*2話 異世界転送
[WINNER ソラ LOSER エルゲンフォート]
試合結果が、勝者、敗者、そしてその決戦を観戦していたプレイヤーのチャット欄に表示された。
チャット欄は、祝福の言葉や慰めの言葉、決戦時の終盤に出てきた、武器の事についての話題で盛り上がっていた。
一方、対戦者チャットの方では、
[お前チート使っただろ]
[武器のフォースの効果だけど]
[チーター乙www]
エルゲンフォートは、一つの罵倒を残してチャットから退出した、と言うより逃げたが正解だろう。
だがソラは、憤慨するどころか哀れむ感情が大きく、腹を立てることが出来ない。
相手の身になってみると、持続無限回復はチートと思われても仕方がない。事実、ランキング戦で使う気は無かった。敵を見縊っていたわけでもない。ただ、使ってしまうと面白みが無くなってしまうからだ。否、チーター呼ばわりされるのが恐かったからだ。持続無限回復なんて、さっきのように死んでいても可笑しくない、致命傷を負わせるような攻撃でも、ヒットポイントが尽きる前、そこから回復を始め、最終的には傷跡一つも無し。聖剣クラスの武器ですら成す術無し。チーター呼ばわりされても仕方がない。
何故使ってしまったのかも自分でも分からない。最初のやり取りで気が立っていたのだろうか。はたまた、最後のランキング戦は勝ちたいという衝動が魔剣を抜かせたのか。だが使ったのは事実でその真実は無くならないし、揺るがない。星城はただ武器の力に頼らなければ勝てない、強豪の中の劣化版なのだと痛感するだけだ。
「まぁ、今どう思っても無駄か。ま、勝てたから、良いや」
背を伸ばしながら、自分は悪くないと言い聞かせるように話題を切った。
そうやって言い聞かせて安心すると、星城を眠気が襲う。
そのまま眠気に任せてしまい、星城は眠りに落ちていった。
「うおぁ」
意識を取り戻し、視界に広がったものは、壁だった。
唐突に現れた壁に、驚き飛び退き転倒した。
直ぐに立ち上がろうとするが、何か違和感を全身に感じる。
原因の体に目をやると、見覚えのある装備だった。星城が前回、モンスター狩りで使用した装備に似ている。いや、全く同一の装備だった。
星城は起き上がり落ち着くと、周りが騒がしい事に気が付いた。
「んあ?あれ、俺、寝落ちした?」「うぉ、今、俺ゲームキャラになってる」
周囲の人も星城と同様、驚愕している。
「お前はあの時のチーター!」
後方から怒声が聞こえてきた。青少年のような、低くも高くもない声だ。
その怒声は周囲の声量を上回り、騒がしかった周りを一瞬にして静めさせる。
その声の主はエルゲンフォートだった。エルゲンフォートは決戦の時のように、鞘から剣を抜き取り構えた。
「ランキング戦での悔やみ、晴らす」
すると、勢いよく剣を降り下ろそうとするが、
「俺は全ての試合を見た。お前は直ぐに終わらせようとし、全て降り下ろそうとするのが欠点。お前は所詮俺と同様、武器の力に頼るだけの、強豪の恥さらし、だ!」
星城、もといソラは、素早く横に避け、足を掛けて転倒させる。
ソラは「それに、」と続ける。
「それに、これは夢でもゲームでもないからな」
皆の言動、自分の意識の明瞭さが、その答えを出している。
ここで殺し合うと、殺された側はどうなるのかが分からない。そんな明白になってない事を誰が進んでやるだろうか。そんなのは馬鹿しかいない。
エルゲンフォートを再び倒すと、周りから歓声が飛び交う。そんな中、エルゲンフォートが立ち上がり、質問をソラにぶつける。
「さっき夢ではない現実だと、言い切れるのか」
「あ、あぁ、あくまで俺の予想だけど」
エルゲンフォートがソラに対して、罵倒以外の事を口に出すことに驚き、一瞬言葉が詰まるソラ。
ここでエルゲンフォートの様子がおかしいことに気付いた。気が動転して気が狂ったのか、唐突に笑みを浮かべる。
「フハッ、フハハハハ」
その笑みはとても残酷な顔。その冷酷な笑みを目に写したプレイヤーは、皆引いている事が分かる。
その気味の悪さは、常軌を逸していた。
「だったらその予想が当たっているかどうか、今ここで確かめてみるか」
エルゲンフォートが言っていることは、ソラを殺し、生き返るかどうかで判断しようと言っている。そう思った。———そう思っていた。
ドスッ―――
辺りは騒然とした。自害したのだ。首が切り裂け、皮の一つも繋がることもなく頭が転がった。
自分の手で、自分の剣を使って、首を素早く裂いたのだ。
この行動は意味が分からない。エルゲンフォートの性格上自分が死ぬような場面は望まないはずだ。それも自分から進んで。
英雄となりたかった。いや違う。目立ちたいという気持ちはあっても、命が無くなるかもしれない事を進んでやる馬鹿は居るはずがない。
だが、復讐だとしたら、戦いでは武器の性能で劣る、向こうからはチートと言われていたが、敗北することは目に見える。
だからこそ自害し、そして、実際に生き返らなければソラをプレイヤー達は非難。ソラの居場所を無くせる。死なずとも、英雄として崇められる。これを狙ったに違いはないだろう。
だが、動揺しているソラはそんな事考える余裕など無い。
「ソールリバース!」
見知らぬ女性プレイヤーが近寄り、蘇生呪文を唱えた。
その姿を前に、後に続き男性プレイヤーや女性プレイヤーが寄っていく。
様々な蘇生呪文を、エルゲンフォートの一体に注いでいた。
その時間は何分続いただろうか。その時間を神官と回復師の十数人が唱えているが、生き返ることもリスポーンすることも、その体が消滅することもなかった。