十三魔王族
薄緑色の液体が満たされたガラスの水槽が並んだ研究室を思わせる部屋、その水槽には魔物や植物、人間などが収められている。
その中で眠る狼型の魔物――勇者の仲間であるリールを見つめる一人の魔王がいた。
肩にまで届く黒髪を後ろで一つにまとめ、細い目でそれを見つめる賢眼の魔王シーキューブ。
対象の生体反応を光で示す水晶を見つめる彼は、どこか思案顔だった。
「おいシーキューブ、時間だぞ」
そう言いながら彼の部屋に入る銀髪の男、銀髪の魔王シルバレイ
「ああ、もうそんな時間かい」
「……またそれを見ているのか」
シルバレイは水槽に入った狼を見つめ顔を顰める。
「なかなか興味深いサンプルだからね、いくらでも見つめていられるよ」
「……次元扉の拡張、神界への侵攻方法、お前の課題は山積みのはずだがな」
シルバレイは呆れた様にため息を吐く。
「…いやね、正直そのテーマは今頭打ち状態なんだよ、ここで新しいテーマを入れて別の視点を持ちたいのさ」
「大魔王様がいつまで目をつぶってくれるかな?」
「…決して僕たち魔族にとっても無駄ではないと思うけれどね」
シーキューブはそう言って立ち上がる。
「さて、今日はゼアクスが帰ってくるのだっけ?」
「ああそうだ、どうやら勇者ごときに遅れをとっているらしい、まぁ落ちこぼれの奴らしいと言えばらしいがな」
シルバレイは嫌悪感を顔に出していた。
「…まったく、嫌になるねぇ」
シーキューブは今回の集合の意図に察しがついていたため、気だるげだった。
「ああ同感だ、同じ魔族として恥ずかしい限りだ」
「……」
シーキューブは横目にシルバレイを見ると、すぐに視線を前へ向け大魔王の間へと歩き始めた。
「……あーもう!」
大魔王城を囲むように配置された7つの石造りの神殿、そのうちの一つの入り口から一人の女型の魔王が不機嫌に出てきた。
そんな彼女を待ち構えるように立つ二人の魔王。
色素が欠落し肌や髪が恐ろしく白い男、ただ色の欠落した体質の中で魔族特有の赤い目だけが唯一の色である色欠の魔王アルファブレイス。
身長130cmほどの子供のような外見、眉の上で切りそろえられた青髪を揺らし、手を頭の後ろで組む童子の魔王ジュガン。
「あらあら二人もそろってどうしたのかしら?」
豊かな赤髪をかき上げ、三白眼で二人を不思議そうに見つめる女型の魔王ガルウィ
「あーあ、やっぱり忘れてるよこの女」
ジュガンは露骨に顔を顰め、舌を出した。
「今日は大魔王様から招集がかかっていただろう? オルワルドが君は忘れているだろうからと気を使ってくれたのさ」
尊老の魔王オルワルドの名前を出しアルファブレイスは淡々とした様子で説明をした。
「あらそれは失礼、もうそんな時間かしら?」
ガルウィは今思い出したといった様子で口に手を当てる。
「……で? 首尾はどうだったの?」
クルリと大魔王城へと歩き出したジュガンは、ガルウィに尋ねる。
「駄目ですわね、遠隔ではどうしたって反応が遅れますし、そもそも送り込める体の強度がまだまだ弱すぎる」
ジュガンに続きながらガルウィは応える。
「へぇ、いつも道りだね、まぁ僕はこの間天使を一匹殺したけど」
ジュガンはどこか得意げに言った。
「……あらあらそれは良かったですわね、よっぽど間抜けな天使だったのでしょう」
「……戦略だよ、一匹の魔物にこだわらずもっと大局的に盤面を動かせば単戦力なら押しつぶせるわけ、まぁガルウィには分からないだろうけど」
ガルウィの返答にジュガンがむっとした様子で応えた。
「なるほど勉強になりますわ。この間大群を勇者ごときに失った方の発言とは思えませんけど」
ガルウィは両手を合わせると頬の横に持っていき、わざとらしい笑みをジュガンへ向けた。
「二人ともその辺にしておきなよ、侵攻はまだまだ検証段階なんだ、二人のやり方どちらが正しいなんて答えの出るはずがないだろう」
アルファブレイスが手慣れた様子で仲裁に入った。
「だけどこの女、ずっと無謀な戦力投入を続けるじゃないか、それも最新型の魔物ばかりを一番難度の高い世界に送り込んでる」
「わたくしのやり方に不満でも?」
「あるからこうやって話してあげているんだけど?」
それからも不毛な言い争いを続ける二人をやれやれと聞き流しながらアルファブレイスが先頭を歩く。
そして目的地に着くと口を開いた。
「ほらもう着いたよ、大魔王様の御前だ、議論はその辺にしておいたほうがいい」
アルファブレイスはそういうと二人の反応を待たずに大魔王の間の扉を開けた。
中ではすでにほかの9名の魔王はそろっており、後は今回の主賓が来るのを待つばかりとなっているようだった。




