絶望の芽
……
「グルルル」
「そう怖がるなよ、友達になろう」
……
「ガウ」
「いて、ははは、かみついてくるとはいい度胸だ」
「ガウガウ!」
「いててて、このやろう」
……
「……」
「そんな顔するな、すぐ戻ってくるから」
「クゥン…」
「馬車の事、たのんだぞ」
……キュウ
「……」
囁きかけるような鳴き声に、エインはゆっくりと瞼を開く。
目の前、狼型の魔物がいる。
(…リール……こんなところまで来たのか…)
体中の筋を削がれ、もはや動くことすら出来ないエイン。
「クゥン」
リールは、悲しそうな顔でこちらを見ると、傷ついたエインの体を舌で舐めた。
(捕まって……どれくらいたった……みんなは……)
久しぶりに見た仲間の姿に、エインは心にわずかな余裕を取り戻していた。
勇者になってから出会った友達……、まだ魔王の事も、魔物の事もよくわかってなかった頃。
その見た目のかわいさと、負けん気の強そうな目に惹かれ、つい構っていたら仲間になった、唯一の魔物。 そして女神の加護を受けた魔物でもある。
しかし魔物における女神の加護の伸びしろは人ほど長くはなかったらしく、俺たちが成長を続ける中、早期にゲレの成長の限界は訪れてしまった。
そこらの魔物には負けないだろうが、音速戦闘が行えるレベルに達する事はなかった。
だけど
(今の俺を殺せる攻撃力くらいは……ある)
エインは、目で訴える。
「……」
リールは、黙って勇者を見つめた。
そして
その鋭い牙が、勇者の喉を食いちぎった。