*3話 寛大な友情
蘇生を試みたプレイヤー達のマジックポイントが尽きる。
だが、尽きたとしても、腰に着けていた魔法瓶の中身を飲み、未だ蘇生を続けているプレイヤーもいる。
蘇生をしている者の動きが、全て止まった。MP回復ポーションが切れたのだろう。
そして、エルゲンフォートを蘇生していた数人が、今、嘔吐に見舞われる。
自分の善意が勝手に体を動かし、気付けばずっと蘇生呪文を唱え続け、夢中になってやっていたので、エルゲンフォートの首が切れていることなど気にしなかった。そして、我に返ったプレイヤーは、自分が目の前にしている残酷な死体と現実。そんな中、冷静でいることは至難の業。故に、嘔吐するのも仕方がない。
「お前のせいだ・・・・・」
何処からか僅かな声量でソラの鼓膜を震わせた。
その声が聞こえた瞬間、蘇生をしていた女性プレイヤーがふらりと立ち上がった。
そのプレイヤーは、真っ直ぐにソラの方へと歩み寄ろうとする。
「貴方がランキング戦で負けていれば」
「・・・・・勝ち負けの問題じゃねぇだろ」
ソラは、罪悪感と若干の呆れで有耶無耶な感情に、少量の怒りが混じり、ソラの心境は濁っていく。
だが、感情をやっとの思いで抑え込みながら、ずるずると近寄ってくるプレイヤーと口論を続ける。
「あの剣が無ければあんなことには―――ッ」
「剣の事なんて関係ないだろうが、まず俺もあんなことするなんて思っても―――」
「貴方なんかに滝沢君の何が分かるって言うのよ!」
俯いていた女性は顔を上げ、隠れていた顔が晒される。その顔からは、怒り、悲しみ、悔しみ、この三つの感情が現れていた。
一体この女性プレイヤーとエルゲンフォート、もとい滝沢はどのような関係なのだろうか。
「じゃあ、剣は関係ないならエルゲンフォートさんが言っていた通り、チートを使っていたの?」
チート。その単語が出てきて刹那の間で、その単語はフィールドの端の方まで届いた。
だんだんと騒めき出す。
「チートってどういう意味だよ!」
「ランキング戦でも不正してたつーこっか!」
「お前エルゲンフォートの攻撃受けて、死んでも可笑しくない致命傷食らったはずなのに生きてたもんなぁ!」
チートではない。武器の技だ。不正なんかしていない。
言いたい事があっても、恐怖で言葉が喉に引っ掛かり、声が出せない。出したくてもどう足掻いても出せない。
恐い恐い恐い。
「言い返せないのね。残念。認めるんだね」
チートではないと否認したとしても信じてもらえない。多勢に無勢だ。だが、恐がってばかりもいられない。
「———ッ、スゥゥゥ、俺はチートなんか使ってはいない!」
「悪足掻きなんてみっともないぞ!」
「誰にだって悪足掻きをする権利はあるし、今から言うことは悪足掻きでも何でもない。ただの事実だ」
すると腰に掛けていた鞘から剣を抜く。皆は警戒するが、そんな事関係ない。
鞘から禍々しいオーラを放つ魔剣が顔を出した。
「この剣のフォーススキルだ。持続無限回復」
この大勢の中には誰か一人は魔剣を持っているはずだ。
「この武器を持っているプレイヤー、出て来てくれないか」
出て来てくれたプレイヤーなら証明してくれるはずだ。何せ同じ武器で、同じスキルだからな。
だが、誰一人として出てこなかった。
それもそうだ。新武器だし、しかも今ソラの肩入れをするプレイヤーは、他全プレイヤーを敵に回すに等しい。
「その証拠は出せそうにないみたいね」
もう満足したのか、ここから立ち去ろうとする女性プレイヤー。すると、
「証拠ならあるぜい」
奥の方から声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。
その奥からやってきたのはソラのパーティーのリーダー、金髪モヒカンのチョコンだった。
「お、お前」
「すまないな。助けれなくてよ」
「いや、良いけど。なん―――」
チョコンは人差し指をソラの唇に当てると、もう片方の指を立て、自分の口前に出す。
「リーダーとして当たり前の事をするだけだよ」
「ちょっと貴方は」
「おぉーと、すまねぇ。置いてけぼりにしちまってたな。話を戻すか」
チョコンはこの雰囲気に合わない、笑顔と気軽さで、少しだが場の空気を和ませる。
「多分だけど、この世界じゃ呪文名を言うだけで魔法使えんだろ?」
「はい」
「でもパソコンじゃ、技を指定したキーボードを押して技を出していたし、装備を変える時なんかメニュー開かなきゃ変えれねぇ」
「それがどうしたと言うんですか」
「いやぁ、メニューを今さっきまで探していたんだけど、何とか見つかったぜ」
「だからそれの何が―――ッ!」
確かにメニューを開いて何になるのか分からなかった。だが、次にチョコンがすることを見て、ようやくその意味が分かった。
「こいつの剣のステータスさ」