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*6話 悲しみの先の決意


 外に出ると、眩しさで目が眩んだ。その光力に慣れてくると、視野一杯に広がったのは、中世ヨーロッパ風の街並みだった。

 足元は石畳。建物は二階建てがほとんど。屋根は橙色で統一されており、家と家の間は隙間が無いほどぎっしりと数珠のように、いくつも並んでいた。大通りの端にはいくつも露店があり、人通りも多く賑やかだ。歩いているのも人間以外に、ビースト、リザードマン、ドワーフ、エルフなどが居る。

 そして、その街を見下すように、巨大な純白の城が建っていた。屋根は吸い込まれそうになるような深い紫色。

 この嘘のような景色を前にすると、悲しみの感情も悔しみも、微塵も考えることが出来なくなった。今さっきの争いを思い返したら、馬鹿な事をしてしまったと思ってしまう。


「まずは宿か。はぁ、一人か。前は一人でも平気だったのに、今となっては心細い。脱退するとか言わなきゃ良かった」


 今さら後悔しながら、名残惜しく後方を見ると―――――


「入り口が、無い」


 ついさっきソラが潜ったばかりの穴、それが無くなっていた。人が入れるような巨大な穴どころか、穴すら見当たらない。


「それじゃあ、皆は」


 出口と思っていた大きな穴は閉じ、思い返すと他に出口らしき穴が無かった。ならば皆はどうやってあの薄暗い場所から出るのか。

 そう思った瞬間、体は穴があったはずの壁を思い切り拳で叩く。何度も何度も痛覚が麻痺しても、叩き続けた。

 何故そのような行動をとったのかは自分にも分からない。何となくとしか言えない。


「お主はそこで何をしておるんじゃ」


 声のした方を見ると、そこには白髪を生やした老婆が立っていた。


「ここにあったはずの穴が消えて、それで中に居る皆が」


 事情を聞いていた老婆は、唸り声をあげる。やがて—————


「立ち話も疲れるし。まぁ、教会の中に入りなさい」


 そう微笑むと、ソラに背を向け、ゆっくりと歩き出した。その少し曲がった小さい背を追っていく。

 全てで16区ある内のここの教会は第8区教会らしい。

 建物の入り口の前でソラは止まった。今まで叩いていた石の壁は、教会の壁だったのだ。

 教会は他の建造物とは違い、橙色の屋根ではなく青色の屋根で、屋根の部分には大きな鐘が吊るされていた。

 教会の外見に目を奪われていたが、老婆を追う事を思い出し前を向くと老婆は入り口の少し先で笑顔で待ってくれていた。

 待たせていたのに、罪悪感は何故なのか感じない。

 そのまま教会に入り、導かれるまま進み長椅子に腰を掛ける。

 ソラは教会の中。もとい、穴があったはずの場所を見る。

 穴があの壁にもしもあったとしたら、ここはあの空洞のはずだ。だがその面影すらなく、神聖な教会の内装そのもので、濁った色が少しとしてない、純白の壁だった。

 ―————そんなことは見ずとも薄々分かっていた。教会がいきなりあの薄暗い空洞に、一瞬にして変わるようなことはあるはずがない。


「落ち着いたかい?お主が見た穴は何の事かは分からないけど、これが真実」


「はい。落ち着きました。でも、少しでいいのでここに居させてください」


「あぁ、良いさ良いさ。ここは憩いの場だから、誰がどう使おうと、迷惑にならないのなら、ずっと居て良いさ」


「ありがとうございます」


 ソラは楽な体勢で目を瞑る。一方老婆は入り口を潜り、すぐ右にある個室に入っていく。


「オイギリとアチャはいるかい?」


「え?」


 個室に入り、すぐに出てきた老婆は、お盆に何かをのせてソラのもとに寄る。

 盆の上には、おにぎりとお茶らしき飲み物があった。


「これは、おにぎりと、お茶?」


「ん?オイギリとアチャじゃよ」


 聞き慣れない飲食物の名前に、疑問符を頭の上に浮かべるソラ。


「じ、じゃあ、頂きます」


 少し警戒しながらも、微笑を浮かべる老婆の前でオイギリなる物を口に運ぶ。


「—————ッ!」


 オイギリは、ソラの頬を落とすほどに美味であった。米粒一つ一つは、口の中で溶けるように砕け、少し塩辛いが、それがまた良い。さらに、塩によって喉が渇き、アチャを一口飲むと、味は麦茶と同じ味に思えるが、オイギリとても合う。


「ウマイッ!」


 手にある残りのオイギリを全て口に詰め、アチャを飲み、皿に残っていたオイギリを見て、次に老婆を見る。

 老婆は頷きながら「どうぞ」と言う。

 その返事を聞き、笑みを浮かべ、残りのオイギリに貪り付く。


「そんな急いで食べると喉に詰まらせるよ」


 ずっと引きこもってばかりいたソラは、人の優しさを生身に触れることはあまりなかった。

 チョコン達と共にした時間と同じ温かさ。

 故に―――――


「おやおや、ハハハハハ」


「ウウッ、」


 故に感動するしかない。泣いた。泣き喚いた。

 米粒のような大粒の涙が頬を伝い、教会の床に落ちる。

 あんな悲痛な別れ方をした自分が許せない。もっとちゃんと、どちらも頷けるような別れ方をする方法も在ったろうに。だが、周りに居た人たちの視線に恐れをなし、急かし、言い合いのような形にした自分が許せない。

 だから、決めた。


 一人で生きようと思うな。


 チョコンが言った。最高のパーティーを作って、見返してみろと。


 周りの目は気にするな。自分のやりたいようにやれ。


 もう二度とあんな悲痛な思いはしたくない。してたまるか。


 ソラは泣きながらもそのような決意を胸に宿した。

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