1 向かうは鉱山ダンジョン ~気ままな列車旅~
6/11に修正をさせて頂きました。
内容は変わりませんが、一部文章や表現が変わっている個所は在ります。
1 向かうは鉱山ダンジョン ~気ままな列車旅~
今日も現実での仕事を終えて定時に上がり、帰って一通りの家事を済ませ『D.V.R』にクラヒとしてログイン。
ここでちょこっと余談だが、自分は『D.V.R』で年齢的に25歳の男性人族。外見年齢はそれより少し若いと言われたが、この世界のプレーヤーに多い年齢帯を選んだ。
黒に近い濃紺の髪の左前髪だけをサイドを伸ばし少しだけ髪飾りを入れ、後ろは短くショートに、顔はその辺に居そうなモブ顔を目指し、瞳は髪よりも少しだけ明るい藍色の、身長172㎝のアバターで冒険している。
そんな自分の現実は40歳も過ぎた生産ライン勤務の何処にでもいる所謂中年な宮杜・雅聖。
他のMMORPGでは可能だった性別の選択はこの世界では不可能らしく、必然的に性別は決まっていた。この世界が特殊なのか、VRだからかまでは調べていないが、まぁ自分的には気にもしない事ではある。
数年前に事故で揃って両親を亡くし、それ程親戚づきあいもないまま両親の少しの遺産と持ち家を継いだ独身の一人暮らしだ。
高校の時に事故で脚を痛めて以来学業に力を入れる事とゲームに嵌って、青春のせの字も知らずに大学を出て幾つかの企業に面接するも上手く行かず、そんな中で今の会社に入ってそのまま仕事とゲームのみの世界で大した出会いもないままに日々を過ごしていた。
自分がゲームに嵌ったのは、よくある話の事故から復帰のためのリハビリの真下、思うように動けない退屈な日々に見兼ねた両親が退屈しのぎにと用意してくれた1つのRPGゲームに出会ったこと。
元来身体を動かすことが好きで部活にもそれなりに力を入れていたので、リハビリをしても以前のようには走れないだろうと言われ落ち込み、追い打ちを掛けるように学友や特に部活仲間と少しだけ気まずい空気も多くなり、次第に疎遠となった中で、用意されたゲームに自分はどっぷり嵌った。
当然動けないもどかしさや悔しさはあったので、半ば意地でリハビリも頑張り、走るのは無理でも日常生活に困らない程度には回復はした、学業を疎かににしては用意してくれた両親に申し訳ない思いもあったので学業も1番とまでは行かなくても常に上位の成績になるようにした。
なので勉強とゲームとで青春のほとんどを終えた訳だが、まぁ後悔は何一つ無かった。
単純に事故後に離れて行った友人たちとの事もあり、現実での人間関係に少なからず嫌気が無かったとも思わないでもないが。
そんな自分がMMOや『D.V.R』に出会い、ゲームの中とはいえ、色々な人との出会いや別れ、ちょっとした人付き合いでさえ楽しいと思えるようになったのは、少しだけ微妙な心境でもあったり。
◇ ◇ ◇
今自分は、ドワーフの国ガレリアの玄関口とも言われる港街『ガードポート』の街に向かう海上鉄道の列車の中だ。
最近では余り使わなくなったのだが、気分転換に偶にはのんびりとした列車旅も良いかと乗ってみた。人が多い場合には、密室になる場所は極力避けているので、当然、他の人の少なそうな時間帯と車両があったから出来た事だが。
列車は現実の蒸気機関車と同じような見た目で、動力は魔石と呼ばれる魔力や魔法の込められた石。
これは天然な物もあれば人工的に作ることもできる代物でこうした乗り物の動力やら、生活の中にも広く使われている。
この世界には魔法が存在する。プレイヤーは当然自分の意志で取捨選択していくが、取らなかった魔法をこういったアイテムで補う事も出来、一種の補助的な使い方もされている。
眺める車窓からの景色はファンタジーらしく鳥に見えない大きなモンスターとか、海上に顔を覗かせる魚人族とか、それと戦っている魚に見えない大きなモンスターとか、それもすぐに過ぎていくので、それらを覗けば夕刻に向かう晴れた空と綺麗な海か。
この列車と線路自体にはちゃんと防御の結界が張られ、イベントでも起きない限りはモンスターの襲撃を受けることも無く、安全にほぼほぼ定刻で運行している。直ぐに遅れたり止まったりする現実の電車とは違い流石ファンタジーな乗り物だ、見た目は普通だけど。
シャルグリニアを出立して列車に乗って大体1時間程でガードポートには着くので、もうすぐ到着予定か。
今回はその街の東側にある鉱山ダンジョンが目的で、そこはそれ程レベルが高くなくても行けるうえに中々に良質な数種の鉱石が手に入るので幅広いレベル帯に人気の狩場の1つであり、丁度手持ちの鉱石を使ったばかりで補充のために選んだ。
自分はソロの気ままな冒険なので、その為、遠距離でも使える弓をメイン武器に近距離用の体術と短剣と中距離用の鞭を使うのが基本スタイルで、装備も軽鎧と小楯、それに全身を隠す外套姿が主だ。
全身を隠すのは何でか絡まれることが多いからなのと、各国のお偉いさんとそこそこな知り合いになった為顔バレで場合によってはこのまま〇〇様の元へ! な展開を避けるため。
まぁお偉方が早々に街を出歩くことも少ないし、自分の顔を知る高位官職も同じく、なのでそれ程気にも留められないだろうが、念の為は忘れてはいけない。
勝手気ままな冒険生活ではあるが、もちろん公式のイベント情報があればそれに参加することもある。ただ、それでなくても勝手に起きるクエストに振り回されたことも多いので、今回はそれが起きない普通の冒険が出来たらいいな、と視界の端にガードポートの街を映しながら切に願うばかりだ。