夢ノ終ワり
「オルガってのは、要するに超小型の魔物だ」
教会、長椅子に勇者達を座らせその前に立ったルドルが話す
「魔物? リールみたいな?」
そう言ってイリスは、足元にすり寄るリールを撫でた。
「くうん」
「ああ、イメージとしてはそれであってる、そいつらは魔物の体内では無害な存在だが、一度人間の体内に侵入すると変身し、宿主の細胞を攻撃するようになる」
「zzz」
「……」
イリスの横、ひじ掛けの持たれよだれを垂らしながら舟をこぐアウルに、ルドルは目を細めた。
「オルガって、リールの中にもいるのか?」
「ああ、いる」
エインの問にルドルが頷いた。
「え゛」
イリスは反射的にリールをなでていた手を引っ込めた。。
「……」
リールがどこか悲し気にイリスを見詰めた。
「まあただ触れる分には問題ない、オルガ自体は空気中での生存能力は高くないからな、魔物の唾液や血液などを口から摂取するくらいじゃないと、魔物からの感染は起こりえない」
耳を倒してしょげるリールを無視して、ルドルは言葉をつづけた。
「ではなぜ、人々はオルガに苦しんでいるのでしょうか?」
ランは不思議そうに尋ねた。
「それは、変身したオルガだからだ」
「んー? 頭がこんがらがってきたぞー」
ルドルの返答にイリスは目を回したように上を向いた。
「人間の体内に入りこみ、増殖したオルガ…便宜上オルガ2と呼ぶが、こいつは人間の呼吸と共に外に飛び出し、他人の体に入りこむことができる」
「…空気中での生存能力が高まるってわけか」
エインが言った。
「そうだ、いつまでも空気中を漂っているわけではないが、感染者を増やすには十分な時間だ」
「はいはい! 質問であります! そのオルガ2が魔物に感染したらどうなるの?」
イリスは手を上に掲げ、ルドルに尋ねる。
「オルガ1に戻る」
「は?」
「原理は一切不明だ、おそらく魔物の仲間意識に近いんじゃないか?」
「なんか……すごい違和感、そんな都合のいい生物っているの?」
「実際いるじゃないか」
「でもさ、その性質はオルガが生きていく上でどんなメリットをもたらすわけ?」
「快適な宿主を守るための防衛行動とか、いくらでも理由は考えられるが……そんな言葉は、人間から見れば大半の魔物に当てはまるだろう」
「まぁそうなんだけどさ…」
イリスは何やら考え込んでいる。
「お兄様、そろそろ、私たちに教えていただけませんか?」
ランがおずおずと言葉を発した。
「おお、そうだった、横やりが入るもんだからつい長引いちまったな」
「勝手にしゃべりだしたのはお前だろうが」
エインがボソリと呟く。
「お? なんだ? お前らが何も知らないアホヅラしてるから教えてやったんじゃないか」
エインの態度にルドルのこめかみに青筋が浮かんだ。
「…ほほう、喧嘩ね、買うわよ、アウルが、さあ目覚めなさいあなたの出番よ」
イリスは傍らで寝むるアウルの肩ををペチペチ叩いた。
「ふが……なんだ? 飯か?」
「アウル……お前と戦うのはいつ以来だろうな? 人のありがたい話を前にぐうぐう眠りやがって」
「お? なんだ? 喧嘩か?」
アウルの目つきが一瞬で鋭くなった。
「なんでこんな時だけ察しがいいんですか! 違いますよ! 旅立つ私たちに、お兄様がオルガの解毒魔法を教えてくれるって話だったじゃないですか!」
火花を散らすルドルとアウルの間に割って入り、ランが叫んだ。
「ああ、そうだったっけ」
ルドルが言った。
「ああ? そうだったっけ?」
アウルが言った。
「オルガの感染対策はこれからの旅でも必須だ、だから俺とイリスも覚えたいって言ったのは勇者さまですよ、この場をなんとかおさめてください」
ランは咄嗟にエインへ助けを求める。
「…ああ、悪かった…ちょっとドヤ顔の長話にイラッとしただけで…申し訳なかった」
「はは、エイン、まず歯を食いしばれ、話はそれからだ」
……
エインは、目を覚ました。
場所は…牢獄の中、格子の向こう側に毒々しい色の花が見える。
エインは戦慄した。
この場所で明瞭な意識があることに、こちらに手をかざすボロボロの神父の姿に、その傍らで無表情にこちらを見下す魔王に
エインは視線を自分に向ける。砕け散った装備の破片が床に散乱している。 解呪呪文で装備をはがされたのは明らかだった。
(…と、いう事は…)
「すまない…勇者」
猿ぐつわをかまされた口を開き、エインは愕然とした表情で神父の男ロドラルを見つめた。
信じられなかった、女神に忠誠を誓った神父が、解呪呪文を会得すほどに信仰深い神父が、魔王に寝返るなど…
ロドラルはエインの心臓に手をかざす。
「!!」
エインは知っていた、その行為の意味を
心臓に注がれる微弱な聖魔法
それが心臓にポンプされる血流にのって全身を行き渡り、体内のオルガを死滅させた。
「……ッ」
体のだるさが嘘のように消えてゆく。
エインはただ茫然とロドラルを見つめた。
今になっても信じられない。
この目が見たものを確信できない。
なぜ? なぜ? なぜ?
「……」
ロドラルは勇者の視線か逃れるように顔をそらすと、口を開いた。
「私は…間違っていない…女神様は…見てくださっている……」
「!?」
「勇者…これからあなたに与えられる試練を乗り越えれば、きっとあなたも私のことを理解してくれるだろう…………」
ロドラルはそれだけつぶやくと、逃げるように牢から出て行った。
ロドラルとすれ違うように魔王が勇者の前に立つ。
「……ッ」
エインはおびえたように魔王を睨む。
そんな勇者に対し、ゼアクスは不敵な笑みを浮かべた。




