変化する勝率
「……エイン、本当のところ勝算はどれくらいなんだ?」
酒場、たまには飲みに行こうとなったルドルとエインは、個室の席で今回の会議の成功も兼ねて二人で酒を飲み交わしていた。
そんな中ルドルがそう切り出す。
「……この策じゃ7:3で上出来ってところだな」
若干酔いのまわったエインはそう答える。
「…ちなみに7は?」
「もちろん魔王達さ、魔界領域も日に日に強くなっている、それに比例して魔王も強くなっているはずだ」
「……」
エインの言葉に、ルドルは違和感を覚える。
勝算は最初話した時は6割、会議では5割、そして今度は3割と言う。
そして枕詞が〈この策じゃ〉
確かに会議での策は論理的であったが不確定要素が多いのも事実だ。
人員の確保や装備の完成も不確実だし、何より作戦の性質上確実に魔王は感づくだろう。
そして対策を練られた場合、今までの二の舞になるのではないか。という不安がルドルは拭えなかった。
勇者が戦略を立て魔王が崩す。 これは今までの戦績から言えば魔王に分があるとさえいえる。
「……2年…か」
ルドルは呟くようにそう発する。
しかしあの会議の内容がうまく行けば勝算があるのも確かだ。エインの言動がブレているのは気になるが、全くの無謀ではないことがルドルには救いだった。実際がどうであれ今はこの作戦の成功に尽力するほかない。
「あの魔王の全力は、一度だけ引き出したことがあるが、仮に今の俺の魔力をすべて放出して戦うことができたとしても、五秒で消し炭だったと思う」
エインは葡萄酒を口に運びながらそう話す。
「……その状態からさらに強くなるわけだろ?」
ルドルは顔をしかめ、目がしらに指を当てた。
エインの言葉の一つ一つに動揺するのを感じたルドルは、酔いが回っていることを自覚する。
「まぁ…希望が出来ただけ今までより何倍もマシだ。 このままだと、どちらにせよこの世界は滅ぶ」
「…なぁ」
「ん?」
「女神様は…なんで助けてくれないんだろうな?」
ルドルはボソリと言った。
「どうした? お前らしくもない、女神様は無意味な試練は与えない、そうだろ?」
「…ああ…そうだったな、すまん、変なことを言った」
ルドルは両手で顔を覆う、酔いの所為だろうか、急に気が抜けたような気分になる。
「お前疲れてるな? 最近はこの地域でもオルガの発症が増えてるって話も聞いてる」
「ああ……そうだな、毎日の治療で…すこし参ってるのかもな、すまんさっきの言葉は忘れてくれ」
「ああ…そうさ……疲れているんだ……」
――
狼型の魔物二匹と共に、洞窟を利用し人工的に作り出した密室の中に、エインは一人いた。
敵意を向け、襲いかかる魔物を防御力で無視し、エインはひたすらに瞑想を続ける。
「……ッ」
教会で目を開けるエイン。
「またきたのか」
ルドルは、半場呆れたように口をはさむ。
「……少しでも気を抜くと体が吹き飛ぶんだ」
エインは、両の手の平を見つめながら言った。
「……まだ期限まである。 そんな何度も死ぬほどハードな修行を積まなくてもいいんじゃないか?」
「……いや、そこまで時間はないよ、これが成功するかどうかも、まだわからないんだ。時間はいくらあってもたりない」
エインはそういうとすぐに踵を返し歩き出した。
「なぁ、魔力の出力を上げる修行に、なんで魔物と引きこもる必要があるんだ?」
そんなエインの背中に、ルドルは言葉を発した。
「どんな状態でも、魔力をコントロールする技術が欲しいからさ、そのうち、魔物のレベルも上げる予定だ」
「……あまり、無茶するなよ」
「魔王を倒せるかもしれないんだ、無茶でもなんでもするさ」
「……」
エインは一度城内の自室に戻ると、洞窟に籠っていた間に届いた書類に目を通す。
大半は女神教関連行事の参加打診であり、それを手早く分けると今回のプロジェクトの進捗報告書に行き着く。
人々への魔法技術の習得は順調、理力の武具は出力制御が難航しているようだった。
希少な鉱石や呪物を持って明日にでも開発現場に顔を出すと返事を書いたエインは、次の書類を見てその手を止めた。
巧妙に暗号化されたそれは、邪教徒を内部から調べさせている密告者のモノだった。
数ある邪法の一つがエインの目に留まる。
そこには、女神教の棄教によるエネルギーを利用した儀式の内容が記されていた。
その一文をペンで丸く囲むと、エインは新たな指示を手紙に書き記した。
魔王討伐作戦立案より1年半後……
「……」
エインは二匹の魔物をじっと見つめていた。
一匹の狼型は、敵意をむき出しにし相も変わらずエインに襲いかかっていた。
方やもう一匹は死んでいた。
原型を保ったまま、ピクリとも動かず。
「……まってろよ、魔王」
エインは襲ってくる魔物の頭蓋を踏み潰すと、にやりと笑った。




