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北の大地

 魔王城、魔王の間


「我が軍はほぼ壊滅状態と言えるでしょう、この状態では次の増援は期待できません」


 ハルファの報告を聞きながら、ゼアクスは目を閉じた。


「……」


 勇者不在の間に進めた侵攻が、完全に裏目に出てしまった。


 領土拡大のため広い範囲に魔物を散らしたことで連携がうまくゆかず、勇者を前に瞬く間に駆逐された。


 この損失は確実に大魔王に報告が行き。 そうなればまた(現状でもゼアクスの優位は揺るがないとしても)ガス抜きも兼ねて呼び出される可能性が高いだろう。


 報告を続けるハルファもどこか緊張していた。 この事務報告が終わった後に本題があることは間違いなさそうだった。


「報告は以上です」


「ふむ」


「……続いて連絡です」


 片目を開きハルファを見つめたゼアクスは、続きを促す。


「シーキューブ様からのご依頼です」


「? シーキューブ様?」


 ゼアクスは残った片目を開くと、どこか驚いたように顎をさすった。


 あの魔界の頭脳がワザワザこちらに連絡?


「北方の大地に大軍を配備してほしいそうです すでにあちらには10万規模の軍隊の用意があると」


「ふむ……北の大地に何かあるのか?」


「いえ、どうもこの世界そのものに興味があるようではなさそうでした」


「……ではなんだ?」


「単なる噂なのですが、シーキューブ様はどうやら勇者の仲間となった魔物の研究に熱を上げているようです」


「その研究の延長か? ……つまり狙いは勇者か?」


「おそらく」


「大魔王様から釘を刺されたというのに、懲りないお方だ」


 ゼアクスは苦笑する。


「そういう方ですので、それで、いかがしますか?」


「断る理由も力もあるまい、お前を通したこの確認もあの方なりに余を立ててのことだろう?」


「……そうですね」


「好きにやらせれば良い、大軍を操る程度でやられる勇者ではないだろうがな」


 ゼアクスはどこか不貞腐れた様に言った。


「……魔王さま」


 そんな彼を、ハルファはどこか不審げに見つめる。


 ハルファにはゼアクスがあの勇者に拘り過ぎているような気がしてならなかった。


 勇者を取り逃がしたあの失態にしても、作戦内容は事前にわかっていたのだ。


 勇者を別の場所に移動するなどいくらでも打つ手はあった。


 あえてそうしなかったのは、あの勇者に対してどこか取り逃がしても構わないという


 そういった感情があったのは否定できないだろう。


 まるで勇者の可能性を試すような 


 そして勇者を通して自分自身を試すようなそんな感情が、ゼアクスの中に芽生えているとハルファは感じていた。


「なんだ?今何かおかしなことを言ったか?」


「……いえ、それではそのように手配いたします」

 

 ハルファはそう言うと煙のようにその場から消えた。



「北の大陸に魔物の大軍が集結しているらしい」


「北の大陸?」


 エインの自室、エインは一人ベットの端に腰かけ壁際に立つルドルへ視線を向ける。


「あの雪と山しかない不毛の大地に?」


 エインの疑問に、ルドルは頷いた。


「偵察隊の話ではその数は5万はくだらないそうだ、そんな大軍が海を越えてあの不毛地帯に塔を立てている」


「……魔王らしくないな」


 真っ白く染まった髪をかき上げ、エインはどこか思案顔だった。


「魔王らしくない?」


 どこか知り合いの話をするような響きにルドルは顔を顰めた。


「ああ、軍の展開に目的が見えない、奴が仕掛けるときはもう少し素直に動く」


「素直ね」


「基本的に対応型だからな、常に後手で力を発揮するタイプだ」


 その対応力に屈してきたエインはそう言いながら、静かに思考を回す。


「そもそも現状魔王が大軍を派兵する意味はない。時間が経つほど魔界領域は広がり奴は有利になるんだ、俺が自由な今、領土を広げることはリスクしかないだろ?」


 魔界領域、魔王城から発信されていると考えられる魔族強化の領域はそう命名されていた。


「つまり魔王の目的はそれ以外ってことか?」


 ルドルの問にエインは目を細めた。


「……目的があるとするなら、俺を誘き出す罠の可能性は高いな」


 そしてボソリと呟くように言った。


「どんな罠だ?」


「わからない……だが、いずれにしろ行くしかないだろ」


 北の大地と魔王城の距離を考えながらエインはゆっくりと立ち上がった。


(もし魔王が北の大陸いたら魔王城に転移して制圧する、そんなことは奴もわかっているはず……あの魔王が参戦してくる可能性は薄い、しかし雑魚を集めたところで結果は見えているはずだ。 やはり魔王ではない。…だとすれば別の意志か? 大軍を動かせるだけの命令権を持った別の敵……)


「ふっ」


 そこまで考えてエインは卑屈に笑った。

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