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殉教の集積

 負傷者の手当てに追われ、まるで戦場のような様相をていした教会にルドルは一人立ちすくむ。


(少ない…)


 シスターや医師に手当を受ける奪還作戦の参加者たちをざっと見渡し、ルドルは顔を曇らせる。


 約20名弱、魔王城に乗り込み何とか逃げ切った戦士の数である。


 ふらふらと歩きながら、教会に一人の男が入ってきた。


 失った腕から血を流す男をルドルは咄嗟に腕で受け止めた。


「やりましたね」


 脂汗を垂らし、痛みに顔を歪めながらも男はルドルにほほ笑みかける。


「……ああ」


 ルドルはぎこちなく男に応えながらも、彼が楽な体制をとれるように背を壁につけ腰を下ろさせた。


「これでみんなも浮かばれる……勇者様なら……きっと……」


「もうしゃべらないほうがいい」


 回復呪文を男にかけながら、ルドルは彼を制した。


「よかった……ほんとうに……」


 心の底から安堵している男の姿に、ルドルは胸が締め付けられた。


 3万人……もっといい方法があったのではないだろうかと、常に頭が考えていた。


 皆を先導したのは自分という自覚が、ルドルを苛む。 ともに苦しみを共有できたであろうカナの姿を無意識に目が探していた。


 エインは限界だった。策を練る時間はなかったのだ。 数を集めて玉砕するしか、あの短時間ではできなかっただろう。 そう自己を正当化しようとするが、でも…と別の自分が悲観する。


「本当によくやってくれた、勇者はきっとまたみんなの為に戦ってくれる」


 ルドルの言葉に安心したのか、男は気を失うように眠りについた。


「そうだろ……エイン」


 ルドルは空に呟く。


 そうだよな……カナ



「……」


 城、エインの自室。


 キングサイズのベットに腰を下ろし、闇の中壁に大きく掲げられた太陽の紋章をエインはぼんやりと見つめていた。


 太陽の紋章、女神信仰のシンボルであり信仰の象徴である。


 魔王城から抜け出して、一か月が経とうとしていた。


 この一ヵ月の魔王軍との戦闘でエインが感じたことは、魔物が強くなっている、ということだった。


 正確に言えば、強い魔物が出る範囲が広がった。 と言うべきだろう。


 つまりそれは、魔王城を中心に展開されている結界のようなものが広がっている、ということだった。


(だから……それは……あの魔王が全力で活動できる範囲が広がっているということだ)


 エインの体が、一度ブルリと震えた。


(このまま、均衡を保つこともできないのか……魔王が目の前に現れるのも時間の問題……くそ)


 一度震えだした体はエインの制御を外れ、ずっと震え続けている。 何とか抑え込もうと両手で肩を抱くが、まったく効果はなかった。


 震える口で、エインは無意識に口を開く。


 女神の信仰を捨てる方法は簡単だった。


 女神を貶める言葉を吐けばいい。


 想うだけでは駄目なのだ。


 その想いを心の底から声に出すことで、初めて信仰を捨てたことになり女神の加護を失うことができる。


「お――」


 声を発し始めた口を、エインはとっさに手で塞いだ。


 かつてともに旅をした仲間達が、自分の所為で苦しんだ人たちが、自分の為に死んだ人々が


 勇者にそうさせたのだった。


「くそ……くそぉぉぉ」


 口を手で塞ぎくぐもった声を上げながら、エインは涙を流した。




 勇者不在の半年の間に、魔物の進撃は行われ、現状世界の5割は魔族の手に落ちた状況であった。


 しかし、解放された勇者の働きにより、魔物の勢力図は瞬く間に後退する。


 勇者は転移呪文により世界中を移動し、極限レベルの剣術と魔術で魔物に応戦した。


 魔界から無尽蔵に送られ数を増やす魔物であるが、その数が千であろうが万であろうが所詮下級魔族である魔物など勇者の敵ではなく、それこそ蟻を潰すように瞬く間に駆逐されていった。


 各拠点に建造された魔族の塔は勇者の雷撃呪文の一閃で吹き飛び、十万の数で進軍していた魔王軍も、たった一人の勇者を前に一時間と持たず全滅した。


 しかし勇者は、ただの一度も魔王城へ近づこうとはしなかった。



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