*1話 最終決戦
「ふふふ、新武器の魔剣、生成出来たぞぉぉぉおお!」
カーテンを締め切り、部屋のドアには鍵を閉め、部屋の明かりはパソコンの明かりのみ。
外との関係を絶ち、唯一、外部の人間とコミュニケーションを取れるものはパソコンだけだった。
そんな立派な引きこもり部屋で、星城 広青はパソコンと常に睨めっこ状態だった。
オンラインPCゲーム『Death troke〈デストローク〉』をプレイし続け四年が過ぎた時、NEW表示してある武器を発見した。
その武器を入手するため、錬金をし続けた結果、新武器の『魔剣ルシファー』を手に入れることに成功した。
「絶対この武器、今は俺だけしか持ってないぞ」
プレイし続けてきた数々のオンラインゲームで、世界ランキングトップ30には入る強豪プレイヤー『ソラ』。
そのプレイヤーこそ、この星城広青なのだ。
六年前だろうか。その時から自分の幸運パラメーターに気付き始めていた。ずっと鍛冶師をやっていてレアリティーの低いアイテムを使っても、レア武器を十回足らずで錬金できる。
このゲームでも鍛冶師の職業を選んだ。高火力の魔法も使えなければ、攻撃力、素早さといった、ステータスすらも低い。
戦闘に不向きな職業にしたはずだが、ステータスはたかが数字でしかなく、ソラの幸運パラメーターの前では、ステータスの低さなど難じゃなかった。
だが、やはりランキング戦となると、それなりに腕が利くプレイヤーも必然的に出てくる。そうなるとレア武器でも容易には勝てはしない。
「錬金って、ドロップ武器も手に入るってのが、鍛冶師の強いとこだよな。さらに俺の幸運度も合わせたら最強だな。あ、魔剣を皆に自慢しよ」
こうして、星城広青の一日は終わった。
それから数週間の時が流れ、事件が起こった。バグ武器の影響で一部のサービスが使用不可となってしまった。そしてサービス終了日が決まり、終了日の前日、最後のランキング戦の最終決戦を迎えた。
α部優勝、エルゲンフォート。β部優勝、ソラ。
[おいおい、鍛冶師がβ部優勝かよ。笑止]
[適当に馬鹿にしてなよ。痛い目見るから。てか笑止は流石に草だぞ。使いたがりの時期かな]
待ち合いチャットでは、エルゲンフォートとソラが言い争っていた。
だが、待ち合いは3分。その間に準備もしなくてはならない。
故にチャットで口論し合う時間は、それほど取れない。
[フォーススキルエレメンタルバレッド]
決戦が始まり、先手を打ったのはエルゲンフォート。
エルゲンフォートの周囲に、四色の玉が唐突に現れた。この魔法は、エルゲンフォートの武器、エレメンタルソードのフォーススキル。
刹那、その四つの玉はソラを追尾する。
ソラはひたすらに動く、動かす。玉は一直線に飛ぶのではない。このステージは障害物もない闘技場。追尾を逃れる可能性は皆無に近い。
ここでソラの動きが変わった。
ステージの外側を走っていたが、ソラは逃げではなく攻撃に入ったのか、中央に佇むエルゲンフォートに突っ込む。
エルゲンフォートとの間合いは数メートル。攻撃に備え、エルゲンフォートは剣を手に持つ。が、ソラは攻撃はせず、降り下ろされた剣を寸前で避け、その背後に回った。
そして、追尾していた四色の玉は、エルゲンフォートに衝突―――。そう思った。
その玉はエルゲンフォートを避け、その背後に居たソラに衝突した。
[マジッククリーン]
確実に当たったはず。だがヒットポイントは1も減っていない。
マジッククリーン。あらゆる魔法攻撃を無効化する。
この魔法は鍛冶師の、戦闘に役立つ数少ない技の中の一つだ。
「うぉっ、あっぶね念のために技固定で入れてて良かった」
マジッククリーンの魔法壁に衝突し、その衝撃で砂が舞う。
それを逃さなかったのはエルゲンフォート。
砂が舞い、ソラの視界が悪くなったところを狙い、剣を降り下ろしてくる姿が、砂埃の中から出現した。
避ける隙は無い。その剣先は横腹をミリだけ裂けた。
「いった」
PCゲームだから、実際には星城は横腹を裂かれたりしているわけではない。かなりの時間をゲームに注いできたことが分かる。ここまで感情移入しているのがその証拠だ。
ソラは間合いを取ると、急ぎでキーボードを打つ。
動きが止まったことを良いことに、エルゲンフォートは間合いを詰め、剣を頭部目掛けて降り下ろした。
キーボードを打つ星城は、攻撃も防御も逃げようともせず、ある物を探していた。
「あった」
星城は、不吉な笑みを浮かべた。
魔剣ルシファーを装備。
[フォーススキル1持続無限回復]
魔法を唱えたが、エルゲンフォートのエレメンタルソードは、ソラの頭部には当たらず、肩から腹に掛けて切り裂いた。
だが、エルゲンフォートは、押し戻されるような力を感じた。
それは決してソラが抜こうとしているのではない。
その未知の力は、胸元に突き刺さっていた剣を、まるで奥から何者かが、物凄い力で押し返しているようだった。
胸元に刺さっていた剣は、時が経つに連れて、ゆっくりと押し戻される。
それを食い止めようと、必死の力で押し返すが、固定してあるように動かない。そして、剣は弾き出され、エルゲンフォートも同様に弾かれた。
弾かれた剣はエルゲンフォートの胸元に刺さりダメージを負った。
とどめにソラは、エルゲンフォートがのけぞった隙に、素早く手に持っていた魔剣でエルゲンフォートを下から斜めに切り裂き、勝負に、ランキング戦に終止符を打った。