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 シ―キュ―ブが部屋を去った後、エインは背もたれに頭を預けた。


 今日は少し疲れた、そう思う。


 エインは一人、先の未来を想像した。


 この後ルドルは、第五世界にいき、適当な密室に魔物と共に閉じこもるだろう。


 そこで彼はオルガに感染する。 そして死ぬのだ。


 ルドルに感染したオルガは魔物に戻り、生き返ったルドルはまた密室に戻る


 それを何度も繰り返す。


 微生物型の魔物、オルガが仲間になるまで。


 それが、エインが魔王達を掌握した全容だった。


 仲間になったオルガは、仲間の情報を引き継いだまま増殖する。


 勇者の仲間であるがゆえに、勇者の意志命令で変身増殖攻撃を自在に指示することができた。


 仮に一匹の攻撃で0.0001のダメ―ジしか与えられないとしても、対象の体内に数千万匹のオルガがいた場合、その生命を断つのにそこまで時間はかからない。


 オルガの治療方法は、心臓に微弱な聖呪文を当てることで、血のめぐりを利用して聖呪文を全身に流しオルガを死滅させるという方法であるが、勇者の仲間の特性であるレベルシステムによって強化されたオルガは、その聖呪文に耐える事が出来た。


 聖呪文の出力を上げればオルガを殺す事はできるだろうが、心臓から全身に呪文を流す性質状そのレベルの聖呪文のダメ―ジを受けて耐えられる人間は存在しない。もちろん魔王ならば猶更耐えることは出来ず、絶命するだろう。


 人が死なない程度の微弱な聖呪文というのがこの治療の肝なのだ。


 オルガを仲間にした段階で、エインは勝利を確信していた。


 そういえば、とエインはふと思い出す。


 ゼアクスが戦犯であると結局奴に話していないと。


 ゼアクスとの最後の戦い、あの序盤に行った長話は何も時間感覚を狂わせる事が本題ではなく、本当の目的は時間をかけることでゼアクスにオルガを感染させる事にあった。


 その後ゼアクスは血を流しながら――ウイルスをまき散らしながら本陣へ帰ったことで、他の魔王達にも感染を誘発させたのだった。


 大魔王城に入った時、感染を広げるため適当な猿型の魔物を半殺しにしてたっぷりオルガを感染させた状態で大魔王の間に突撃させたが、その場にうずくまるゼアクスを見て笑いそうになったのをエインは思い出した。


 あの段階で勝ちは決まっていたのだ。 すでに魔王達の命は手中に収めていた。


 この作戦の成否における一番の難所はオルガが仲間になるかどうか。


 しかし魔物であるリ―ルと同じように繰り返し関わりを持つことで為せると思っていた。


 オルガが仲間になるかどうか、その確率が五割、成功した時に、うまくオルガが機能するという希望を込めてルドルには勝率を六割といった。


 結果は成功、しかしそこに至るまでに、オルガに半年以上殺され続けた。


 オルガ発病の苦痛は想像を絶する、エインはルドルにその苦痛を超えることは無理だろうと思っていた。


 だからルドルはランを使う、正気を失っているランを密室に閉じ込めオルガに殺させ続ける。


 その間にルドルは世界を回り、ランを正気に戻す術を探す。


 そうなる事までは、容易に想像がついた。


 ではその後どうなるだろう?


 またこの部屋に来るのはルドルかランか。もしくは二人でくるか。。


 あれだけの啖呵をきって、自分は耐えられませんでしたでは、ルドルは合わせる顔などないだろう。


 妹の影に隠れて会いに来るほど、ルドルの面の皮は厚くない。


 とすれば次にここに現れる勇者は、恐らくラン一人。


 エインはその場面を想像してくつくつと笑う。


 ランに何ができるのだろう? エインには想像がつかなかった。


 あの優しい女の子に、果たして俺を殺す度量があるのか


 それは優しさとは対極にある感情だと思った。


 やはり女神教の棄教が焦点だろうか? エインは思う。


 エインが女神教を棄教できない理由もオルガによるところが大きく。


 女神教を棄教した場合のオルガの挙動が、今のエインには予測がつかなかった。 女神がエインから力をはく奪しないのも、これが一番の理由である公算が高い。 ルドルかランがオルガを仲間にした際の動作を確認するのも今回の目的の一つだった。


 エインは小さく息を吐き、目を閉じる、未来を考えると虚しくなった。


 この不死身の体も女神のル―ルの中だ。強者の敷いた縛りを破ることなど永遠に不可能かもしれない。


 結局自分はいつまでも死ぬ術を見つけられず


 第一世界を攻略することもできず


 用済みとなった魔王達を殺す事もできないのではないかと思う。


 しかしそれは、ルドルやランにとっても同じだと思えば、少しだけ気分が和らぐ。


 自分の弱さに死にたくなる二人の姿が、目に浮かぶ様だった。


 二人がもしも自分以外の魔王を殺そうとした場合、自分はどうするだろう?


 オルガを操る事ができれば不可能ではない、対抗できるとすれば、自身のオルガを操作して対消滅させるだけだ。その場面を想像したとき、魔王達を助ける自分の姿が容易に想像できてしまい胸に嫌悪感が込み上がった。


 オルガを自在に操作できるのはランと俺の二人だけ、この先増えることもないだろう。


 最終的な決着はどこだろう。

 

 心理的な抵抗を無視するのであればであるが


 人がすべて死滅すれば、きっと女神も死ぬ。ルドルの言う通り全世界全人類にオルガは感染させてあった。あとは自分の命令一つで女神の信仰を0にすることができる。


 しかしその場合、エネルギーを失った為に女神が創った世界すべてが消える懸念があった。


 その時には第一世界に逃げ込んで魔物だけの世界を創ろうか、そのためには魔王達は必要だろう。


 うまく死ぬことができて、女神と対峙する未来もないわけではない。


 女神を倒したら、新しい神にランを置くのもいいかもしれない。そのためには勇者が必要だろう。


「はは」


 そこまで考えて、エインは思わず声を出して笑ってしまった。


 今ふと頭に浮かんだ言葉が、無性に愉快だった為だ。


 チ―プで幼稚な言葉の羅列が、今までとこれからの自分の有様そのものに思えた。


 エインは、確認するように、その言葉を発するべくゆっくりと口を開いた。




 死にたくても死ねない死なない勇者と殺そうにも殺せない殺したい魔王 


 完






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