表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/68

交錯スル暴静

(勝てる)


 狂気に飲み込まれそうな意識に歯を食いしばり、エインは魔王へ向け刃を振るう。


 片腕を失い、連戦の疲労も見える魔王に対し、エインは勝利を予感した。


 エインの怒涛の攻撃に対し魔王は片腕では防ぎきれず、防御を抜けた刃が肩や頬、足を掠めてゆく。


 確実に押している、ダメージも入っている、今までにない手ごたえだった。


(勝てるっ!) 


「……」


 魔王の鮮血が飛び散る。


 傷は浅い、しかし確実にダメージを蓄積させている


 エインの連続斬撃を、魔王は片腕でいなし、弾き、躱す。


 躱す


 避ける


 弾く


 そらす


 いなす


 防ぐ


 受け流す


 ……


「……ッ!」


 魔王の防御行動を抜け、傷は入る、しかしいつまでたっても致命傷に届かない。


 しかも先ほどから、魔王はまったく攻撃に転じようとしない


 ざわりと、勇者の脳髄を狂気の黒い靄が撫ぜた。


 その一瞬、視界が赤く染まる。


 しかし、歯を食いしばる。


 狂化状態では、おそらく影の瞬間移動に対応できない。


(ここで決めるんだ。 この最高の状態で、こいつを――魔王を――)


 剣技では埒が明かないと察した勇者は、大きく後方へと飛ぶ。


 魔王と距離が開く、しかし案の定魔王の追撃はなかった。


(こちらが意識を失うのを待ってから攻勢にでるつもりなのだろうが――そうはさせない)


 魔王の思惑を読み切ったエインは充分な距離をとると、呪文を叫んだ。


「極大雷撃呪文!!」


 詠唱と共に、勇者の両手が突き出された。


 腕の動きと連動するように放たれる強大なプラズマが、魔王へ向け放たれる。


「……」


 対し魔王、右拳に黒い魔力を纏うとその腕で雷を打ち払った。


 鋭い雷鳴と放電、周囲に散る衝撃波を突き抜けエインが魔王へと矢のように迫る。


「!」


 その迷いない動作にどこか思惑の匂いを感じた魔王は、エインから距離をとるためあらかじめ分離しておいた影を利用し影移動を発動した。


「――ッ」


 魔王が消えるコンマ数秒前、エインは最大出力で放射雷撃を放った。


 周囲を冒す紫電と共に稲光が空間を覆う。


「――な」


 光が影を弾き飛ばす、移動の母体を侵され弾き飛ばされるように吹き飛ぶ魔王。


 意図せず空中に投げ出された魔王を視界の端でとらえたエインは呪刀を振るい、雷撃を纏った真空刃を飛ばした。


「っ」


 空中、魔王は手のひらでそれを受ける。


 着弾点を中心に稲妻を纏った風が吹き荒れ、受けた右手から血を噴き出しながら魔王の体が乱回転する。


「……ッ」


 魔王は咄嗟に周囲に光球を30発生成する。


 現状の魔王には勇者の位置を把握できず、この球を放射状に射出することでけん制するつもりだった。


 しかし勇者、なんの逡巡もなく魔王へ向け地面を蹴る。 そして一瞬で魔王との距離を潰し、魔王を守るように展開する光球を無視して切りかかった。


「!」


 光球が爆裂する、それが残りの弾にも誘爆魔王の間中空で煌々と大爆発が巻き起こった。


「――~~~~ッ」


 中空を漂う黒い煙からはじき出される魔王。 展開と射出そんな時間すらなかった。。 そうだ勇者には時間がない事を魔王は思い出し、愚かな自分の悪手に顔を歪める。


 爆煙の中心、黒い煙が弾かれるように霧散する。 魔王の斜め上、黒い煙を体から上げながらも両手に光り輝く紫電を纏う勇者、その手に持つ呪の剣と刀が光の刃に包まれてゆく。


「……っ」


 エインは魔力で体を弾き、魔王へ刃を振り上げる。


「――魔王ぉぉぉォッ!!」


「―――勇者風情がぁぁ」


 炎のように揺らめく黒い魔力を放出する魔王の右拳と勇者の光刀が激突する。


 闇と光が混じり合うように渦巻き、弾かれたように飛び散る。余波が蛇のように空間をうねり、床や壁に傷が走った。


 その衝撃にエインは上方へ吹き飛び、魔王は床に叩きつけられた。


「……っ」


 何とか体勢を保ち、後方へと向かう体の運動を止めた魔王は勇者を探す。


 上、天井に足を付くエインを魔王の視界が捉えた――その刹那の先には魔王の眼前に移動している


「――ッ」


 天井を蹴り飛ばし自身のダメージも鑑みずに魔力でブーストした加速度は、魔王に思考する隙を与えなかった。


(これで――)


 その手には光を纏った剣―――


(終わりだァァぁアあああアッ)


 雷刃が魔王へ


 アドレナリンの上昇と共に、エインの意識が狂気に飲み込まれた。


 しかし関係なかった。


 ここまでくれば、もはや意識の有無は関係ないのだ。


 この刃が届けば――勝つ


 魔王の拳が、エインの刃と交錯するように放たれる。


 クロスカウンター


 それはエインの刃が魔王に届く――よりも速く


 エインの顔面を打ち抜いた。


(勝――)


 エインは、頭を起点に体を錐もみさせさせながら吹き飛び、地面を何度もバウンドし、壁に体を打ち付けた。


 強烈なカウンター攻撃である。


 それはエインの意識を削ぐのに十分以上の成果を上げた。


 体をピクピクと痙攣させるが、勇者は倒れた姿勢のまま起き上がる気配はなかった。


(……信じられん)


 魔王は冷や汗をぬぐう。


 危なかった。 少なくとも勇者との戦闘で命の危険を感じたのは初めてである。


 そんな状況にまで追い詰められたことに、魔王は戦慄する。


 あの絶望的な戦力差がここまで詰まることに、驚きを隠せなかった。


 確かに想定外であったわけではない、しかしそれが目前に迫ったことで、どこかでまだ自分が楽観していたのだと思い知らされた。


 認めるだけでは足りなかったのだ。 想定だけでは足りないのだ。


 この勇者は、確実に我ら魔族全体の脅威となりうることを


 魔王はこの時、初めて確信した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ