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弛緩した意志

「勇者様、ささ」


 女はスプーンですくった粥を、エインの猿ぐつわの方へ差し出す。


 エインの口を拘束している猿ぐつわは、中央に貫通した穴がありそこから食物を通すことができた。


 穴を通して流し込まれる粥を、エインは飲み込む。


 毎日一度、エインと女がいる牢獄には食事が出された。 


 毎日変わらず二枚の食器に粥が乗せられている。 味のない粥であり、ただ栄養を取るためだけのものだ。


 両手両足を拘束されたエインは、それを女の介護を借りて食べていた。


 そんな生活を続けて三日、その日エインは気が付いた。


「ささ、勇者様」


 女の差し出す粥を、エインは首を振り拒んだ。


「勇者様…まだ半分しか食べておりませんよ」


「……」


 違う、エインは気が付いていた。 二枚の食器に入れられた粥、女はそれを取るとき、隠れるように自分の分をエインの食器に移していることに。


 それでも少なすぎる量だ。


 痩せた女を、エインを目で制した。


「……お気づきになりましたか」


「…」


 エインはうなずく。


「お優しい……こんな状況でも、勇者様は…やっぱり優しいのですな」


「…」


「勇者様…おらを覚えておいでですか?」


 女の問いに、エインはうなずいた。


「ほんまですか…うれしかぁ」


 女は顔をほころばせた。


「……」


「魔物に困ってたおら達を、救ってくださった恩、微々たるもんですが…返させてくだせぇ」


「…」


 エインは首を振り、女をにらむ


「……勇者様」


「……」


「…ありがとうございます」


 女は、あきらめたように、粥を自分の口へ運んだ。



 二週間は、何事もなく過ぎた。






勇者拘束一ヶ月後


 魔王軍の進軍は日に日に激しさを増し、勇者の敗北は疑いようのない事実となっていた。


 この段階になれば救出派の勢力が優勢となり、世論の後押しもあってか勇者奪還計画が立ちあがる。


 しかし様々な意見が出るが、みなどこかしり込みしていた。 あの勇者が太刀打ちできない魔王、その敵の中心地へと兵を送り、果たしてどれほどの被害が出るのか想像もできなかったためだ。


 最悪の場合いたずらに兵力を減らしなんの成果も得られない事態も容易に想像できた。


 国ごとに有志を募るが、どこの国も人員が足りていると言い難く、またどれほどの兵力が必要かもわからないとあっては、話がまとまるはずもなかった。


 どこかで、新しい勇者の出現を待つべきではと言った意見も出ていた。


 計画は一行に前進しなかった。


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