対滅のカタストロフ
金色の魔力を放出し、ふわりと浮き上がるエイン。
対するゼアクスは翼を高く開き、床を踏みしめた。 その挙動でひび割れる足元。
「……ッ」
エインは一筋の光となりゼアクスへ突撃する。
対し床を爆裂させエインへ飛び込むゼアクス。
衝突地点で弾ける稲妻と漆黒。 激突の衝撃により光と闇の波動が空間に明滅する。 激突する力に耐えきれず二人をを中心に床がめくれあがり、すり鉢状に変形した。
その余波は蛇のように空間をうねり、壁に傷を刻み付ける。
闇が内側から光を弾き飛ばした、力負けしたエインは衝撃波をまき散らしながら吹き飛びゼアクスから見て斜め上の壁に体を打ち付ける。
「くっ」
エインは銃剣の銃口を魔王へ向けると、引き金を絞る。
銃剣から放たれる雷撃弾、稲妻の速度で迫るそれは、何もない空間を通過した。
外れた弾が壁に激突すると、超高熱のプラズマフィールドをその場に作り出した。
「っ!」
エインは連続で引き金を絞る。
銃口の先で左右に大きく動き雷弾を避けるゼアクスは、エインの目前にいともたやすく到達してみせた。
ゼアクスの目前で放たれた雷弾。
弾丸を放った余波が大気を震わせる、ゼロ距離、空間を焼き切りながら迫るそれをゼアクスは拳の一振りで弾き飛ばした。
「――!」
雷弾を弾いたゼアクスの拳の表面が裂けていた。
魔力を集中した拳の防御力をやや上回る威力を誇る弾丸が、ゼアクスの顔をわずかに曇らせる。
(……一体どれほどの魔力を圧縮して撃ちだしているのだ)
人の身で。
人の技術で。
(おもしろい)
銃剣を構えるエインと拳を振りあげるゼアクスの視線が交錯した。
「――」
ゼアクスは歯を食いしばり、拳を振りぬく。
そして放たれる超高速連撃。
「――ッ」
目にも止まらぬ連拳を受け止めるべく、エインが動く。
脳内のシナプスを電流操作により超加速。 電気シナプスが走るたびに焼き切れる脳細胞を壊れた端から回復呪文が即座に修復する。
それによってもたらされる常軌を超えた伝達速度に応えるべく、強化呪文と回復呪文の常時並列使用により強化された肉体が駆動する。
本来であれば即死するであろうこの技を、勇者の死に戻りを利用した修行により体得したエインは、人間の限界を超越した動きで魔王を迎え撃つ。
「ッ」
漆黒を纏う無数の拳と、稲光を纏う銃剣が錯綜する。
まるで花火のように闇と光が連続的に飛び散り、ワンテンポ遅れてエインの背後の壁に幾つものクレーターが出現した。
「……ッ」
鼻血を噴き出し、必死の形相のエイン。
ゼアクスが拳を振りぬく、その拳がエインの防御を抜け、腹部に突き刺さった。
「がっ」
漆黒が弾ける、エインの体が押し出され、半壊した背後の壁を突き破る。
一瞬で音速まで加速したエインの体は、魔王城の壁を何層も貫き場外へと体が投げ出された。
(外―)
空、青空、その青空を背景に、エインへ手をかざすゼアクス。
「……ッ」
エインは魔力を放出し、体を滑空方向へ加速させる。
ゼアクスの手のひらから放たれる漆黒呪文が、大地に炸裂した。
爆風を上げ、黒いドームが大地を覆う。
その余波に体を乱回転させながらも、寸でのところで攻撃を避けたエインは、森林地帯に突っ込み地面を掴むことで大地を削りながら体勢を立てなおした。
「……ッ」
木々の隙間から見える、空中に浮遊するゼアクスを睨む。
「どうした勇者? その程度か?」
「ッ……極大雷――」
エインの詠唱の最中、魔力で自分の体を弾いたゼアクスが、急速落下。
一瞬でエインのいる地点にゼアクスの体が着弾する。
「ぐっ」
後方に大きく飛びで何とか回避したエイン、しかし、ゼアクスの追撃は終わらない。
「!」
ゼアクスが自身より切り離した影を利用し、瞬時にエインの後方に移動。
ゼロ加速でエインの背後を奪ったゼアクスより放たれる魔力を込めた拳が、エインの背に着弾する。
体を海老ぞらせ、木々を根こそぎ吹き飛ばしながらぶっ飛ぶエイン。
そのエインめがけ、ゼアクスは手をかざす。
「極大暗黒呪文」
ゼアクスの手から放たれる、漆黒のエネルギーボール。
それが吹き飛ぶエインに向け空間を削りながら迫る。
ガラスが砕けるような破砕音をまき散らすその魔弾が、エインに直撃した。
「 」
エインを起点に、黒球が肥大化する。
瞬く間に直径一キロメートルを覆い尽くしたその漆黒は、その空間にあるすべてのモノを破壊しやがて収束、その場には、巨大なクレーターのみが残った。
「…」
クレーターの中央、うずくまるように倒れるエインを見つめ、ゼアクスは目を細める。
「……くそ」
エインは、理力の剣を杖のように地面に突き立てよろりと立ち上がった。
着弾と同時に回復呪文と防御呪文を連続でかけ続けたが、まったく威力に追いつけなかった。
しかも詠唱する暇がないため、魔力の使用効率は極端に悪い。
そんなことはわかりきっていたことではあるが、それでも、この短時間で想定よりも遥かに多くの魔力を消費してしまった。
(……もう回復に回す余裕もない。 少し早いが……やるしかない)
「極大暗黒呪文」
「!」
エインは、全力で地面を蹴る。
破砕音と共に着弾する暗黒呪文が再度大地を削り取る。
巨大化する漆黒のドームが、回避運動に入ったエインに迫った。
「――」
エインは魔法に飲み込まれぬよう全力で駆ける。
ドームの肥大化が、停止する。
寸でのところで間に合わなかった。
下半身を失いながらも、しかしエインは理力の剣を構えた。
「!」(勇者のあの位置取り…)
ゼアクスは目を細める。
理力の剣が、込められた魔力に呼応して光り輝く。
その銃口の先は―
(やはり気づいていたか)
ゼアクスは舌打ちする。
魔王がいつも、魔王の間から動かない理由。
魔王の間を破壊する魔力が備わっているとわかった瞬間、勇者を場外に追いやった理由。
気づかぬ勇者ではないことはわかっていた。
魔王の間には、何か破壊されては困るものがある。
そう結論付けるのも自然である。
そしてそれは正解だ。
しかしこれが策と言うのならば――想定内である。
ゼアクスは、魔王城の前に残しておいた影の前に瞬間移動する。
「!」
(この状況にだけ関していえば、貴様も想定内なのだろう?)
ゼアクスは右手に魔力を込めながら口元を歪める。
魔王が避けられないであろう状況で、勇者の出来うる最大攻撃を放つ。
それが圧倒的な実力差の中、勇者に残された最後の策
ただそれは、不意をつければ、の話であろう。
全力の魔力のぶつかり合いを想定した策ではないはずだ。
「 」
エインは構わず銃剣に全魔力を込め引き金を絞る。
理力の剣より吐き出される雷を纏った極大ビームがゼアクスへと突き進んだ。
対しゼアクス、手をかざし、暗黒の波動で迎え撃つ。
抵抗を無理やり突き破る蛇のようにうねるその暗黒と、光溢れる光線が激突する。
「!?」
黒の魔撃は勇者渾身の魔法攻撃を呆気なく霧散させ、その延長線上の先の勇者を飲み込み滅却した。
「……」
ゼアクスは眼前、自身の魔法攻撃により荒野と化した大地を見つめ、眉を寄せた。




