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絶責の声

「母さん 僕勇者に選ばれたんだ」


 女神様からの啓示を貰い、真っ先に報告した相手は母だった。


 そう言った時、母は優しく微笑んだ。


「それは大変立派なことね、母さん誇らしいわ、エインあなたはその力で何をしたい?」


「みんなを守りたい、困っている人を助けたい」


 母の温かい手が自分の頭を撫でた。


「だからきっとあなたが選ばれたのね」


 その時の母の微笑みと言葉は、今でも鮮明に覚えている。


 その一年後、母はオルガに感染し死亡した。


 感染防止のためのガラス張りの部屋の中で、自分の目の前で母は苦しみ泣き叫びながら一人無残な姿で絶命した。


 その凄惨な光景を、血が滲むほど強く握った拳の痛みと共に今でも覚えていた。


 魔物に対する憎しみ


 こんな悲しみや苦痛を他の誰にもさせたくないという願い


 それが固定化されたのが、この時だったのだろうと思う。


 それが自分の、勇者エインの始まりだったのかもしれない。



 声が、聞こえる、うごめくような、いびきのような声


 牢屋に響く声。


 その正体を、エインは知っていた。


 エインは血が滲むほどに拳を握りしめて、苦悶の表情でその声を聴き続けた。


 牢が、開く。


「入れ」


「……」


 ぶるぶると体を震わせながら、まだあどけなさの残る少女が勇者の牢に入った。


「……ッ」


 エインは目を見開き、魔王を見る。


 まるで懇願するような無様な勇者の姿を前にゼアクスは口を開く。


「貴様が信仰を捨てれば、今すぐにでも解放してやる」


 ゼアクスはそう言ってニタリと笑うと、牢を後にした。


「いびき…?」


 牢に響く声に、少女は怪訝な顔でそうつぶやく。


(違う)


 エインは否定する。


 この声の主は、昨日まで自分の世話をしてくれた女だった。


 昨日魔王が牢を訪れ、そして


 そして……


 魔力で女の体を無理やりゆがませ、球体の肉団子に変えたのだ。


 痛覚はそのままに。


 一度経験したことのあるエインはわかる。


 その苦痛は想像を絶する。それが継続して続くのだ。


 生きている限り、魔王が解こうとしない限り。


 この声も、最初は悲鳴のように力強かった。


 しかしそれも今、うめくような軋んだ声に変っている。


 肉団子になった女は、奥の牢獄に移動させられていた。


 ただ声だけが、エインの耳に入るように。


 苦痛の声が。


(あの優しい人を……)


 エインは思考する。


 俺が信仰を捨てるまで。


 魔王はこれを繰り返すのだろう。


 次はこの少女というわけだ。


 この少女にも見覚えがある。


 やはり、かつて救った町の村長の娘だ。


「……勇者さま…せっかく救っていただいたのに…こんな形で再開してしまい、申し訳ありません」


 少女から感じられる優しさに、エインはただ震えた。




勇者拘束三ヶ月後


 一向に前進しない国の計画に見切りをつけていたルドルは、勇者連合と連絡をとるようになっていた。


 勇者連合、組員は主に冒険者で構成されており、勇者が救ったとされる町や村に出向いては組員を増やしているようだった。


 その主目的は勇者への恩返しであり、組員は全員何かしら勇者へ恩義のある者達であるため勇者の仲間であるルドルの接触は歓迎された。


 代表であるカナを中心に複数の幹部と話しあい、計画は今までが嘘であるかのように効率よく組み上げられていった。


 その背景には皆が勇者に心酔していることと、確率の高いとされる方法が単純だったためでもであった。


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