表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

少年は大航海へ旅立たない

少年は大航海へ、旅立たない-2-

波の調子は大分良かった。

さざ波が海岸に優しく押し寄せては、帰っていった。

(こんどこそ、今日しかない...)

少年は決意を新たにすると、家の方向に走った。





少年が次に海に現れたとき、少年は何か大きなものをズルズルと必死に引きづっていた。


それは"船"だった。


縦に6m、幅が4m程。高さが7mくらいのマストに、ヤードが左右に4本ずつ伸びていた。

船の上には白い帆が何重にも畳まれて置いてある。


少年は船を引きずりながら、重たい一歩でジリジリと海へ向かっていく。



そして遂に浜辺へと辿り着いた。




少年はそこからマストに帆を括り付け始めた。


帆を括り付け終えると、少年は船に積まれた装備を確認していく。


魚を取るための銛、釣り竿。3日分の食糧と飲料水。応急処置用の布や消毒に使う薬。夜間用の携帯ライトとそのバッテリー。


航路を描いた自作の地図に、コンパス。航路を記録するための羊皮紙と、ペン。そして、連絡用の無線機。遠くを覗く為の望遠鏡。


少年が大好きなハチミツの大瓶と、お父さんの部屋から持ち出したえっちな本と家族の写真。


そしてミナちゃんのスカートが捲れているところを隠し撮りした写真...




少年は一つ一つ丁寧に確認を終えると、仁王立ちになって海へ向かって腕を突き出した。


(待ってろ。海よ。さあ、冒険の始まりだ)


少年は、武者震いを感じた。目前の海はさざ波だが、震えたつ少年の心は荒波そのものだった。


少年はさあ船を海に浮かべようと船を引っ張ると、誰かが少年を呼んだ。


少年が後ろを振り返ると小さな人影が見えたので、望遠鏡でその人影を覗いた。






ミナちゃんだった。




「ねー。タクヤ君ー」



ミナちゃんの口元の動きで、ミナちゃんが自分を呼んでいることに気づいた。


少年は望遠鏡を顔から降ろすと、ドキドキと胸が高鳴った。


(どうしたんだろう...ミナちゃん...)


少年は船の傍から


「どうしたのーーー」


と大声で尋ねた。


ミナちゃんは何か喋っているが、全然何を言っているか分からなかった。


(これは近づかないと駄目そうだな)


見るとミナちゃんは歩き疲れたのか一歩もそこから動かず、何かをタクヤに伝えようとしていた。


(仕方ないな)


少年のは船を3km近く引っ張って歩いてきたので、へとへとだった。

しかし、愛するミナちゃんの為とあれば仕方ないと、ミナちゃんの元へ走った。





ミナちゃんとの距離がおおよそ80mくらいとなったところで、ようやく何を言ってるのか分かるようになった。


「タクヤ君ってこの前私の写真撮ってなかった?」



「えっ?」



タクヤは顔を青ざめた。あれ、バレてたのか。


えーい知らないふりをしてしまえ。



「いや、取ってないよぉ。」



タクヤはなるべく平然を装おうとしたが、最後に声が裏返った。


ミナちゃんは訝しげにタクヤを見ている。


「マナブくんが、タクヤ君が物陰に隠れて私のことを撮ってるのを見たって...」


「あっ、あの野郎バラシ....いや、そうなんだ。うーんマナブの勘違いじゃないかなぁ。はは」


タクヤは今すぐにでも悪友を殴りに行きたかった。


「本当に撮ってないの...?」


「撮ってないよ!約束する!」


僕は胸を張った。


ミナちゃんは肩に掛けた女の子らしいバッグから、カメラを取り出した。


「あっ」


僕は思わず、声が出た。


ミナちゃんが持っているのは僕のカメラだった。


「このカメラね。タクヤ君のお母さんに言って貸してもらったの...」


「へ、へぇそうなんだ」


タクヤは生唾を飲み込む。


カシャッ


ミナちゃんは僕の事を何も言わずカメラに取った。


「確かね、一昨日もこんな音がした気がするの」


「へー、偶然だね。」


「あの時私は強い風に煽られて、スカートが捲れあがちゃったの。」


「うわー、そうなんだ。それは見逃しちゃって残念だ」


「でね。もし私のスカートの中をもし隠れて写真に撮ったような、最低な人がいるならね...」


「うん...」


ミナちゃんはタクヤにニッコリと笑いかけたが、


眼は一切笑っていなかった。



「殺してやろうと思うの」



タクヤは背筋が凍るのを感じた。


タクヤは自分がとんでもない過ちを犯したことに気づいた。



「いやー、ミナちゃん。でも高々パンツを覗いたくらいで、殺すというのは言い過ぎじゃないかな...なんて...」


「...」


ミナちゃんはバッグの中をごそごそと捜し始めた。


そして、出てきた手には包丁が握られていた。



「ミナちゃあああああああああああああああああん」



タクヤは思わず腰を抜かしてしまった。


こんなことになるなら、さっさと出発してしまえばよかった。



「タクヤ君に選択肢をあげるわ...」


「はぁぁぁい。な、なんでしょぉか...?」


タクヤは縋るような気持ちでミナを見ていた。


緊張で喉がカラカラだった。



「もし、写真を返してくれたら、ビンタ一発で勘弁してあげる」


「もし、写真を返してくれないなら...」


ミナちゃんはワナワナと震える包丁を前に突き出した。



タクヤは落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせた。


素直に写真を渡せば、ビンタ一発でミナちゃんは許してくれる。


だが、しかし...



一昨日のミナちゃんはパンツを穿いていなかったのだ、




なぜ、穿いていなかったのか。それはこの際どうでもいい。


ただ、これからの旅の中でタクヤにはいくつも困難が訪れるだろう。


その度に傷つき、涙を流し、もう立ち上がることができなくなる瞬間がやってくる。


そんな時に、一筋の光がタクヤを照らす。


それがあの写真なのだ。


あれはもはやただの写真ではない。




"希望"なのだ。





タクヤはそう、ミナちゃんに訴えかけた。


ミナちゃんは虫けらを見るような目でタクヤを見下ろしていた。




「タクヤ君。あと10秒以内に私に写真を渡さなかったら、」


「もう一生タクヤ君と口聞かないから」










タクヤはその後素直に船に戻り、写真をミナちゃんに手渡した。


一発と言っていたビンタは、数十発の間違いだったらしい。





タクヤは顔の2倍ほど腫れた両頬を抑えながら、いそいそと海に船を浮かべようとしていたが、

ミナちゃんに首根っこを捕まえられて、また丘に上がった。


「あれ?どうしたのミナちゃん」



「そういえば、マナブくんはあんたが写真を撮ってたのを何で知ってたのかしら?」



「マナブくんもあそこにいたってことよね...?」



「タクヤ君も一緒に来てもらうわよ。」




僕はミナちゃんに首根っこを掴まれたまま引きずられ、海から遠ざかっていった。


















少年は大航海へ、旅立たない-2- -終-






















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ