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無神論

「女神が個人として存在する。 そう確信した俺の絶望がお前にわかるか?」


 エインは過去を反芻するように目を細める。


「……いつから、お前は女神に疑念を持つようになったんだ?」


 ルドルは現状証明する手段のない女神の在否を脇に置き、エインに疑問を投げかける。


「……ゼアクスが信者を拷問している間も奴は助けなかった」


「すべての困難は試練だと女神教は説いている」


「なんでも試練で片付けられるから怠慢が正当化される、うまいシステムだよな」


 すべて試練だと言い聞かせていた過去の自分を思い出し、エインは自嘲するように笑った。


「それだけじゃないはずだ。 あれだけ信仰深かったお前が確信に至る瞬間があったはずだ」


 ルドル自身、女神の存在を否定するのに100年かかった。 エインが女神に見切りをつけたのは勇者教の時系列と合わせて考えれば魔王と戦っていた時期で間違いない。ではその確信は何だったのか。自身と比べればはるかに短い間隔でそれができた理由がルドルは知りたかった。


「疑念はこの髪色になった時から……、女神が苦しむ信徒に対して沈黙を貫いていた時に芽吹いた、だから俺は女神を試すことにした」


「試す?」


「本当に勇者……人間の力で魔王を倒すことができるのか?」


「矛盾しているように聞こえるが?」


 エインが魔王達を掌握している現状にルドルはそう言った。


「違う、今の手段はルールの外だ。 本当の勝利とは人の出力で敵を殲滅できてこそ達成される」


「……」


 ルドルはエインの言葉を待った。


「全人類の魔力を集中して戦ったあの戦闘、あれこそが王道であり勇者という存在を図る最後のチャンスだった。その結果は最弱の魔王と互角、魔界にいる他の魔王には手も足も出なかったよ」


 エインは黒く変色した左手を掲げる。


「捨て身、半身半生を投げ出して放った渾身の呪文が指一本の突きに破られた時、俺は確信した。 人では絶対に魔王に勝てない、じゃあなぜ女神は勇者なんて作ったのだろうと、ルドルお前に説明できるか?」


「……」


 ルドルは想像する、ただ冷徹な仕組みがそこにあり、人が抗う手段などないのだと突き付けられた自分の姿を。


 当事者ではないルドルに当時のエインの心境が理解できるとは言いようがない、しかし今の彼には少しだけその気持ちがわかる気がした。


「答えは簡単だ、魔王も魔物も勇者も、女神教が成立するためのシステムに過ぎない、信仰が徴収できる限りこのシステムは永遠だし、通常の手段では覆ることはない」


 ルドルに目を閉じ、エインの言葉に納得した。


 静寂が落ちる、ゆっくりと目を開いたルドルは、じっとこちらを見つめるエインに最後の疑問をぶつけるために息を吸った。



 

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