序章 最初の一歩
6/11に修正を入れさせていただきました。
以前と大筋は変わっていませんが、少しだけ文章や表現が代わっている所は在ります。
序章 最初の一歩
ゆっくりと目を開け、飛び込む光景に、音に、匂いに、肌で感じられる空気に、言葉も出なかった。
この世界『ディファルジートVRMMORPG』通称『D.V.R』所謂VRMMORPGに自分で初めて一歩目を踏み出した時の感動は、忘れもしない。
身体を自由に動かせるだけでなく、現実では到底難しい動きもゲームの中と言う特殊な空間では可能になる事も加え、現実では味わえないファンタジーの世界での冒険。
社会人として仕事との両立のある、限られた時間の中で、それでも日々のそんな数時間の異世界での冒険は自分をこの世界の虜にするには十分過ぎるほど魅力的なモノであった。
これは、そんな自分ことクラヒ(闇緋)の、この世界を冒険する日常風景である。
◇ ◇ ◇
ここで簡単なこの世界の説明を。
よくあるMMORPGのVR版と言えば、ゲームを少しでも齧ったことのある大抵の人なら大体の想像は着くのだろう。
この世界『ディファルジート』を舞台に所謂クエストなどをこなしつつ、自分のレベルやスキルを上げていく。勿論クエストには参加せずにモンスター相手や、盗賊山賊討伐の戦闘のみでもレベルやスキルは上がるし、そこまで戦闘スキルを取らずに生産に特化するプレイヤーもいる。
結局誰もが自分のやりたい事をやって楽しむ、そんな世界だ。
まぁ取れるスキルに上限はあるので、戦闘も生産もとなればどちらかを削るか、どちらもそこそこで特化しない等の多少の縛りはあるが、それもお約束だろうか。
一応昼間5時間と夜間2時間で1日が周るサイクルで、この世界での空腹度や渇水度もあり、それを放って置けばHPやMPなどが自然に減って行くので、それを補う為、何かを食べたり飲んだりする必要も存在する。
モンスターも夜行性など時間帯によって出現する条件も変われば、当然場所でも出現する種類は変わる。
この世界には色々なファンタジーな種族と人族がそれぞれに国を作りそれぞれに種族が住む国とその中にある村や街、それに国内外でのモンスターの出るフィールドやダンジョンで構成され、移動も設置型ワープポータルのようなものは存在しないので徒歩か馬車(中にはモンスターが牽く場合もあるが、通称馬車だ)や列車や船といった交通機関からスキル持ちであればテレポート・ワープ等の移動系やテイミングしたモンスターに騎乗などその辺も基本のRPGと変わらない。
ちなみに今この世界でプレイヤーが行ける国は人族の4国と妖精族・ドワーフ族・エルフ族・ダークエルフ族・龍人族・魚人族・魔人族・獣人族の8国の計12国、ただ他にも通常ルートでは行けないが精霊族やドラゴン族や有翼族の国といった特殊クエストのみでしか行けない国もある。
もう少しだけ詳しく説明をするのなら、地図で言う所の中央やや右寄りに大きな大陸『ディファール大陸』が存在する。
その大陸のほぼ中心に東の国『ヴァスザード』北の国『ケルート』南の国『ナドルナ』西の国『ファミニル』。その4国が人族の治める国。他にはヴァスザードの更に東の『イブニア大河』を越えていく先に龍人族の国『ライショウ』が。その更に南東の『キギディエ密林』を含む獣人族の国『ティエガ』。ケルートの北側にはノーズリニア山脈があり、その北側に魔人族の国『シャルグリニア』となっている。
ディファール大陸の西の『シュルード海』を挟み西の大陸『シュリューナド大陸』。そこに妖精族の国『ファンナード』とその北の『フェーデルノール大森林』の中にエルフ族の国『フェデルノ』。更にその北『ジーグア渓谷』にダークエルフ族の国『ジーグアーフェ』。
ディファール大陸の南には『ジュリニジーツ海』が広がり海と島で構成される魚人族の国『ジュリニ』。
ディファール大陸の北『ガリア海』を挟み北の大陸『ガルガリア大陸』にドワーフ族の国『ガレリア』といった感じだ。
それよりも外の世界は実装されていないので行くことは出来ない。
ファンタジーな世界だけあって、大陸を移動するのには海上列車か定期船か、その辺りは陸上と変わらず行き来は出来ている。
当然その国毎の法律も異なり、それぞれ独特の文化を有するが、現段階で国の間の仲は特別悪くもなく、今のところ戦争が起きている、何てこともない。
この『D.V.R』には当然元々この世界に住むAIによる住人達(所謂NPC)と現実から来るプレイヤー(住人には来訪者と呼ばれている)とが混在し、プレイヤーがなれるのは人型の種族であれば先程上げた9種から種族は選べる。
種族により最初に振られている初期ボーナスポイントは変わるので、目指す職があるのなら、近いステータスで種族を選んだり、単純に外見で選ぶなど、それも自由だ。
この世界の住人にも冒険をする人もいれば街で店を開いたり普通に生活をして暮らしていたり、まるで現実に生きている人間と同じくらい自然な反応をすることもこの『D.V.R』の面白みの一つで、AIによって動いているとは思えない程に人間味にあふれる住人達ばかりだ。
勿論プレイヤーが街に住んだり商売をしたり、この世界の普通の住人の様に暮らすことも可能だ。
それと、システム上プレイヤー同士のPKは基本出来ないが、HPには影響されないが、ある程度痛みやダメージといった衝撃は入るので、暴力による強奪や恐喝も不可ではない。
一応見つかったり通報によっての罰則もあるにはある。
とは言っても、やはりとでも言えばいいか、中には見つからなければと現実と同じく場合によってはゲームだからという感覚か、現実よりもさらに箍を外す阿呆もいるにはいる。
まぁ、モンスター相手でも住人相手でもプレイヤーが相手でも自衛は基本自己責任、と言うのがこの世界のお約束な分、現実よりかは幾分物騒なのは仕方がない。
後は任意で行うPvPやPvNPシステムはあり、街にある修練場や闘技場か、特殊VSフィールドを設定して街中やフィールドで行う場合もある。
のんびりとこの世界を冒険したいだけの自分には修練場以外はあまり縁のないシステムではあるが、強さを誇示したい人達や単純に技量を向上させたい人は結構頻繁にPvを行っているので、見る分には参考になる面もあり悪くない、自分が誘われなければ、だけど。
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さっきも言ったように現実での仕事もあり、自分はそれ程長くこの世界に居られる時間はない。
なので、ギルドや固定のPTを組んでの冒険も難しく、必然的にある程度自分で狩りも出来つつ生産(製薬と料理と鍛冶等)も出来るようにした為、最前線での攻略や名を残す最強プレーヤーや特化の職人になるでもなく、ソロをメインに時々数少ない知り合いや野良PTでの狩りをまったりと楽しむだけの日々で、モブを目指すでもなく自然とそうなると疑っても居なかった……筈だった。
筈だった、と言うのは……狙った訳ではないのだが、クエストの途中で出会う住人やプレイヤーが個性的と言えばいいのか、住人で言えば所謂どの国でも大物な類と、プレイヤーで言えば同時期に始めたこの世界でも初期からいる大所帯なギルドとか最強を目指すPTとかと関わることが多くなってしまった為だ。
殆どの原因は住人側にあるのだが、まったりでは済まされないクエストが舞い込んだり本当に何でこんなに必死になって冒険をする羽目になんて思うこともしばしば。
そんな訳でいつの間にか意図せず有名になっていたらしい。
知り合いが各国の大物というそれだけなら、国や世界を揺るがすような出来事は基本的には早々は起きないので、まだ良かった(本音では余り良くはないが、仕方ない)のだろうが。
問題はこの『D.V.R』の住人が人間味に溢れすぎて何でか今まで出会った住人(お偉いさん)にやたらと絡まれる関係で休まらない事と、特別に何をしているつもりはないのだけれど知り合いでもないプレイヤーや絡まれることも多くなって、全然まったりな気分になれない。
なので、初期の頃のまったり楽しむ冒険が切実に恋しい、そんな日々の冒険譚だ。