*8話 焼死
ソラは走る。が、悪魔はソラが悪魔のもとに着くまで、攻撃を待ってくれるはずもなく、街は崩壊し続けていた。
地上からの反撃もあるが、悪魔は埃を払うように、背に付けている黒い翼で魔法攻撃を消滅させた。背にも硬そうな甲羅らしき物も付いていて、倒せそうにない。冒険者の攻撃とは逆に悪魔からの攻撃は強力で、地上にいる者達は防衛すらできていない。
もしかしたら、ステータス面では雑魚で最弱職の鍛冶師が最強の魔剣を持ったところで、戦力になるか怪しい。
だが、やらなければやられるだけだと、ソラは知っていた。あえて触れていなかった事だが、周りには数えることに嫌悪を覚える程の数の死体がゴロゴロとあったのだ。
やらなければその死体の様になるだけなのだ。人に頼るのも手だがこれだけ押されている。頼ったところで余命が少しばかり延びるだけだ。
「キャッ!」
近くから女の人の甲高く、まるで鈴をリンと鳴らしたような声がソラの耳に飛びこんできた。
声のした方を見ると、そこには声の主と思われる二本の角を生やした少女と、降下してきた悪魔の姿が見えた。
(襲われている!)
行かねばならない。が、恐怖のせいか足が動かない。頭も真っ白になり回らない。
女の子がソラに気付き、手を伸ばしてきた。
「お兄ちゃ、助けて!」
伸ばした手はとても華奢で、そんな手でソラに助けを求める。それを見て、ソラは恐怖で動けなかった自分を殴った。その一撃は自分でやったにも関わらずとても痛かった。その痛みで恐怖が少しながら溶け、悪魔と少女の間へと割り込んだ。
「こっから先には、行かせねぇ!」
悪魔は気味の悪い声で「キシャシャ」と笑う。
その笑いが戦いの合図となり、ソラは剣を抜き突っ込む。悪魔は翼で全身を覆い待機。
魔剣が悪魔の翼に当たると同時にガチンッと鈍い音が出た。それは鉄と鉄が競り合う衝突音のようだ。
ソラは刃が通らないと察し、一旦後方へ下がる。それを狙うように悪魔は翼をどけ、口から炎の球を出してきた。
その球はソラに当たり、ソラを焼き尽くそうとしてくる。
熱いと痛いの感覚が襲う。持続無限回復を使っているが、ショック死しそうな程に痛かった。
だが、その感覚は一瞬だけだった。何故ならば、ソラを覆っていた炎の球は消えていたのだ。
膝をついてしまったが、直ぐに奥に居る悪魔に視線を送った。が、悪魔の姿はどこにも無かった。否、地に体を付けていた。その悪魔は、倒れていて、何故か立ち上がらない。立ち上がれなかったのだ。その悪魔は焼け死んでいたのだから。
その驚くべき光景を前に目を丸くしていると、後ろから何か衝撃が加わった。
「お兄ちゃん凄い!あとね、ありがとう」
その少女はソラに抱きつきそして、どこかに走り去っていった。
その言葉は普通に嬉しかった。が、それとは別で、何故悪魔が焼け死んでいたのか。それは、謎のままだった。
何故か焼死した悪魔。その事はもう忘れてしまう程に衝撃的なことが起こった―――――
「怪我人は第三区教会か診療所まで運べ!」
一番悪魔が集まっている場所に行くと、そこには重傷を負った人が多くいて、とても鉄の臭いが場を包んでいた。
そこでは、重装備の冒険者らしき人と、魔法使いなどが悪魔と戦っていた。だが、悪魔は余裕で魔法使いの魔法や、重装備の飛ぶ斬撃すらも防いでいる。
あの時、悪魔を倒した時も、どうして、どうやって倒したかは謎のままなのだ。倒すにはその倒し方を考えなければならない。
「おい、そこの兄ちゃん。見ねぇ顔だな。職は?」
声を掛けてきたのは顎髭を少し生やし、少しボロボロになった中年男性だった。
その顎髭の男はソラの体を上から下まで見た。特に魔剣に注目していた。
「あ、えっと、鍛冶師です」
「何ぃ?鍛冶師だと?」
鍛冶師が戦場に来ているのがおかしいからか目を見開いていた。
「てっきり、そんな剣を装備しているから熟練の剣士かと思ったんだが、人の職業を当てるのは得意な方なんだがな。と、そんな事より―――――」
その男は上を見上げて、
「—————あの悪魔を倒さなきゃな。と言っても奴らを倒す術がこっちにゃ無い。その危機的状況をどうするかだな。ちっとばかし遅かったが、俺はエスタルトだ」
「俺はソラだ。これから宜しく」
エスタルトは握手を求め手を差し出す。それにソラも手を伸ばし握手を交わした。
そして、エスタルトは手を自分の顎に添え、打開策を考える。ソラの方は、さっきあった事を男に話す。それはとても奇々怪々とした出来事だったと。
「そりゃ本当か!?なら、それはお前のスキルか。いや、その剣のレアスキルだな」
それを聞き、あの時、持続無限回復を発動させたように、ステータス画面とコールする。すると、目の前にパソコンの画面に表示されていたのとまったく同じ、ステータス画面が表示された。
自分のステータスに、武器や防具の名前があった。魔剣の名前をタップし、魔剣自身のステータスを見る。そこには、フォーススキル1の持続無限回復と、下にスライドすると、フォーススキル2『持続反射』があった。ステータス画面を閉じようと、武器ステータス画面を閉じ、プレイヤーのステータス画面を消そうとしたら―――――
「これは、」
装備名、その下に書いてあるはずの技固定が砂嵐のようなもので見えなくなっている。パソコンのキーボードを使う必要が無いからこちらでは消えているのだろうか。一瞬ドキッ、としたが、理由が分かり安心した。
前を見ると、エスタルトが固まっていた。
「ちょ、おいおい。ステータスコールも出来るのかよ。出来るやつは一部の奴しか持ってないぞ。給料の高いギルド管理員にも一発合格だぞ、そこらの鍛冶師よりも高いのに持ったいねぇな。で、どうだったんだよ?スキルの方は」
「あ、あぁ、あったよ反射が」
「反射か、そいつならこの状況を何とか出来るかもな・・・・・行ってこい」
「は?」
「行って炎攻撃を受けてこい」
「死ねっていうのかよ!」
「大丈夫だ、なんとかなるさ。決してお前が死んでその剣を奪おうって魂胆じゃねぇから安心しやがれ」
(このおっさん、エスタルトの言っている意味が分からない。あんな何でも破壊する炎に焼かれてこいって、死ねと言っているものじゃないか。確かに自分の目で持続反射と書いてあることも、それによって悪魔が自爆したこともちゃんと見た。だがしかし―――――)
「ここで活躍したらねぇちゃん達とお前だけでハーレム作れるかもな」
「よし乗った。今すぐ突っ込んでくる」
電光石火の如く即答し悪魔のもとへダッシュしていった。