジルの気配が怖いのだけれど、いい加減に諦めてくれないの? それとも自分の断り方がまずいのか?


 おっと、振り切ることばかり考えていたら、半ば無意識で人気のない路地を選んでしまったようだ。


「待って下さいよー」


 周囲の状況の確認に足を緩めたのがいけなかったのか、腕を取られて強引に胸を押し付けられた。


「へへっ。漸く見てくれましたねー? 本当はその気でした? こんな場所に連れて来るなんて、実は案外経験豊富だったりします?」


 そっちが勝手について来ただけだろ? ってか、経験って何の? もういいか、こんな場所だが適当に()して放置でも。


「ふふ、青カンが趣味なんて案外むっつりさんですかー? でも私も――っひぐぅ!」


「黙れ小娘が!!」


 あ、リアがキレた。


 目の前に子猫姿でもその気配は聖獣そのもので宙に浮くリフォードニザリア様、怒りに震える空気が大変痛いです。


 吹き飛ばされた女性は壁にぶつかって結構なダメージが入ったみたいで、すぐには動けない様子か? PK(プレイヤー・キラー)は出来なくても、ダメージのショックで動けなくは出来るからな。


「リア、済まないありがとう。ジルも嫌な思いさせて済まなかった。取り合えずここは離れようか」


〈主、こんな小娘如きに触れさせないで、もっと早く伸していい〉


〈そうですよ、路地に入った瞬間に伸して構いませんでした〉


 対応にダメ出しされたがそれどころではない、結構な音もしたし、誰かが見に来てもこの状況だけでは面倒事しかないし、自分は急いで来た道を戻るように向きを変えて歩き出した。


〈悪かったってば、余り周りを見ていなかったんだって〉


 ん? 前から複数の足音が。騒ぎを聞きつけられたのならどうするか。咄嗟に上を見れば結構な高さの建物に囲まれていて、普通に跳んでも難しいか、でも一回壁に足を付ければ行けるか?


「あー、そこの外套の君」


 ……いや、まだ戻れば振り切れるよな、もう宿は諦めて街は出た方が良さそうか。


「待ってくれ、逃げなくていい、君がエルフ族の女性に付き纏われていて迷惑そうだったと、通報受けたんだが……」


「え?」


 思わずその言葉に足を止めてしまった。


 確かに音を聞きつけたにしては、早いなとは思ったのだが、でもそんなことで憲兵が動くのか?


「女性相手では、君も強く出れないだろうから、と通報と言うか相談を受けてな。それも1件2件ではなくて、実際に様子を見て判断しようと思っていたのだが、エルフ族の女性は?」


 ここは正直に言っていいのかな。


「済みません。余りにしつこくて伸してしまったので……その先にまだ倒れているかと」


「ふむ、女性の状態にもよるか。済まないが憲兵舎まで同行願えるかな? お前たちは女性の様子を」


「「は!」」


 結局面倒事になったよ、本当に何が悪いのかな?




 6/11 誤字・表示一部修正

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