苦痛の肉塊
首、腰、腕、足が、関節を無視してねじ曲がり、体が球状に歪んでいた。
曲げられた体は千切れることなく、ただ痛みの信号を発し続ける。
首が捻じれるような痛みを
眼球が千切れるような痛みを
肩が外れるような痛みを
胸が潰れるような痛みを
腕が極められたような痛みを
腰が砕けるような痛みを
股間が潰されるような痛みを
足が折れるような痛みを
体が感じることのできる全ての痛覚が全開で悲鳴を上げるが、意識が飛ぶことはなかった。
思考は激痛に支配され、それ以外のことが何も考えられない。
脳内は、鋭い痛みの信号のみが蹂躙し、苦痛からの解放を叫び続ける。
ただ、声だけは出すことができた。
今自分は痛みに耐えきれず、無様に声を上げていた。
祈るように
叫ぶように
媚びるように
そんな状態が、どれほど続いたのかわからない。
体感的には1年にも10年にも感じた。
エインを肉団子にしてから1日後、魔王は、勇者を魔王の間に運び込ませた。
魔王が指を鳴らすと、肉団子がほどけ、ぐったりとしたエインが姿を現す。
「女神の信仰を捨てる気にはなったかね」
「……ッ」
エインは痺れる脳内と解放の快感に歯を食いしばりながら、弱弱しく首を左右に振った。
「一日では足りなかったか?」
(……一日?)
あの地獄がたったの一日であったことにエインは愕然としながらも、しかしそれでも自分を奮い立たせ魔王を睨んだ。
「ほう、まだそんな目ができるのか、さすがは勇者といったところか」
魔王はどこか感心したように声を上げた。
「……」
猿ぐつわははめ、不細工な息を吐き出しながらも、勇者は魔王を睨み続ける。
「……もう良い、次だ」
エインはトロル型の魔物に引きずられながら部屋を後にする、そして独房に戻る途中で、同じように魔物に引きずられるイリスとすれ違った。